蒸気機関車は円筒形のボイラーに箱型の運転台を取り付けて、だいたいどれも同じ形をしている。一方、電気機関車や最近のディーゼル機関車は多くが箱型で、車体の両端に運転台を設置する形式が多い。しかし、古い電気機関車やディーゼル機関車の中には、箱形ではなく凸形の形式もある。小さな車体が多くてかわいい姿ともいえるけれど、そもそもどうしてあんな形をしているのだろう?

福井鉄道の「デキ3形」電気機関車

黒部峡谷鉄道のED形

凸型の電気機関車といえば、秩父鉄道に保存されているデキ1形や、銚子電気鉄道で保存されているデキ3形、福井鉄道で保存されているデキ3形などがある。黒部峡谷鉄道では現役で稼働しており、入換用や工事用資材の運搬列車で活躍中だ。

ディーゼル機関車では、凸型がまだまだ現役だ。DE10形は各地のトロッコ列車などで活躍中だし、DD13形は国鉄時代に引退したけれど、臨海鉄道などに譲渡された車両がいまも稼働している。幹線用の花形機関車、DD51形も、貨物列車に使われるほか、寝台特急「北斗星」「トワイライトエクスプレス」「カシオペア」などで重連運転を行っている。

また、「凸型は古い」というわけでもなさそうだ。JR貨物の最新型ハイブリッド機関車、HD300形も凸型である。凸型には箱形にないメリットがあるのだ。

JR貨物HD300形

神奈川臨海鉄道のDD55形(国鉄DD13形に似ている)

入替用と重量配分でメリットがあった

凸型機関車はユーモラスな姿たけど、なぜシンプルな箱形ではなく、凸形で作られたのだろうか? その理由は、これらの機関車の用途にあった。

小型機関車のおもな用途は営業運転用ではなく、車両基地などでの入換用だ。貨車や客車をつなぎ換えるため、前進・後進を繰り返す。前に行ったり、後ろに行ったり。凸型の機関車は運転台が中央に1つだけだったから、運転席に座ったまま、視界を確保して前進・後進を切り替えられる。箱型の場合は前後の運転席へ移動する手間がかかるし、移動せずにバック運転するときは作業員の補助が必要になるだろう。

運転室が中央に1つだけだから、運転台も1つだけ。これは小型機関車の制作費削減にも貢献している。DD13形は運転台が進行方向に対して横向きで、運転士はつねに左右のどちらかを向いて運転していた。ところが入換用の短い区間ならともかく、営業運転では長時間にわたって横向きで運転しなければならず、首が痛くなったという。

運転台が横向きなのは、最新型のHD300形も同じ。もっとも、HD300形は入換用なので、長時間の本線走行はない。

寝台特急「北斗星」に使用されるDD51形

入換用の機関車は凸型が優れているわけだが、HD300形以外に新型の凸型機関車が導入された例は少ない。近年の貨物列車はコンテナタイプが中心で、昔のように小さな貨車をつなぎ換える用途が減った。電車も固定編成が多く、つなぎ換える機会は少ない。電車の検査などでつなぎ換える場合は、機関車よりもっと小さいモーターカーが使われるケースも多い。

大型の凸型ディーゼル機関車、DD51形は本線走行用の機関車だ。こちらはさすがに運転台が進行方向の両方を向いて独立している。むしろ入換用途を想定しないのに凸型で作られたほうが珍しいといえる。これには重量バランスを保つという理由があったようだ。強力で重いエンジンを2つ積む場合、車体中央に寄せると荷重が偏ってしまう。そこで、エンジンの位置を分散するため、運転台を中央に置いているという。

DD51形も老朽化しており、DF200形など新しい箱型の機関車への置換えが始まっている。凸型機関車はますます貴重な存在となりそうだ。