「青春18きっぷ」の定番テクニックを聞くと、「なるほど」と思う反面「そこまでしないと満喫できないのか」という印象もあって、逆に敬遠したくなるかもしれない。しかし、ここまでしなくても、もっと気楽に「青春18きっぷ」の旅は楽しめる。長い休みを取れない人だって、公休日だけ、あるいは公休日と有給休暇を1日加えるだけでもいい。そこそこ忙しい人も「トクしたなぁ」と満足できる旅にするには、以下の10項目を心がけよう。

列車に乗ることを旅の目的とする

乗れば乗るほどトクをするきっぷだから、乗らない時間が多いほど損だ。現地で観光する時間が長い旅に「青春18きっぷ」は向かない。例えば、「東京から100km圏内でゆったりランチと温泉巡りと利き酒」なんていう旅をしたいなら、格安バスツアーを選んだほうがいいだろう。「青春18きっぷ」を使う際は、列車に乗ること自体を旅の第一の目的としたい。五能線(青森県)、只見線(福島県、新潟県)、吾妻線(群馬県)など、車窓風景に定評のある路線に出かけよう。

普通列車しかないローカル線を選ぶ

先に挙げた路線に共通していることは、特急が走らない路線であること。「青春18きっぷ」は普通列車に乗り放題のきっぷなので、特急が走る幹線よりも、普通列車しかないローカル線を旅したほうがいい。特急列車を走る路線で長距離を移動したいなら、周遊きっぷや土日きっぷなど、特急列車にも乗車できるフリーきっぷを使ったほうがいい。総額は高くても、時間を大幅に短縮できる。特急列車に乗り放題なら、トクした金額はフリーきっぷのほうが大きいかもしれない。

各駅停車で車窓を楽しもう(大糸線)

移動距離と日程のメリハリをつける

全行程を「青春18きっぷ」で安く済ませたい。目的地でものんびりしたい――。そんなときは、移動日と滞在日をはっきりと分けよう。2泊3日なら、1日目と3日目は移動日とし、2日目は現地でのんびりする。そう決めてしまえばかなり遠くまで足を伸ばせる。東京発の場合、始発列車で東海道線を西へ行けば新山口まで到達できる。上野から始発列車なら、五能線に接続する東能代まで行ける。「ムーンライトながら」を使えば熊本も射程距離だ。これは極端な例だが、出発駅から200km~300kmあたりの目的地なら「朝出発して、お昼に駅弁を食べて、夕方に旅館に入る」というパターンになる。このくらいが体力的にもバランスが取れていると言えそうだ。

特急用車両を使った長距離快速列車も便利

他のフリーきっぷが無いエリアで利用する

青春18きっぷを使っておトクな旅ができた……と思っても、実はそのルートだったら、他のフリーきっぷのほうがトクだったという場合もある。例えば五能線の場合、青森から出発して、日帰りで全区間を乗り通して戻ってくれば、「青春18きっぷ」は1回分で2,300円。ところが、同じ範囲には「五能線パス」もあり、青森発着なら3,200円、有効期間は2日間だ。五能線沿線のどこかで1泊すると「青春18きっぷ」は2回分で4,600円になるから、「五能線パス」のほうがトクだ。

山手線一周を全駅乗降すれば、初乗り130円×29駅=3,770円。これなら「青春18きっぷ」のほうが安いと思う。しかし、この旅なら730円の「都区内パス」が使える。"各駅停車の旅=「青春18きっぷ」"という考えは損かもしれない。フリーきっぷは通年販売の商品も多く、「青春18きっぷ」のように時期による制限がないというメリットがある。行きたいところがあるなら、他に便利なきっぷがないか探してみてほしい。

筆者の私見だが、「青春18きっぷ」は四国の旅には向かない。JR四国の路線はどれも車窓が素晴らしく、各駅停車で巡りたくなる。しかしJR四国は便利なフリーきっぷがたくさんあって、「青春18きっぷ」を選ぶ理由が薄い。極めつけは誕生日の月に利用できる「バースデーパス」。こちらは1万円で3日間有効なのだ。特急列車のグリーン車も乗り放題になる。さらに、同伴者も同額で購入可能ときている。

では「青春18きっぷ」ならではの路線はどこかというと、例えば東京から東海道線の熱海から西方面。御殿場線や身延線など。熱海にJR東日本とJR東海の境界があるせいか、東京発のフリーきっぷがない。そして山陰地方と山陽地方を結ぶ三江線、芸備線、木次線あたり。これらの路線はフリーきっぷや周遊きっぷの範囲から外れており、特急列車もないため「青春18きっぷ」で訪れるべき路線だと言える。

使用開始駅までは青春18きっぷを使わない

社会人になると、お金の節約よりも時間の節約のほうが重要になってくる。お金を払ってでも時間を買いたいという人もいるはず。そんな人が「青春18きっぷ」を活用するなら、目的地までは飛行機や新幹線を使ったほうがいい。

例えば、東京に住む人が「青春18きっぷ」で北海道に行くとする。新宿発の「ムーンライトえちご」を使って新潟へ、そこから各駅停車で北上し、青函トンネルを潜って木古内まで行ける。しかしそれだけで1日を消費してしまう。目的地が北海道なのに、貴重な休暇の1日をそれで潰してはもったいない。

それなら、札幌まで飛行機で行き、そこから青春18きっぷを使えばいい。片道146.5kmの日高本線なら、終点の様似へ行くだけでもトクになる。バスに乗り継いで襟裳岬へ行ってもいいし、日高本線沿線の競走馬の産地を巡ってもいい。こんな旅なら1泊2日でも青春18きっぷを活用できる。

秘境駅でも話題の飯田線を踏破する旅なら、起点の豊橋までは新幹線「こだま」で行き、帰りは中央本線の特急「スーパーあずさ」を使えば日帰りも可能だ。行きたいところへ行くために、必ずしも居住地から「青春18きっぷ」各駅停車で行く必要はない。これを理解するだけでも、旅の目的地は増えるはずだ。

今回はここまで。次回、残りの5項目を紹介するとしよう。