観光列車の代表格といえば蒸気機関車だ。1970年に大井川鉄道が観光列車として蒸気機関車の運行を開始し、1979年には山口線でSLやまぐち号の運行が始まった。その後、JR北海道、JR東日本、JR九州、真岡鐵道、秩父鉄道など、全国で約20台の蒸気機関車が動態保存されているという。最近ではJR東日本が公園に飾られていたC61を復元させて話題になった。

鳥取県の若桜鉄道では、圧縮空気で構内運転しているC12形を本格的に修繕して本線で運行する構想がある。愛知県名古屋市長が「あおなみ線に蒸気機関車を運行したい」という構想を表明したことも話題になった。

観光列車として人気の「SL冬の湿原号」

そんな蒸気機関車の魅力のひとつが、あの「ポーッ!」という汽笛だ。映画でもドラマでも、蒸気機関車が登場する場面では汽笛がないとサマにならない。汽笛は機関車が走りだす合図だけではなく、旅の始まり、主人公の決意、あるいは郷愁など、さまざまな表現の効果音として使われているようだ。

この汽笛、実際の鉄道の現場では、鳴らし方によって意味が異なるという。機関車と鉄道員、あるいは機関車同士の「会話」にも使われているそうだ。いったいどんな意味があるのだろうか。

連打は「危険」、連打&長音は「緊急事態発生」

最も聞く機会が多い汽笛は、「ポーッ!」という長音。だいたい2~3秒程度鳴らされる。これは発車の合図として使われており、周囲に存在を印象づけるという意味合いである。走行中だけでなく、踏切の手前や見通しの悪いカーブ、駅構内への進入時にも使われる。

長い鉄橋やトンネルを通過する直前は、少し長めの「ポーォーッ!」となる。トンネルや鉄橋の向こう側にいるかもしれない人に注意を与えるためだ。保線工事中の区間にさしかかるときも、接近を知らせるために鳴らす。

駅構内で客車や貨車と連結するとき、操車係の手旗やカンテラの合図に答える意味で「ポッ、ポッ」と鳴らす。他にも整備係の人を呼ぶ場合、車掌を呼ぶ場合などで異なる音の出し方があるという。運転士が危険を感じた場合は短い音を連打、緊急事態が発生した場合は単音連打に続いて長音を鳴らす。

操車係の「連結よし」という合図に応えて汽笛を鳴らしたところ。運転台の前にある汽笛装置から蒸気が出ている

機関車同士の「会話」に使う場合とは、重連で運行する場合だ。急勾配の区間で、蒸気機関車を2台以上連結したり、列車の前と後ろに機関車を連結して走る場合は、それぞれの機関車に運転士が乗り込んで、合図を交換しながら運転する。たとえば先頭の機関車が加速を始める時は「ポッ、ポッ」と2回鳴らす。この音を聞いた後ろの運転士も、「了解」の意味で「ポッ、ポッ」と鳴らす。「加速をやめるよ(惰行するよ)」という場合は「ポーッ、ポッポッ」だ。

電気機関車やディーゼル機関車の場合、2台以上連結する時は電気信号ケーブルを接続する。これでひとりの運転士が両方の機関車を同時に制御できる。しかし、蒸気機関車は1台につき機関士と、石炭を投入するための機関助手がひとりずつ必要だ。だから汽笛で会話しながら走らせる。汽笛による合図は電車や電気機関車にも継承されているようだ。汽笛による「会話」は、「蒸気機関車だけの特別なサイン」といえそうだ。