経済危機のギリシャに行ってきました。

さぞかし荒廃しているかと思いきや、温暖な地中海性気候でエーゲ海に太陽がふりそそぎ、これが財政破たんした国か?と疑問に感じてしまうぐらいに穏やかな雰囲気。とはいえ前回訪問したときに比べてあきらかにシャッター街が増えていました。

街角には”金買い取りショップ”が雨後の筍みたいにあちこちに出来ています。日本だとデザインが古くなったゴールド・ジュエリーを換金処分してお小遣い稼ぎ……みたいなイメージがありますが、アテネは全く雰囲気が異なります。母から譲り受けた思い出の金ネックレスを明日のパンを買うために泣く泣く手離す。そんな辛い場面が多いのです。そんなところで「あ、やっぱりこの国は破産したのだ」と実感しました。なんというかこれも「家庭内有事の金」の使い道なのでしょうか。ちなみに金買い取り業が今やギリシャで数少ない成長産業だそうですよ。

ギリシャ国内は、勝ち組と負け組に残酷なほど二極化

家庭訪問もしました。お父さんは英語の先生。お母さんは公務員(古美術品修復の専門家。ギリシャらしい)そして子供がなんと4人。長女が26歳で、人懐っこく英語で話しかけてきました。

家庭訪問。手作りの質素な家庭料理の数々でもてなしてくれました。ココロ暖まるひと時でした。右端が長女です

聞けば「ギリシャ国内では就職も出来ないから、ロンドンかフランクフルトで働くつもり」。それで英語を特訓中とのこと。「心残りはアテネに残る父母と妹弟たちです」としんみり語っていました。このままだとギリシャは国全体が過疎化しますね。

ただ、国民全員が飢えに瀕しているのかといえば、そうではありません。勝ち組と負け組に残酷なほど二極化しています。イソップ物語で例えれば”アリとキリギリス”。ユーロや金を普段からコツコツ貯めてきたアリさんたちは、生活水準を引き下げて、なんとか暮らしてゆけます。どうにもならず、教会の慈善事業のお世話になる羽目になっているのが、キリギリスさんたち。将来に備え普段からコツコツ貯めていた人と、ただ漫然と生活してきた人の差がここまで厳しく現実になろうとは。正直、私もショックでしたよ。

件の26歳の長女も「自分はたまたま恵まれた家庭に育ったが、それでも6人家族が生活するのは、今のギリシャでは簡単ではない」と言っていました。友達には負け組の家族も多いそうで、そういう人たちは将来の見通しが全く立たないのだそうです。

ワーママたちが子連れでピクニック。テレビの現地ロケで行ったのですが、マイクを向けたら現政権支持の女性で「これ以上の緊縮倹約生活は耐えがたい」と訴えていました。賃金カット・年金カット・消費税増税で、もう限界にきていることが伝わりました

道端で人が倒れていても誰も構いません。自分のことで精一杯です

日本の若者たちも、コツコツ貯めて自分を磨き鍛えるために投資を

これは「日本にとっても他人事ではない」と思いましたね。なんせ財政赤字の比率はギリシャより日本のほうが悪いのですから。1100兆円という途方もない借金を抱えた日本。少子高齢化の中で、その負の遺産を今の20代の若者たちが引き継ぐことになります。日本は、産業基盤がギリシャとは比べものにならないくらいに堅固なので、国が沈むことはないでしょう。しかし親の作った借金の山を返済するという辛い巡り合わせになってしまったことは事実です。せめて、移民を受け入れる風潮になれば米国みたいに力強い国になれるのですが……。

以前お会いした30代のワーママは、娘を敢えてインド系のインターナショナル・スクールに通わせていました。百戦錬磨のインド人と対等にわたりあえる人材になれば世界を相手にたくましく商売でもなんでもできる。その発想に共感しました。20代の日本人の若者たちにも、一度アテネに行って実態を見て肌で感じて欲しいと思ったほどです。

コツコツ貯めて、自分を磨き鍛えるために投資する、という発想も必要ではないでしょうか。

著者プロフィール

●豊島逸夫
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。2011年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。 三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく独立系の立場からポジショントーク無しで金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。またツイッターでも情報発信している。

【連載】25歳のあなたへ。これからの貯”金”講座

25歳。仕事や私生活それぞれに悩み不安を抱える年齢ではないだろうか。そんな25歳のあなたへ、日本を代表するアナリスト・豊島逸夫ウーマノミクスの旗手・治部れんげがタッグを組んだ。経済と金融の最新動向をはじめ、キャリア・育児といった幅広い情報をお届けする特別連載。こちらから。