北海道新幹線の開業が待ち遠しいけれど、その約1年後から消費税が10%になる。北海道に行くなら2016年度中にきっぷを買って、「消費税に駆け込み乗車」といきたいところ。ところで、日本で消費税が始まるまで、鉄道の分野ではグリーン券とA寝台券に特別な税金が課せられていた。いったいなぜ、課税されたのだろうか?

グリーン車に特別な税金が課せられた時代がある(写真はイメージ)

1989年4月1日の消費税法施行以前、「通行税」という税金がグリーン券とA寝台券に課せられていた。課税額は料金の1割。本誌連載などでたびたび引用している「JTB時刻表1978年10月号」を開き、きっぷのルールを説明するピンクのページを探すと、393ページにグリーン券と寝台券の項目がある。それぞれの料金額のそばに、「通行税1割を含む」と書いてある。

当時の特急・急行列車用グリーン料金は、100kmまで1,000円、200kmまで2,000円、以降、200kmごとに1,000円ずつ加算されて、最高額は801km以上の6,000円だった。いわゆる「内税表記」だから、1,000円のうち、900円が国鉄の取り分で、100円が税金だった。普通列車用グリーン料金は100kmまで700円、101km以上は1,500円だ。A寝台料金は個室が10,000円、2段式の上段が7,000円、下段が8,000円。このうちの1割が通行税だった。ちなみにこの料金表には連絡船用のグリーン料金も記載されている。青森~函館間の自由席は1,000円、宇野~高松間の自由席は400円だった。懐かしく思うかたもいらっしゃるだろう。

通行税の歴史

消費税は国民の誰もが消費金額について等しく負担する。消費税の施行前は、物品税という税金があり、日常生活では無くてもいいもの、いわゆる「ぜいたく品」に課せられていた。自動車、毛皮、電化製品、宝石などで、製造者が出荷するときに課せられたため、小売価格に含まれていた。ただし、「ぜいたく品」の判定によっては、揉め事も多かったという。たとえば音楽のレコードは課税されたけれど、童謡は非課税となっていた。『黒猫のタンゴ』『およげたいやきくん』などが議論の対象となったようだ。

通行税もグリーン車やA寝台など、ハイクラスの座席や寝台に課せられたため、「ぜいたく税」として物品税と同様にみられていた。しかし、歴史をさかのぼれば、当初は戦費を調達するための特別税であった。通行税の新設は1905(明治38)年で、座席の等級にかかわらず、すべての乗車券に課税されていたという。ちなみに、このとき相続税も始まり、石油、タバコ、塩も課税されている。

これらの税は戦争終了後に撤廃されるはずだったけれど、財政難により継続された。ただし、批判も多かったため、個別の税に対して減免するなど、法改正が行われた。通行税についしては1940(昭和15)年に通行税法が施行され、三等運賃は非課税、一等、二等運賃に2割の課税となった。1962年に再度改められ、課税額は1割となった。その後、国鉄の乗車券は等級制が廃止され、普通車とグリーン車に改められると、グリーン料金のみ課税された。つまり、1962年から1989年までの27年間にわたって、2等運賃、そしてグリーン料金は通行税1割だった。これが通行税をぜいたく税と考えられた理由といえる。

1989年に施行された消費税は、税を公平に「広く浅く」課税する目的だった。物品税や通行税の「ぜいたく税」は、所得税の累進課税と趣旨が似ているため、消費税導入をきっかけに撤廃された。通行税は1割、導入当初の消費税は3%だったから、消費税の導入にあたって、グリーン料金とA寝台料金は実質的な値下げとなった。ただし、普通乗車券などは消費税が加算されて実質的な値上げになっている。

2017年の消費税10%に向けて、軽減税率の話題を耳にするようになったけれど、実施されたとしても生活に密接な物品に絞られるようだ。残念ながら、鉄道の乗車券や料金は10%課税となりそうだ。

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