前回は東芝関係者しか駅の外に出られない「海芝浦駅」を紹介した。実は、出入りできる人が限られている改札口は他にもある。それは京浜急行の「神武寺駅」だ。なんと、日本の鉄道会社の駅にもかかわらず、米軍関係者しか出入りできない「特別な改札口」がある。もっとも、海芝浦駅とは違って神武寺駅は一般客用の改札口も別にあるから「誰でも出入りできる駅」ではある。

京浜急行「神武寺駅米海軍口」

京急による穏やかな文章の注意書き。米軍からの掲示はもっと厳しい文章だ

京急神武寺駅の米軍用改札口は、正式には「神武寺駅米海軍口」という。2008年10月1日に使用を開始した。改札口の向こうには米海軍の池子住宅地区がある。そこに住む人や来客する米海軍関係者の専用改札口である。開いている時間帯は平日が4:57~24:58、土曜休日が4:57~24:33。これは京急の発表によるもので、改札口に掲げられた英語表示によると、月曜 - 金曜が5:00~01:00、土日が5:00~24:30となっている。

日本語の注意書きは、「米海軍の許可を得たお客様専用で一般のお客様のご利用はできません」とやや穏やかだ。しかし米海軍横須賀基地による掲示では「警告 立ち入り制限区域」や「立ち入り許可を得たものは身体及び持ち物検査に同意したものとみなす」「無許可の立ち入りは日本の法律による処罰の対象となります」と、かなり厳しい内容になっている。

「電車を使って」地元自治体の要望も

この改札口は米軍の要請でつくられたという。いわゆる「思いやり予算」から1億2,000万円が提供され、改札口と通路、その先の検問所などが設置された。米軍関係者が京急を利用しやすくするためだから、もちろん「米軍に便宜」を図った形だ。しかし周辺の日本人にもメリットがあるという。池子住宅には当時850戸以上の住宅があって約3,000人が住み、自動車が約1,000台ある。クルマ社会のアメリカの人々だけに、普段の移動はクルマだ。

ところが、周辺の道路は細く渋滞が頻発。スピードの出し過ぎによる交通事故も懸念された。そこで、地元の逗子市も改札口設置を要望していたとのこと。「なるべく電車を使ってほしい」という気持ちで、米海軍も逗子市も一致したようだ。米軍関係者のクルマ利用を減らす、という意味で、付近に住む日本人にも間接的な恩恵がありそうだ。