千葉県の北総鉄道は割高な運賃で有名だ。現金できっぷを購入した場合を比較すると、北総鉄道の初乗り運賃は200円で、相互乗入れ先の京成電鉄の140円より4割以上も高い。ちなみにJR東日本も初乗り運賃は140円だ。ただし、初乗り運賃の200円に関しては、高すぎるとはいえない。名古屋市営地下鉄などで200円という例がある。

北総鉄道の高額運賃の理由は……

ところが、10km以上の運賃を比較すると、北総鉄道の高額運賃がはっきりわかる。千葉ニュータウン中央~京成高砂間は23.8kmで740円。この距離は京成電鉄の京成上野~海神間23.6kmとほぼ同じ。運賃は370円で、北総鉄道の半分だ。たしかに割高だ。

北総鉄道の利用者にとって、「運賃が高い」と感じる理由はもうひとつある。都心に向かう直通列車は、北総鉄道、京成電鉄、都営浅草線の3社にまたがるため、それぞれの鉄道会社の運賃が加算されてしまう。たとえば、千葉ニュータウン中央~日本橋間は1,110円もかかる。一方、京成成田~日本橋間は、京成電鉄と都営浅草線の2社で1,000円ちょうどだ。ほぼ倍の距離にもかかわらず、京成成田駅からのほうが安い。

北総鉄道各駅と都営地下鉄各駅間を利用する場合は割引制度が適用されている。京成電鉄と都営地下鉄の運賃からそれぞれ10円引き、北総鉄道は新柴又~松飛台間発着の場合は10円引き、大町~印旛日本医大間発着の場合は20円引きとなる。つまり、上に挙げた千葉ニュータウン中央~日本橋間の運賃には、40円の割引が適用されている。しかし、1,000円以上の運賃に対して40円の割引は焼け石に水ともいえる。

高額運賃の理由は建設費の借金

ローカル鉄道の運賃が高い理由は赤字経営だから。できるだけ運賃収入を増やし、それでも赤字になったら沿線自治体が補填するという事例が多い。しかし北総鉄道は営業収支は黒字だ。2012年度の純利益は約26億円。高額運賃でも乗ってくれる利用者のおかげである。黒字なら、少しは運賃値下げで還元しても良さそうだ。

ところがそうはいかない。北総鉄道は膨大な借金を抱えており、せっせと金利を支払い、元本も少しずつ減らしている。2012年度の返済額は約33億円で、返済に足りない分は日本政策投資銀行から借りている。黒字でも儲かっているわけではなく、まだ借金をしている状態だ。これでは運賃を下げるどころではない。

なぜ北総鉄道が膨大な借金を抱えているのか? その理由は高額な建設費とそのための借金だ。北総鉄道は当初から京成電鉄と都営浅草線に乗り入れる計画だった。千葉ニュータウンと都心を結ぶ路線の一部という位置づけであり、都営浅草線に乗り入れるためには8両編成に対応した設備にする必要があった。千葉ニュータウンの規模にも対応する必要があった。だから建設費が高額になっている。

ところが、千葉ニュータウンの開発は停滞し、見込み通りに入居者が増えなかった。用地買収が難航した上、同時期に誕生した他の振興住宅地と競争となったからだ。その結果、北総鉄道の利用者も見込みを下回り、建設費を返すどころではなくなってしまったという。千葉ニュータウンの住人が増えなかったせいで北総鉄道の運賃は高くなり、こんどは運賃が高いせいで千葉ニュータウンの人気が低迷するという悪循環になってしまった。

それでも、北総鉄道は京成電鉄の「成田スカイアクセス」の一部となっていて、「スカイライナー」など成田空港行の列車の運賃収入が増えている。2012年度は開業以来初めて債務超過がなくなった。このまま順調に借金を返し続けていけば、いつかきっと運賃を下げられる日が来るかもしれない。

北総鉄道といえば、現在、子供たちに人気の『烈車戦隊トッキュウジャー』のロケ地でもある。北総鉄道はロケ地の提供にも積極的で、テレビゲーム『電車でGO』のCM撮影が行われたこともある。「利用客が少なく、迷惑をかける相手も少ないから」と皮肉を言う向きもあるけれど、これもコツコツと売上げを積み上げて借金を返すためといえそうだ。