地下鉄は大都市を象徴する交通機関だ。地上に線路を敷く場所がない場合や、道路を塞いで自動車交通を妨げないように、線路を地下に敷く。ゆえに道路や線路とは立体交差が原則だ。しかし、地下鉄に踏切がある日本で唯一のポイントがある。それも、日本初の地下鉄として知られる東京メトロ銀座線の上野駅付近だ。踏切だから、道路からの見物も可能なのだ。

車内からは見えない踏み切り

地下鉄銀座線に乗った人は「踏切なんてあったっけ」と思うだろう。実は、この踏切は電車の中からは見えない。営業路線上ではなく、上野駅から分岐して地上の車庫に向かう引き込み線にある。地下鉄の踏切というからには、地下道と線路の踏切だと思うかもしれない。しかし実際は地上にある。地下から地上へ上った線路が、どうしても公道をひとつ横切ってしまうために踏切が設けられたようだ。

公道との交差部分なので、誰でも公道側から見物できる。場所はJR上野駅の入谷口から徒歩数分のところ。入谷口前の観光地図には踏切りマークで表示されている。踏切は観光名所ではないけれど、この地図を見れば行き方はすぐわかる。この踏切は他の踏切と違って、道路側と線路側の両方に遮断機がある。電車が通過するときは道路側の遮断機が下がる。そして、電車が通過しないとき、道路側が開いているときは線路側に遮断機が下りる。これは電車を遮るためではなく、人や犬猫の線路への立ち入りを防ぐためだ。

東京メトロ銀座線はサードレール方式といって、線路に電力を供給するための3本目のレールを設置している。電車はサードレールから電気を取り込んで走る。サードレールには600ボルトの電流が流れているので、線路内に立ち入ると感電の危険がある。だから通常の架線集電式鉄道の踏切よりも、厳重に管理されている。

なお、都内には他に都営地下鉄浅草線の馬込車両工場に通じる線路にも3か所の踏切があった。しかし馬込車両工場は2004年に廃止。現在は引き込み線の廃線跡として、踏切が残っている。