2015年春に北陸新幹線の長野~金沢間が開業する。現在の長野新幹線が延伸し、東京と金沢が約2時間半で結ばれる。これに先立ち、長野県関係者の間で、「長野新幹線」の名称を残して、との要望が高まった。路線名が北陸新幹線に統一されると、「長野県の地位が北陸の各県と比較して相対的に下がってしまう」と懸念したようだ。

長野新幹線「あさま」

もっとも、「長野新幹線」は開業当初から正式名称ではなかった。正式な路線名はあくまで「北陸新幹線」だ。ただし、1997年に高崎~長野間が開業したとき、「実際には北陸地方に到達していない」として、「北陸新幹線」では誤解を招くため、「長野新幹線」という「通称」が与えられた。この「長野新幹線」という呼び名も、「正式路線名だと思われては困る」として、当初は「長野行新幹線」と「行」の文字を入れて案内されていた。

つまり、「長野新幹線」は開業当時もいまも正式な路線名ではなく、通称だ。扱いとしては、東北本線の首都圏での呼び名「宇都宮線」や、「湘南新宿ライン」と同じといえる。こうした通称ができた理由は、「旅客案内上、都合がいいから」である。北陸新幹線が金沢へ延伸したところで、長野方面へ行く利用者に向けて、「長野新幹線」の通称を使い続けても問題ない。

10月にJR東日本は、「北陸新幹線(長野経由)」と案内すると決定した。長野県関係者も納得したと報じられている。しかし、旅客案内上適切だと判断すれば、「長野新幹線」あるいは「長野行新幹線」、列車名の「あさま」を「長野新幹線あさま号」と通称で呼ぶ日が来るかもしれない。

新幹線ですらない「秋田新幹線」「山形新幹線」

長野新幹線と同様に、通称が与えられた新幹線がある。「秋田新幹線」「山形新幹線」だ。どちらも正式な路線名ではないし、新幹線ではない区間を走っている。

田沢湖線を行く「こまち」(写真左)と、同じ区間を走る普通列車(同右)

秋田新幹線「こまち」は、おもに東京~秋田間を走っている。旅客案内上、「こまち」が走る東京~秋田間を「秋田新幹線」と呼んでも差し支えない。東京~盛岡間は東北新幹線に乗り入れているので、盛岡~秋田間を「秋田新幹線」と呼ぶ、という認識も間違いではないだろう。しかし、正式名称としての「秋田新幹線」は存在しない。盛岡~大曲間は「田沢湖線」、大曲~秋田間は「奥羽本線」が正式名称だ。

同様に、山形新幹線「つばさ」はおもに東京~山形・新庄間を走っている。旅客案内上、「つばさ」が走る東京~新庄間を「山形新幹線」と呼んでも差し支えない。福島~新庄間を「山形新幹線」と呼ぶ、という認識も間違いではないだろう。しかし、正式名称としての「山形新幹線」は存在しない。福島~新庄間は「奥羽本線」が正式名称だ。

「こまち」「つばさ」は、「新在直通方式」といって、盛岡~秋田間、福島~新庄間で在来線に乗り入れていると定義されている。だからこれらの区間は新幹線ではないというわけだ。その証拠に、同区間を走る普通列車には新幹線特急料金がかからないし、案内上も「新幹線」とは呼ばない。

「新幹線」の定義とは?

なぜ、「こまち」「つばさ」が走る在来線区間を正式な新幹線と認めないか? その理由は、法律で新幹線が定義され、在来線区間は対象外だから。1970年に制定された「全国新幹線鉄道整備法」では、新幹線の定義を、「列車が時速200km以上の高速度で走行できる幹線鉄道」とした。「こまち」も「つばさ」も、奥羽本線や田沢湖線の区間ではそんなにスピードを出さない。上限は時速130kmである。軌間は定義されていないため、奥羽本線や田沢湖線の軌間を1,067mmから1,435mmに改造したとしても、新幹線ではない。

「全国新幹線鉄道整備法」にもとづいて定められた新幹線は、当時すでに開業していた東海道新幹線と、建設中だった山陽新幹線の他に、東北新幹線(盛岡市・青森市間)、九州新幹線(福岡市・鹿児島市間、福岡市・長崎市間)、北陸新幹線(東京都・大阪市間)、北海道新幹線(青森市・札幌市間)だった。2011年には中央新幹線が追加された。ここからも、「秋田新幹線」「山形新幹線」が新幹線ではないことがわかる。「長野新幹線」は新幹線規格だけど、北陸新幹線に含まれているというわけだ。

ただし、利用者の乗り間違いを防ぐなど旅客案内上で必要ならば、通称として「新幹線」を利用しても違法ではない。そんな理由から、「秋田新幹線」「山形新幹線」「長野新幹線」の名前は親しまれているし、今後も使われ続けるだろう。九州新幹線の長崎ルートが完成したら、「鹿児島新幹線」「長崎新幹線」のような案内が行われるかもしれない。