ケーブルカーというと、単線で途中にすれ違い区間を設けた線路を思い浮かべる人が多いだろう。しかし全国で唯一、「複線」で運行されているケーブルカーがある。しかもそのケーブルカーには、自動車が通行可能な踏切もあるという。

「複線」の生駒ケーブルを走るコ11型12号車「ミケ」(写真はイメージ)

その珍しいケーブルカーは奈良県にある。近畿日本鉄道が運行する生駒鋼索線、通称「生駒ケーブル」だ。同路線は生駒駅(近鉄奈良線・生駒線・けいはんな線の電車が停車)に隣接した鳥居前駅から生駒山上駅までを結ぶ2.0kmの路線。途中の宝山寺駅を境に運転系統が分離されており、鳥居前駅側が宝山寺線、生駒山上駅側が山上線となっている。全区間を乗り通すには、列車2本を乗り継がなければならない。

生駒ケーブルの配線図

この2本のうち、ケーブルカーとしては珍しい「複線」を持つ路線は宝山寺線だ。ただし、ここまで「複線」と書いてきたけれど、正確には「単線並列」の運行形態で、単線の途中にすれ違い区間を持つ線路を2本並べて運行している。通常は片方の線路しか使用しておらず、初詣の時期をはじめ、乗客が多いときなどに2本の線路を使い同時運行しているとのこと。

生駒ケーブルは日本で最初に建設されたケーブルカー路線で、1918(大正7)年に鳥居前~宝山寺間が開業。当時は単線(宝山寺1号線のみ)だった。その後、利用客の増加に対応すべく、1926(昭和元)年にもう1本の線路(宝山寺2号線)が増設された。山上線は1929(昭和4)年に開業し、これで現在の形になった。

生駒ケーブルの特徴はもうひとつ。踏切警報機や遮断機を備えた立派な踏切が3カ所も設置されている。うち2カ所は歩行者専用で、残る1カ所は自動車も通行できる立派なものだ。生駒ケーブルはもともと観光客の輸送が主力の路線だったが、後に沿線で宅地化が進み、いまでは通勤通学路線としても活躍し、沿線住民の生活の足となっている。鳥居前~宝山寺間の始発は6時15分と早く、朝7~8時台までは15分間隔で運行。日中は20分間隔となる。ラッシュアワーを持つケーブルカーというのも珍しい。