九州新幹線や東北新幹線の全通、中央リニア新幹線の他、中国の高速鉄道網の発達、アメリカ合衆国への高速鉄道計画の売り込みなど、世界各地で高速鉄道のニュースが報じられている。その背景には、日本の新幹線やフランスのTGVなどが切り開いた鉄道技術の進化に加えて、航空機よりも環境負荷が低いというメリットがある。

ところで、日本には新幹線でもないのに「高速鉄道」と名乗る鉄道会社や路線がある。首都圏では埼玉高速鉄道や東葉高速鉄道、近畿では神戸高速鉄道、泉北高速鉄道(大阪府都市開発)などだ。また、東京メトロの前身が帝都高速度交通営団と「高速」の字が入っていた。さらに東京初の地下鉄、現在の東京メトロ銀座線の渋谷 - 新橋間を建設した会社は東京高速鉄道だった。

地下鉄銀座線の全身、東京高速鉄道の電車(地下鉄博物館)

調べてみると、意外にたくさん

日本で「高速鉄道」を名乗る会社や路線を表にしてみた。どの路線も大都市の中心や近郊にあって便利だし、乗りこなせば目的地へスピーディに移動できる。成田高速鉄道アクセスのように時速160kmで走れば、確かに高速だといえそうだ。しかし、どれも新幹線の速度には及ばない。銀座線の電車などは最高時速65kmの性能を持つというが、実際の速度はもっと遅い気がする。これではJRの在来線や「高速」を名乗らない私鉄より遅い。高速ではない高速鉄道。これにはどんな理由があるのだろう。

会社名 路線名や事業内容
埼玉高速鉄道 赤羽岩淵 - 浦和美園間。東京メトロ南北線が乗り入れる
東葉高速鉄道 西船橋 - 東葉勝田台間。東京メトロ東西線が乗り入れる
成田空港高速鉄道 成田空港付近のJR成田線、京成本線、京成成田空港線の線路を保有
成田高速鉄道アクセス 成田スカイアクセス線のうち、印旛日本医大駅 - 成田空港高速鉄道との結節点までの線路を保有
東京臨海高速鉄道 りんかい線(新木場 - 大崎)を運営する
横浜高速鉄道 みなとみらい21線(横浜 - 元町・中華街)を運営し、こどもの国線(長津田 - こどもの国)の鉄道施設および車両を保有する
名古屋臨海高速鉄道 あおなみ線(名古屋 - 金城ふ頭)を運営する
愛知高速交通 東部丘陵線(リニモ 藤が丘 - 八草間)を運営する
大阪高速鉄道 大阪モノレール(大阪空港 - 門真市、万博記念公園 - 彩都西)を運営する
関西高速鉄道 JR東西線(京橋 - 尼崎)の線路を保有する
中之島高速鉄道 京阪中之島線(天満橋 - 中之島)の線路を保有する
西大阪高速鉄道 阪神なんば線(西九条 - 大阪難波)の線路を保有する
奈良生駒高速鉄道 近鉄けいはんな線(生駒 - 学研奈良登美ヶ丘)の線路を保有する
大阪府都市開発 泉北高速鉄道線(中百舌鳥 - 和泉中央)を運営する
神戸高速鉄道 神戸市内で阪急電鉄、阪神電鉄、神戸電鉄、山陽電鉄を相互乗り入れさせるために設立
広島高速交通 広島新交通1号線(アストラムライン 本通 - 広域公園前)を運営する
北九州高速鉄道 小倉線(北九州モノレール 小倉 - 企救丘)を運営する

路面電車に対して「高速」な鉄道だった

上の表にある「高速鉄道」は、正しくは「都市計画高速鉄道」の意味だ。これは1968(昭和43)年に制定された「都市計画法」に明記されている。この法律の「都市高速鉄道」とは、地下鉄、モノレール、新交通システムなどを想定している。

「高速鉄道」に対する「低速鉄道」については定義されていない。しかし、この時代の低速鉄道といえば「路面電車」を指す。路面電車は交差点で交通信号による停止があるなどの制限があり、自動車より速く走れない。そこで、立体交差によって高速に走る鉄道を建設しようと考えた。これが都市高速鉄道、略して「高速鉄道」となった。これは「首都高速道路」が最高時速60kmに制限されていても「高速」と呼ばれている理由と同じである。

つまり、上の一覧の会社名や路線名に掲げた「高速鉄道」のほとんどは、「路面電車よりも高速な鉄道ですよ」という意味だ。確かに、これらの鉄道は既存の路面電車などを置き換えて作られた地下鉄やモノレールが多い。もっとも、成田高速鉄道などは路面電車との比較ではなく、空港と都心を高速に結ぶというイメージから命名されたとも考えられる。路面電車からの転換ではなく、新路線として建設された「高速鉄道」には、「高速」というイメージが根拠という場合もありそうだ。