本連載の第6回で「地下鉄の踏切」を紹介したが、編集部宛に「モノレールにも踏切があるらしい」という情報をいただいた。このことは恥ずかしながら把握しておらず、これはぜひとも確かめておきたい。モノレールのメリットの1つは立体交差、わざわざ踏切を作る必要はなく、そもそも構造的に踏切なんて作れるだろうか。

まずはネットで検索してみたところ、いくつかのブログでモノレールの踏切を紹介していた。場所は上野動物園。東京都交通局が運営する「上野懸垂線」、通称「上野動物園モノレール」のようだ。上野動物園モノレールは懸垂式で、車体の上にレールがある。東京モノレールのような跨座式モノレールは、構造上、道路と平面交差はできない。しかし懸垂式なら踏切を設置できそうだ。

東京都交通局「上野懸垂線」

「上野動物園モノレール」というくらいなので、モノレールは上野動物園の中にある。JR上野駅の公園口を出て、上野動物園の入場券を買って園内に入り、しばらく歩いていくとモノレール東園駅があった。さて、この駅のそばに踏切があるという話だが……。確かに、モノレール車両の通路を横切るかのような歩行スペースがあった。

東園駅

列車の通行空間を横切る通路

普通の鉄道の駅構内にある踏切によく似ている。しかし、警報機もなければ遮断機もない。そこで、そばにいた係員さんにこれは踏み切りかと聞いてみた。すると、「いやー、踏切とは言わないねぇ。私らはここも含めて、乗り場全体を"ホーム"と呼ぶよ」とのこと。

う~ん。運行に携わる人に否定されてしまうと、踏切とは言えないような……。そこで調べてみたのだが、実は鉄道の駅構内にある踏切も法令では「踏切」ではないらしい。「構内踏切」と呼ばれているが、一般道路との交点ではないため「渡線路」という扱いになるようだ。

ちなみに、この通路とは反対側、線路の終端部分にも通路がある。モノレールの線路は駅から少しはみ出していた。これはおそらく、万が一、列車の停止位置がズレたときのための余裕をとってあるのだろう。そのはみ出したモノレール線路の下に、動物園の作業用車両の通路があって、警報機らしき設備もあった。こちらのほうが踏切のイメージに近い。しかし、一般道ではないのでやはり踏切とは言えないのだ。

降車客用の通路。左にある「止まれ」の表記は作業通路用

上野動物園モノレールのトリビアふたつ

「モノレールの踏切はなかったんですね」とがっかりする筆者を見て気の毒に思ったのか、係員氏は「じゃあこんなネタはどうかな」と教えてくれた。なんと、モノレール車両のメーター表示システムはWindows XPが使われているそうだ。

モノレール運転席のメーターはWindowsXP上で動いている

「このモノレールは、動物園のアトラクションだと思う人も多いけど、鉄道事業法の免許を受けた鉄道路線なんだよ」とも。それは筆者も知っている。このモノレールは1957年に開業した日本初の営業用モノレールで、東京都交通局にとっては実験的な意味合いも持っていた。鉄道事業となった理由は、この路線が動物園内だけを走っているのではなく、いったん園外に出てしまうためだ。上野動物園の東園と西園の間には都道が通っている。つまり、両園を結ぶ「運輸事業」というわけだ。

そしてさらに、「あの道路は都電が走っていたんだよ」とも教えてくれた。……それは知らなかった。やはり運営に携わる方はお詳しいようだ。

この道路があるからモノレールは鉄道事業になったという