鉄道路線の"終点"といえば、列車が到着した後、折り返しの列車となって戻っていくような駅をイメージする人が多いかもしれない。

ところが、ある路線の"終点"にもかかわらず、全列車が通過してしまう駅がある。特急列車が通過するならともかく、その駅は一部の日を除き、普通列車さえ停まらない。誰も困らないのだろうか?

……もちろん困る。駅があれば、そこには利用者がいる。ただ、まとまった利用者が見込める日は限られるため、その日だけ臨時停車するわけだ。

鹿島サッカースタジアム駅は橋上駅舎。訪問当日は鹿島まつりで臨時営業していた

"終点"なのに全列車通過の風変わりな駅、それは鹿島サッカースタジアム駅。ここはJR鹿島線の終点であると同時に、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の終点でもある。隣接する茨城県立カシマサッカースタジアムで試合やイベントがある日のみ列車が停車し、他の日は普通列車も通過する。

JR鹿島線の列車は、ほとんどが1つ手前の鹿島神宮駅で折り返していく。東京駅発の特急「あやめ」にも鹿島神宮行がある(佐原~鹿島神宮間は普通列車)。だから鹿島線の終点は鹿島神宮駅と思う人が多いだろう。だが実際には、鹿島サッカースタジアム駅までが鹿島線となっているのだ。

路線の境界と列車の運行区間

一方、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の列車は、起点となる水戸駅を出発した後、終点であるはずの鹿島サッカースタジアム駅を通過し、鹿島神宮駅まで乗り入れる。

それでも運賃の計算上、鹿島サッカースタジアム駅までが鹿島臨海鉄道で、鹿島神宮駅に乗り入れる場合は鹿島臨海鉄道の料金にJRの料金を合算しなければならない。

鹿島サッカースタジアム駅は鹿島臨海鉄道鹿島臨港線の起点でもある。この路線は現在、貨物専用の路線となっているため、原則として旅客列車は運行されない。鉄道の日のイベントなどで、ごくまれに特別列車が走る程度だ。

もともとは貨物専用の駅だった

この駅はもともと、鹿島臨海鉄道鹿島臨港線の「北鹿島駅」として1970年に開業した。当時の鹿島臨港鉄道は鹿島地域の貨物専業鉄道として営業しており、この駅も貨物専用の駅だった。少し遅れて国鉄鹿島線も開業し、鹿島港から全国へ向けて貨物輸送が可能になった。

鹿島臨港線では、かつて鹿島線に乗り入れ、鹿島神宮駅までの旅客列車が走った時期もあった。しかし北鹿島駅は貨物駅のままで旅客扱いは行わず、このときから「終点なのに全旅客列車が通過扱い」となっていた。実際にはスイッチバックのため停車していたものの、旅客扱いはせず、時刻表では通過扱いだった。この旅客列車は後に廃止された。

大洗鹿島線は当初、国鉄鹿島線の延長路線(北鹿島線)として建設されていた。そのまま実現すれば、香取から水戸までがJR鹿島線となったかもしれない。ところが国鉄の累積赤字問題が深刻になり、国鉄としての開業が困難となったことから、鹿島臨海鉄道が引き受けることに。

1985年の開業時から、大洗鹿島線の列車は鹿島神宮駅まで乗り入れたが、1つ手前の北鹿島駅はやはり貨物駅のまま。すべての旅客列車が通過した。

駅の南側を見る。一番右の線路がJR東日本、左側は鹿島臨海鉄道

駅名標の横に、時刻表用らしき看板(?)を見つけた

1993年にカシマサッカースタジアムが完成し、その最寄り駅として北鹿島駅の旅客化が決定。翌年、鹿島サッカースタジアム駅に改称されて再出発した。

とはいえ、まとまった旅客が見込めるのはスタジアムでのイベント開催時に限られるため、臨時駅扱いとなった。こうして一部の日を除き、「終点なのに全旅客列車が通過扱い」という状態がいまも続いているわけだ。