10月14日は「鉄道の日」。これは鉄道ファンの基礎知識だ。なぜ10月14日かといえば、日本最初の鉄道が1872(明治5)年9月12日に開業したから。当時は旧暦で、これを新暦にすると10月14日になるというわけだ。10月は全国で鉄道に関するイベントが多い。東京の日比谷公園で「鉄道フェスティバル」が開催されるし、全国で鉄道会社による車両基地公開などが行われる。最近はイベントが多すぎて分散開催傾向になっている。9月から11月まで、週末は全国どこかで鉄道イベントが開催されている。

10月は各地で鉄道イベントが開催される(写真はイメージ)

気候の良い時期でもあり、鉄道ファンとしてはイベントがたくさんあってそわそわする。しかし、肝心の10月14日が週末とは限らない。10月14日が平日で、イベントがないときはどうするか? 鉄道ファンなら会社や学校を休んでお祝いしよう。鉄道旅行に出かけるとか、鉄道の本を読むとか、鉄道の映画を見るとか。大好きな鉄道の誕生日だから、正々堂々と休もう! ……と考えるのは筆者だけだろうか(弱気)。

ところで、こんなに大切な「鉄道の日」だけど、なぜ明治政府は9月12日という中途半端な日に鉄道を開業させたのだろう? ちなみにその日は月曜日。週末だからというわけではなさそうだ。そもそも当時は日曜日や週末という考え方もなかった。日曜日を休みとする習慣は1876(明治9)年からだ。

中途半端な9月12日ではなく、もっと早めて9月1日のほうが区切りが良いし、10月1日ならば当時の会計年度とも一致する。当時の会計年度は米の収穫に合わせて10月から9月までだった。現在の4月から3月までという会計年度は1886(明治19)年から始まっている。

9月12日にはどんな意味があったかというと、じつは深い意味などなかった。明治政府が当初予定していた開業日は9月12日ではなく、9月9日だった。それが悪天候のために延期され、9月12日になったという。このエピソードは、当時の様子を取材したイギリスの新聞「イラストレイテッド・ロンドン・ニュース」の1872年12月7日号に記載されている。イギリスは日本に鉄道技術を伝えた国で、日本初の鉄道開業に注目していたようだ。

当初の開業予定日だった「9月9日」には理由がある。現在の日本ではなじみがないけれど、重陽(ちょうよう)の節句である。節句は奈良時代から伝わる日本の伝統のひとつ。奇数が並ぶ日は縁起が良いと大切にされた。後に江戸幕府は1月7日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日を5節句と定めて祝日とし、重要な行事を行っていた。9は最も大きい奇数だから、9月9日は最も縁起が良いと考えられた。

文明開化の象徴ともいうべき鉄道の開業に、9月9日は最もふさわしい日だった。せっかくその日を選んだのに悪天候で延期とは、当時の役人たちも残念だっただろう。

5節句はいまでも私たちの生活の節目になっている。1月7日の「人日(じんじつ)」は「七草の節句」とされ、七草粥を食べる習慣がある。3月3日の「上巳(じょうし)」は「桃の節句」、5月5日の「端午(たんご)」は「菖蒲の節句」、7月7日の「七夕(しちせき)」は「たなばた」だ。ひなまつりやこどもの日、七夕祭りの由来になっている。

9月9日の「重陽」は「菊の節句」とされていたけれど、これだけは現在の習慣から遠ざかってしまった。旧暦から新暦に変わり、菊の時期と合わなくなったからという説があるけれど、福井鉄道の越前武生駅近くでは「たけふ菊人形」が開催されている。10月1日から11月8日まで、「たけふ菊人形入場券付 1日フリー乗車券」も販売中だ。菊の節句にちなんだお祭りといえそうだ。

9月9日は新暦の10月11日。2015年の10月11日は日曜日で、日比谷公園では前述の「鉄道フェスティバル」が開催される予定。他にも「東京駅社員食堂一般開放(東京駅)」「SLフェスタ(大井川鐵道)」「ほくてつ電車祭り(北陸鉄道)」「がちゃこんまつり2015(近江鉄道)」「くまてつ祭り(くま川鉄道)」などのイベントが予定されている。

10月14日だけではなく、10月11日の「幻の鉄道の日」も、鉄道趣味に浸って楽しもう!

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