もうすぐ小田急電鉄から2形式のロマンスカーが引退する。白地にワインレッドの帯の10000形(HiSE)と、白地にオーシャンブルーとオーキッドレッドのラインが入った20000形(RSE)だ。両方ともロマンスカーだけど、10000形は先頭車両に前方展望席があり、20000形にはない。20000形は中間車の2階建て車両が特徴で、いわば「側方展望席」だ。

引退間近の小田急ロマンスカー2形式(写真2点とも小田急電鉄提供)。写真左から10000形(HiSE)と20000形(RSE)

ところで、10000形に限らず、前方展望席のある小田急ロマンスカーは、ほかの車両に比べると1両ごとの車体が短い。20000形の中間車の車体長が約20mなのに対し、10000形の中間車の長さは約12m。20000形はほとんどの鉄道が採用している大型車と同じだが、10000形はその半分くらいしかない。ローカル鉄道向けの車両でさえ長さ17~18mだというのに、もっと短いのだ。なぜ展望席のあるロマンスカーは車体が短いのだろう。

小田急ロマンスカーの"伝統"が10000形にも

小田急3000形(SE)の連接台車

実を言えば、前方展望席があることと、車体が短いことに直接の関係はないかもしれない。似たような前方展望席を備えていた名鉄パノラマカーや、国鉄165系電車を改造し、現在は富士急行で「フジサン特急」として活躍している2000形の車体は20m級だった。

小田急の展望車付きロマンスカーの車体が短い理由は、日本では珍しい「連接台車」という構造を採用しているからだ。連接台車は、車体の間の連結部分に配置される。この方式は連結器の代わりに台車でがっちりと車両同士をつなぐため、前後方向の揺れが少ない。客席の床下に台車がないため、室内の騒音が少ないなどのメリットがある。とくにカーブ区間のスピードアップに効果があるとされている。フランスの高速鉄道TGVも連接台車だ。

従来のサイズの車体を連接台車で結ぶと、台車同士の間隔が広くなる。これだとカーブ区間に入ったとき、車体が線路から大きくはみ出してしまう。カーブしたホームやカーブ区間に設置された標識などがそこにあれば、車体と接触してしまうおそれもある。それを防ぐために台車の間隔を短くする必要があり、よって車体長も短くする必要があったというわけだ。

従来の方式と連接台車式。台車間の間隔をそろえると中間車の車体は短くなる

小田急電鉄の場合、展望車付きロマンスカーに連接台車を採用するのが"伝統"となっているようだ。小田急ロマンスカーの連接台車は1957年の3000形(SE)からで、それ以前のロマンスカー(1700形まで)は連接台車ではなかった。ただし、3000形には前方展望席がなく、前方展望席を採用したのは1963年デビューの3100形(NSE)からである。

その後、1980年デビューの7000形(LSE)、1987年デビューの10000形(HiSE)と、前方展望席付きの連接台車が続いた。しかし1991年デビューの20000形(RSE)は前方展望席も連接台車も採用されなかった。1996年デビューの30000形(EXE)も同様だ。

前方展望席と連接台車の"伝統"は、2006年の50000形(VSE)で復活する。一方、2008年デビューの60000形(MSE)では採用されていない。現在、小田急では60000形を増備しているようだが、今後も前方展望席と連接台車の"伝統"が継承されるか、興味深い。