原子爆弾投下という悲しい記憶を持つ広島は、「路面電車が街の交通の主力として君臨する都市」としても知られている。広島電鉄は、早くからヨーロッパの連接車を輸入したり、低床連接車を導入するなどの先進的な取り組みも始めている。その広島電鉄には、原子爆弾に被爆した電車がいまもなお現役で活躍しているという。

650形の651号、652号がラッシュ時に稼働している

広島電鉄650形は1942(昭和17)年に製造された。製造数は5両で、そのうち現役車両は651号、652号。653号と654号は2006年に引退し、653号は同社で保管中。654号は広島市交通科学館に被爆電車として展示されており、655号は廃車済みとのことだ。

筆者が4年前に撮影した被爆電車653号。この電車、車籍はあるがほとんど稼働していないという

戦後、650形が修復されて再び走り始めると、悲しみに暮れる広島市民はその姿に励まされたという。現在も650形は広島復興のシンボルと言われている。しかし、651号、652号は現役とはいえ老朽化が進んでいる。また、性能も戦前のレベルであるため、新車への交代が進む中で活躍の機会は減っている。現在は通勤ラッシュ時間帯の助っ人として短時間だけ登場するほか、8月6日前後を中心に記念運行の任務に就くそうだ。

地元からは「平和のシンボルとしていつまでも頑張ってほしい」「そろそろ休ませてあげたい」など、様々な意見が寄せられる中、その去就が全国の鉄道ファンに注目されている。