東日本と西日本は家庭用電源などの周波数が異なる。鉄道も交流電化区間において、周波数が50Hzの区間と60Hzの区間がある。新幹線はすべて交流電化されていて、東海道新幹線は西日本の60Hzに統一されている。一方、現在の長野新幹線は、軽井沢~佐久平間を境界に、東京側が50Hz、長野側が60Hzだ。

開業に向けて着々と準備が進む北陸新幹線。富山駅付近ではJR北陸本線と北陸新幹線の高架が並行している

2014年度末には北陸新幹線金沢開業が予定されている。長野~金沢間の延伸区間は60Hzのままかと思ったら、じつはあと2回も周波数が変わるという。

東日本・西日本の境界を行ったり来たりする北陸新幹線

この話をする前に、東日本・西日本で周波数が異なる理由を説明したい。原因は明治時代の発電の歴史までさかのぼるという。発電事業が民間会社によって行われたが、東京はドイツ製の50Hzの発電機を導入したのに対し、大阪はアメリカ製の60Hzの発電機を導入した。片方に統一しようとすれば、もう片方の発電施設などを更新しなくてはいけない。その負担を嫌がり、結局そのまま、50Hzと60Hzの電力供給範囲が現在まで残ることとなった。

現在、東日本の東京電力、東北電力、北海道電力が50Hzで供給する一方、関西電力、中部電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力が60Hzとなっている。ただし境界付近では例外もあり、50Hzで供給する会社が一部地域だけ60Hzで供給、またはその逆の例もある。50Hzと60Hzの境界は、だいたい糸魚川静岡構造線に沿っているといわれる。糸魚川静岡構造線は日本の地層帯の境目で、地学的に日本の東西の境目とされる。

東海道新幹線が全区間で西日本の60Hzに統一されているのは、東日本の区間が短く、車両側の装置を60Hz仕様に統一したほうが経済的と判断されたからだという。

長野新幹線を走るE2系は、50Hz・60Hzの両方の周波数に対応した車両だ

これに対し、長野新幹線は電力供給会社に合わせて50Hzと60Hzの区間を設けた。東北・上越新幹線の多くの車両は50Hz仕様であって、これは変更できなかった。現在、長野新幹線を走るE2系は、両方の周波数で安定した性能を発揮する電気機器が採用されているという。

長野新幹線における周波数の境界は軽井沢~佐久平間に設置されている。周波数の境界を長野県に入ってすぐではなく、軽井沢~佐久平間にした理由は、「勾配の急な区間を避けた」「軽井沢の輸送需要が多く、東北・上越新幹線車両の乗入れに配慮した」「当初は高崎から軽井沢までフル規格新幹線とし、軽井沢から先はミニ新幹線として整備する計画だった名残」などがある。

北陸新幹線となる区間のうち、長野県は中部電力、富山県・石川県は北陸電力の管轄だ。中部電力も北陸電力も60Hzだから、長野駅から先はすべて60Hzになる……と思ったら、そうはいかなかった。北陸新幹線は東北電力管轄の新潟県上越地区も経由する。上越市周辺の区間は例外的に60Hzとなるけれど、糸魚川市周辺は50Hz。そのため、上越妙高~糸魚川間と糸魚川~黒部宇奈月温泉間で、それぞれ周波数の切替えが行われることになった。

ちなみに、これらの周波数の切替えにおいて、直流・交流区間の境界に多いデッドセクション(無電区間)は使用されていない。約1.5kmの切替え区間の前後に絶縁部分を作り、列車の全体が切替え区間に入った瞬間に周波数を切り替えているという。これで新幹線はつねにモーターを回し続け、高速運転が可能になった。

だから北陸新幹線が金沢駅まで開業しても、軽井沢~佐久平間を含め、東京~金沢間で3回も周波数の切替えが行われていることに気づく乗客は少ないだろう。