3月16日のダイヤ改正より走り始める予定の秋田新幹線「スーパーこまち」。使用されるのは新型車両E6系だ。先頭車両の独特な長い鼻は、先に「はやぶさ」でデビューしたE5系にも似ているけれど、左右に別れたヘッドライトや流麗なサイド処理などに違いがある。まるで未来からやってきたような斬新な姿である。

秋田新幹線「スーパーこまち」の新型車両E6系(JR東日本提供)

車両デザインを担当したのは、奥山清行氏が代表を務める「KEN OKUYAMA DESIGN」。奥山氏は最高級スポーツカーのフェラーリを手がけ、「ケン・オクヤマ」として世界でも注目される工業デザイナーだ。自動車業界と縁が深く、ゼネラルモータース社でチーフデザイナー、ポルシェ社でシニアデザイナー、ピニンファリーナ社でデザインディレクターを務めた。ゼネラルモータース時代は4代目シボレー・カマロを担当したという。

ピニンファリーナ社は自動車のデザインや受託生産を行い、イタリアを代表する高級スポーツカーのフェラーリのデザインでも有名。自動車以外にも家電や雑貨などを手がけ、イタリア最大のデザイン企業でもある。奥山氏は少年時代から憧れていたピニンファリーナに、自ら手紙を書いて売り込み、1995年に入社。ここで彼が手がけた「作品」には、フェラーリ・エンツォ、マセラティ・クアトロポルテなどがある。

奥山氏は、「50代になる前に活動の領域を広げたい」と独立を決意。2006年に個人事務所を設立した。その後、かねてより興味があった鉄道など公共交通分野にも進出している。日本の鉄道車両としてはE6系で有名になり、北陸新幹線用E7系・W7系も手がける。2013年12月から運行開始予定の「SL銀河鉄道(仮称)」でC58形239号機が牽引する客車や、このほどJR東日本が発表した新列車「Tohoku Emotion」(運行開始は今年秋以降の予定)も奥山氏がプロデュースに加わるとのことだ。

身近な商品も鉄道車両と同じデザイナーが手がけている…

「キッコーマンしょう油卓上びん」と209系車両のデザイナーが同じ!?

フェラーリや新幹線というと高級なイメージを持ってしまうけれど、「KEN OKUYAMA DESIGN」は東京メトロ千代田線16000系や長崎ロープウェイのゴンドラなどのデザインも担当している。千代田線なら最低130円(北千住~綾瀬間の特定運賃)で「奥山デザイン」の電車に乗れる。千代田線と相互直通運転を行う小田急線内で乗れば、初乗り運賃は120円だ。そう考えると親近感がわく。

ちなみに、秋田新幹線「こまち」で現在活躍中のE3系車両は、「GKインダストリアルデザイン」がデザインを担当した。こちらもJR東日本と縁が深く、209系ではグッドデザイン賞を受賞。いまや東京近郊の標準車といえるE231系や、特急「成田エクスプレス」の初代車両253系、2代目となる現在の車両E259系も担当した。

そんな「GKインダストリアルデザイン」を率いる榮久庵(えくあん)憲司氏の代表作といえば、誰もが知っている「キッコーマンしょう油卓上びん」である。工業デザインの分野は奥が深いけれど、暮らしに身近な存在ともいえそうだ。