『産まなくてもいいですか?』(幻冬舎、小林裕美子著)と、作者の小林裕美子さん(自画像イラスト)。本書のため、たくさんの女性に取材したそうです

30歳前後の働く女性にとって「子ども」は切実かつ微妙な問題です。私生活では配偶者がいるかどうか、いない場合、近いうちにパートナーを持つことになるかどうか。加えて仕事の忙しさ、収入も気になる要素です。

配偶者がいて、ふたりの収入が安定していて、子育て費用に困らない場合でも、両立できるか? 気になることはたくさんあります。職場に子持ちの女性はいるか。その人は周囲からどう思われているか。保育園に入れるか。配偶者は育児に積極的か…? そもそも、自分は子どもが好きなのか、欲しいのか?

「心から子供を欲しいと思えない私は…」

こういう思いを、分かりやすく丁寧につづったコミックエッセイ『産まなくてもいいですか?』を読みました。主人公のチホは31歳、結婚2年目で子どもはいません。夫婦仲は良く、仕事もけっこう充実している様子。会社には子どもを産んで復帰する女性もいます。実の母親や料理教室の先輩達からは、会うたびに「子どもっていいわよ」とプレッシャーをかけられる…。

本連載は25歳前後の方向けですが、みなさんが数年後に出会う課題を、とても的確に描いているので、2回に分けて、ご紹介します。

チホの悩みは、本の帯にも書かれている一言に凝縮されています。「心から欲しいと思えない私は女失格なのだろうか」。(もちろん、そんなことは、ありません!)

色々課題があっても「子どもが欲しい」と心が決まれば、チホの環境なら産むことはできそうです。経済的な問題はあまりない様子。育休復帰した女性もいる職場だから、両立はたぶんできそう。根が優しそうな夫は、きっと育児を手伝ってくれそう…。

少子化について考える、すべての人に読んでいただきたい本

でも、チホが迷ってしまう理由もよく分かります。職場では異動したばかり。男性部長は新年のあいさつで、育休中の女性社員を指してこう言います。「彼女もじき戻ってくると思うけど たぶんしばらく時短だから ここで他の人にも抜けられると困るので 妊娠出産にはくれぐれも気をつけてくださいね」。

これを聞いた結婚2年目のチホと、新婚の女性社員は目を丸くします。客観的に見たら「マタハラ発言」ですが、糾弾する気になれない職場の現実もあるのです。仕事はチームプレーが多く、ひとり抜けただけでも大変なことは、よく分かる。育休中の女性社員が職場に赤ちゃんを連れてくると、みんな歓迎する雰囲気もあるのです。

だからチホは考えます。仕事を続けようと思ったら、できないことはなさそうだ。夫婦で協力することが欠かせない。夫はどのくらい育児をやる気があるんだろう…。

夫の反応は現実的です。送りはできるけれど、夜は仕事があるから無理。共働きの同僚が育児のために早く帰っていたら左遷されたから…。こう言われると、チホは黙ってしまいます。夫婦ふたりで快適で楽しい生活。この生活を大きく変えてまで、子どもが欲しいのだろうか、と。

少子化について考える、すべての人に読んでいただきたい本です。次回は、この本を読んで、子持ちの私が引き込まれた理由を考えてみます。

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著者プロフィール

●治部れんげ
豊島逸夫事務所副代表。 1974年生まれ。1997年、一橋大学法学部卒業。同年日経BP社入社。記者として、「日経ビジネス」「日経マネー」などの経済誌の企画、取材、執筆、編集に携わる。 2006年~2007年、フルブライト・ジャーナリスト・プログラムでアメリカ留学。ミシガン大学Center for the Education of Woman客員研究員として、アメリカ男性の家事育児分担と、それが妻のキャリアに与える影響について研究を行う。またツイッターでも情報発信している。

【連載】25歳のあなたへ。これからの貯”金”講座

25歳。仕事や私生活それぞれに悩み不安を抱える年齢ではないだろうか。そんな25歳のあなたへ、日本を代表するアナリスト・豊島逸夫ウーマノミクスの旗手・治部れんげがタッグを組んだ。経済と金融の最新動向をはじめ、キャリア・育児といった幅広い情報をお届けする特別連載。こちらから。