電車に乗るときは列車の種別で速度を判断する。各駅停車は遅く、急行は少し速く、特急は最も速い。ここまでは直感的にわかる。しかし、大手私鉄の中には複雑な運行形態を採用している路線がある。準急、準特急、快速、快速急行、快速特急、特別快速などとあって非常にややこしい。そこで今回は、列車種別の法則を考察してみよう。

小田急電鉄の列車種別は7種類。この表とは別格で特急ロマンスカーがある

京王電鉄の列車種別は5種類。準特急は急行より格上

列車種別の歴史をたどると、当然ながら最初に登場する列車は各駅停車。1872(明治5)年に品川駅 - 横浜(現在の桜木町)駅で日本初の鉄道路線が仮開業した。駅が2つしかなかったので各駅停車で、所要時間は35分。その後、途中に駅が追加されて、すべての駅に停車するようになった。

日本の鉄道史で初めて「急行」が登場したのは1882年だ。東海道線の新橋 - 横浜間を結ぶ列車で、途中停車駅は品川と神奈川のみ。大森・川崎・鶴見は通過し、所要時間は45分だった。前年に新橋 - 横浜間の複線化が完成したため、ダイヤに余裕ができたようだ。

その後、急行列車は各地に誕生する。山陽鉄道が1894年に神戸 - 広島間で運行した急行は、後に寝台車や食堂車も連結し、長距離輸送サービスを行う急行列車の元祖となった。この山陽鉄道が1901年に神戸 - 下関を全通させると、急行列車より速い「最急行」を走らせている。これが特急列車のルーツともいうべき列車だ。

「最急行」のアイデアは官営鉄道にも採用され、新橋 - 神戸間を走った。このうちの1つが1912年に「特別急行列車」となった。車両は1等車と2等車のみ。最後尾に展望車を連結した。スピードだけではなく、設備も「特別」な急行だった。下関では連絡船に接続し、さらに釜山で鉄道に接続。中国やヨーロッパ方面の列車に乗り継げた。

このように、まずは各駅停車が走り始め、長距離を急ぐ人のために「急行」が誕生し、さらに急行より速く、格上の設備をもった特別な急行として「特急」が誕生した。速度で比べると「特急>急行>各駅停車」である。どの鉄道会社もこれが基本だ。

「前置詞+基本種別」で見分けよう

現在は「準急」や「快速」「快速急行」など、様々な列車種別が誕生している。これらは速度の差を示すだけではなく、停車駅数の違いを明確にしたり、行き先の違いで区別したりするために違う呼称を使っているようだ。では、これらの列車種別の上下関係はどのように判断したらいいのだろう。

注目したい部分は、急行列車から特急列車が誕生した経緯である。「急行」に「特別」という「冠詞」をつけたから「格上」の特急となった。つまり、列車種別を前後に分けて、冠詞+基本種別と考える。「準急」は「準ずる」という格下を示すから、急行より下。「快速急行」は「快速」という格上の冠詞がつくので急行より速い。「準特急」は特急より格下。ただし、基本部分が特急だから、快速急行よりは格上だ。「特別快速」と「快速特急」は、快速特急のほうが格上を示す種別名だといえる。

もっとも、列車種別は各鉄道会社が独自のルールで定めているから、異なる会社や路線では比較できない。例えばJR東日本の中央線の場合、特別快速よりも「ホリデー快速ビューやまなし」のほうが停車駅が少ない。西武池袋線や神戸電鉄粟生線では準急や通勤準急より快速のほうが停車駅が少ない。東武伊勢崎線では急行より快速のほうが速い。国鉄が京阪神に「新快速」を誕生させたとき、複々線区間で特急や急行を追い越す列車もあった。併走する私鉄に対抗するためとはいえ、下剋上列車として鉄道ファンに知られていた。

結論としては、「基本的な考え方はあるものの、鉄道会社や路線によって例外も多い」となり「乗り慣れない路線では乗り換え案内サイトに従ったほうが無難」である。身も蓋もない結論になってしまったが。