日増しに寒さが厳しくなってきた。電車に乗ると暖かくてホッとする。でも、混雑した電車は暖かさを通り越して暑い。外は寒いのに車内が暑く、電車で汗をかいて、外に出ると冷やされるから風邪をひきそうだ。そういえば、電車に「弱冷房車」はあるけど、「弱暖房車」はない。どうしてだろう? 暖房が弱めの電車があってもいいはずだ。

JR東日本は暖房を切っている

どうして「弱暖房車」がないのか? 日本で最も通勤電車を運行していると思われるJR東日本に聞いてみた。

「弱暖房車」がほしい。むしろ冷房してほしいけど……(イメージ画像)

「まず、弱冷房車の経緯をご説明いたしますと、"涼しい"と"寒い"については個人差が大きいためです。冷房の寒さについてはお客様の工夫では解決できませんので、電車のほうで冷房を弱めにして、選んでいただけるようにしました。一方で、車内が暑いというご意見は個人差ではなく、ほとんどのお客様が感じられることなんですね。そこで、車両によって温度を選ぶよりも、列車全体で暖房を弱める対応をしています。具体的には暖房装置を止めて、送風に切り替えています。これは乗務員の判断で対応しています」

寒さの感じ方は人それぞれ。しかし暑さの感覚はほぼ共通。どうりで、「電車が暑いね」という話題が盛り上がるわけだ。それに暖房が暑いと感じる時間帯は、通勤ラッシュなど混雑した時間だけ。冷房の寒さは時間帯に限らず感じる。そんなところも、「弱暖房車は不要」という考えになっているようだ。

東京メトロは冬も冷房をしている

暑がりな筆者は、「弱冷房車と表記している以上は、真冬でも弱冷房してほしい」と思う。そもそも「弱冷房車」と書いておきながら暖房するなんて、いま話題の「虚偽表示」ではないか。そんな疑問をぶつけてみたところ、東京メトロからは意外な答えが……。

「弱冷房車は冷房をする場合もあります。電車の車内の温度と湿度は運転席のモニターに表示されていますから、その数値を見て乗務員が空調の判断をします。暑い場合は暖房を止める、それで温度が下がらなければ、送風で外気を取り込みます。それでも温度が下がらない場合は冷房を入れます」

地下鉄の場合、トンネル自体が地上に比べて暖かいから、送風だけでは車内温度が下がらない。だから冷房も使用する。湿度を下げる場合も冷房装置を利用するという。弱冷房車が弱冷房状態になる場合もありそうだ。真冬の「弱冷房車」はウソではなかったか。

暖房装置は冷房に比べてシンプル

東京メトロもJR東日本も、暖房機能に関して、車両個別の温度設定はしていないという。冷房装置は温度の指定ができるけど、暖房装置は指定できない。オンとオフだけだ。これは鉄道車両の暖房装置の伝統でもある。蒸気機関車の時代、客車の暖房は機関車から蒸気をパイプで引いていた。構造が単純で低コスト、故障も少なかった。ディーゼル機関車や電気機関車も、わざわざ蒸気発生装置を搭載して客車の暖房に使っていた。

電車の時代になると、蒸気暖房は電気暖房に切り替わる。家庭用の電気ストーブと同じしくみだ。ヒーター(電熱線)に電流を流すと熱くなる。スイッチのオン・オフだけの単純な構造で低コスト、しかも燃えにくく、空気を汚さない。電車に取り込む電気をヒーター用に変換するだけだ。だから電車にぴったりの暖房方法として、現在も継承されている。

電気ヒーターは座席の下にあるので、足もとやお尻がポカポカする。足やお尻が熱いと思ったら席を立てば解決だ。これに対して、電車の屋根の冷房装置を冷暖房用にすると、熱風が上から吹き下ろして、たくさんのお客さんの頭がボーっとしてしまうかもしれない。諸条件を考えると、足もとからの電気暖房が最も優れた方法のようだ。車内が暑い場合は前述のように、暖房を止めて対応できる。暖房の暑さに対しては、コートを脱ぐなど個人でも対応ができる。冷房の場合は寒いと思っても、上着を持っていなければ対応できない。だから冷房車には「弱冷房車」を用意して対応しているというわけだ。

暑がりな人は、冬の満員電車に乗るときは上着を脱ごう。もっとも、満員だと荷物を増やすのも面倒……、乗務員にこまめな暖房のオン・オフを期待するしかなさそうだ。短時間の通勤なら、「サウナみたいで血行が良くなるかも!?」なんて、前向きに考えるとしようか。