鉄道ファンではなくても、電車の絵を描けば車体の上に小さな菱形を付け加えるだろう。これはパンタグラフと言って、電車を走らせるための電気を取り込む装置である。しかし、最近の電車のパンタグラフは「◇」形ではなく「」になっていることにお気づきだろうか。そろそろ電車の描き方にも世代差が現れそうだ。

ちょっと前まで主流だった菱形パンタグラフ(筑豊電鉄にて)

最近は「

電車が電気を取り込む装置の元祖は、棒状の「トロリーポール」だった。棒の先端に滑車がつき、バネの力で架線に押し当てて電流を流していた。しかし、棒が長くなると上下に震動して外れやすく、特に架線が分岐するところでは係員がいったん下ろし、再接続する手間も必要だったという。

そこで、滑車ではなく板状の接点を使った「ピューゲル」が用いられた。細いパイプを梯子のように平面組にした形状で、路面電車に採用された。しかし、長くなると上下に振動、離線するという欠点は残された。また、電車の進行方向に合わせて向きを変える必要もあった。

そこで考え出された仕組みが、菱形のパンタグラフだった。折りたたみ形状で小型化でき、パンタグラフ自体の重みによる上下動が少なくなった。バネの改良や空気圧の採用で架線の追随性も格段に向上した。また、菱形のため、前後どちらの方向にも使えた。こうしてパンタグラフは電車の集電装置の主流として長きに渡って作られ続けた。

パンタグラフを半分にしたようなスタイルなので、ピューゲルのように進行方向によって風圧の影響が違うとも言えそうだが、小型で強度もあるため、在来線程度の速度では進行方向の制約はないらしい。ただし、新幹線の場合はE5系のように、1つの編成に異なる向きのZ形パンタグラフを設置して、進行方向によって使い分けている形式もある。また、500系新幹線は関節を持たず、1本の支柱をダンパーで持ち上げる方式を採用していた。

ところで、「パンタグラフ」という名前は製図の道具に由来している。拡大図、縮小図を描くために、伸縮可能な関節を持った道具だった。これをヒントにしたおもちゃがマジックハンドだ。この菱形部分に似ていることから、集電装置もパンタグラフと呼ばれるようになった。だから、本来は菱形のものだけがパンタグラフと呼ばれるべきで、厳密に言うと「Z型パンタグラフ」「シングルアーム型パンタグラフ」という呼び方は間違っていることになる。

もっとも、他にふさわしい名前が考案されないようなので、今後も「パンタグラフ」と呼ばれ続けることになるだろう。コンクリート製でも「枕木」というくらいで、鉄道には素材や様式の伝統を受け継ぐ用語が多い。それも鉄道の面白さかもしれない。