富山を舞台に、人生の分岐点に立つ夫婦を描く映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』。もうご覧になっただろうか? 長年連れ添った夫婦でも、想いは一方通行になりがちなものだ。

ところで一方通行といえば、富山地方鉄道にはユニークな路線がある。なんと、電車がつねに一方通行の路線があるのだ。一方通行の電車に乗ってしまったら、帰りはどうすればいいのか? そもそも電車はどうやって行き来するのか? 川下り船のようにトラックで帰ってくるのか……? 大丈夫。一方通行といっても「環状線」だから。その路線の電車にもう一度乗れば、乗車した駅に戻ってくる。

富山地鉄に存在する一方通行の路線は「富山都心線」というが、一般的には同路線を環状運転する電車の愛称「セントラム」のほうがよく知られているだろう。

富山地方鉄道の環状区間用電車「セントラム」

富山地方鉄道は、市内電車区間も含めると総延長100.5kmの路線網を構成している。地方私鉄としては大規模で、京王電鉄、京急電鉄、京阪電鉄などの大手私鉄よりも長い。

そんな富山地方鉄道の市内電車は、昭和30年代まではもっと多くの路線があり、環状運転も行われていた。しかし他の都市と同様、モータリゼーションの影響を受け、昭和40年代にいくつかの路線が廃止されてしまう。残った線路は富山駅前から西側の大学前電停まで、東は南富山駅前電停までを往復する区間のみ。環状運転は不可能になった。

2006年、富山ライトレールが開業し、順調な業績を上げるようになると、全国で路面電車を見直す機運が生まれた。その発信地である富山市も例外ではなく、今度は富山市内電車のLRT整備が計画された。そのひとつが環状新線だ。富山駅西側の丸の内電停と東側の西町電停が近く、この2地点を結べば環状運転が可能になる。

富山地鉄の市内電車路線図と運行系統

いくつかのルートが検討された結果、整備された路線が富山都心線だ。延長距離は0.9kmで、丸の内電停から国際会議場前電停、大手モール電停、グランドプラザ前電停、西町電停(分岐点のみで通過)、荒町電停への一方通行となる。電車はそのまま既存の路線に乗り入れて、富山駅前を経由して丸の内電停に戻ってくる。

このようにして、「セントラム」は反時計回りの環状運転を行うようになった。当初から一方通行の予定だったため、富山都心線は単線となったのである。「一方通行では困る」といっても、環状運転だから同じ系統の電車に乗れば元の電停に帰れる。

それに、一方通行の区間は900m程度。逆向きにひとつだけ戻りたいときは、また電車に乗るより、歩いて戻ったほうが早いだろう。

富山地鉄以外にもある一方通行の路線

このような環状型一方通行路線は富山地方鉄道だけではない。

千葉県の新交通システム、山万ユーカリが丘線も環状型の一方通行路線だ。この路線は京成線のユーカリが丘駅を発着し、親会社が開発した住宅地の駅を巡回する。同じ千葉県のディズニーリゾートラインも一方通行だ。「あれは東京ディズニーリゾートのアトラクションだ」と思うかも知れないが、れっきとした第一種鉄道事業。定期券も発売しているし回数券もある。PASMOも使える。

関西では神戸新交通ポートアイランド線にも環状運転で一方通行の区間がある。なお、短い区間だが、埼玉新交通(ニューシャトル)の大宮駅付近も一方通行になっている。

「RAILWAYS」トリビア : 鉄道場面専門の助監督が活躍した

駅で撮影中の余貴美子さん。周囲をヘルメット姿のスタッフが囲む

鉄道を取り巻く人間模様を描いた「RAILWAYS」シリーズでは、鉄道の情景も魅力たっぷり。

前作の一畑電車では、出庫するデハニの車内に陽光が差し込むシーンが印象的だった。今作では立山連峰を背景に進むレッドアローや、富山大橋を渡る路面電車の姿が美しい。普段は見られない車庫内のカットもあり、鉄道ファンへのサービスもふんだんに盛り込まれている。

この映画にとっては、電車も大切な"出演者"といえる。そこで今作から、鉄道に関する場面を専門に担当する助監督を任命したとのことだ。映画の撮影だからといって、もちろん鉄道を運休させるわけにはいかない。通常通り電車を運行して乗客を運ぶ中、秒単位の列車ダイヤの合間を縫い、映画の撮影が行われたという。

『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』
富山地方鉄道の運転士、滝島徹は1カ月後に定年を迎える。第2の人生を、自分を支えてくれた妻とのんびり過ごしたい。しかし、妻の佐和子も第2の人生を考えていた。結婚前に勤めていた看護師の仕事を再開したい。初孫を2人で迎えてほしいと願う娘の心も届かず、夫婦の心はすれ違い、妻は家を出てしまう……。立山連峰を望む美しい街を舞台に、夫婦が迎えた人生の分岐点を描く。
出演 : 三浦友和、余貴美子、小池栄子、中尾明慶、吉行和子ほか

ちなみに、今作で滝島徹を演じる三浦友和さんは電車の免許(動力車運転免許)を持たないが、映画では実際に本人が運転しているように撮影されている。いったいどんな方法を使ったのか? 鉄道ファンなら、映像から想像してみるのも楽しいかもしれない。