東日本大震災で被災したJR仙石線が約4年ぶりに全線復旧。あわせて仙石東北ラインが開業した。一方、湘南モノレールの経営移管、大井川鐵道の地域経済活性化支援機構による事業再生が決まった。2015年5月は「再生の月」といえそうだ。

仙石東北ラインに導入された新型ディーゼルハイブリッド車両HB-E210系

そういえば、各地の観光列車も「余剰車の再生」といえるかもしれない。JR西日本は岡山地区で213系を再生した観光列車を発表している。鉄道友の会は新型車両の優秀作品を表彰しているけれど、リフォーム・再生車両の意欲作も表彰したらいいのに。

全線復旧と仙石東北ライン開業で仙石線の魅力アップ

5月30日、JR仙石線高城町~陸前小野間が復旧した。2011年3月の東日本大震災で被災した仙石線は、約4年ぶりの全線運行再開となった。高城町~陸前小野間のうち、陸前大塚駅付近から陸前小野駅付近の鳴瀬川橋梁までの約3.5kmは内陸部の新ルートとなり、東名駅と野蒜駅は500mほど内陸部に移設された。これは東松島市が推進する復興まちづくり計画に連動した結果だ。

仙石線を走る205系「マンガッタンライナー」

東松島市の中で、仙石線は海岸線から約1km内側を通っている。しかし、東名駅・野蒜駅付近だけは海岸へ突出した形になっていた。そこへ津波が直撃し、破壊されてしまった。内陸への移設によって、海岸との距離は陸前小野駅付近とほぼ同じとなり、高台にあたるため、安全性が増す。東松島市は新駅を拠点に高台のまちづくりを行う計画だ。旧線は市街地を津波から守るための第3次防潮施設の予定地となっている。

6月2日現在、Googleマップの衛星写真モードでは、新線部分の建設中の様子が見える。山を切り崩す大規模な土木工事となったようだ。報道では、旧駅付近に住む人々にとっては新駅が遠く、上り坂になっているという問題があり、東松島市は無料タクシー制度を発足させたようだ。被災地にとって、新駅と新ルートは復興のきっかけにすぎない。「乗り鉄」諸氏は新ルート乗車も兼ねて観光消費で応援しよう。

「乗り鉄」といえば、東北本線と仙石線を結ぶ約300mの接続線に注目だ。仙石東北ラインが開業した。こちらは純然とした新規開通路線だから、日本全国の鉄道路線を制覇する「乗り鉄」にとって気になる存在。松島~高城町間に設定された営業キロは0.3kmで、ちょうど接続線の長さと一致する。営業キロと実キロの一致はすっきりしており、清々しい。仙石東北ラインの列車は仙台駅の地上ホームを発着し、接続線や仙石線の新線区間を経由して石巻駅に至る。

石巻駅から先、石巻線の終点、女川駅も3月21日に再開したばかりだ。JR東日本仙台支社は6月1日から8月31日まで、「仙台⇔石巻・女川開業記念往復割引きっぷ」を販売している。仙台駅から石巻駅・女川駅までの往復割引きっぷで大人1,200円。仙台~女川間の往復で1,080円もお得なきっぷだ。高台移設で見晴らしも良くなった仙石線に乗ろう!

自治体に頼らない再生 - 湘南モノレール・大井川鐵道

5月22日、三菱重工は湘南モノレールの保有株を「みちのりホールディングス」に譲渡すると発表した。同日、「みちのりホールディングス」は三菱商事・三菱電機の株式も譲受すると発表した。三菱グループ3社は湘南モノレールの株式の92%を保有しており、今回の譲渡で湘南モノレールは「みちのりホールディングス」グループの傘下になる。

「みちのりホールディングス」は、福島交通・関東自動車・会津バス・岩手県北バス・茨城交通に100%出資し、「みちのりグループ」を形成している。その親会社の「経営共創基盤」は、政府が設立した「産業再生機構」の終了後、その一部スタッフが設立した会社だ。つまり、「みちのりグループ」は民間による事業再生ビジネスを手がけている。経営不振の交通事業について、民事再生法にもとづく支援を実施する。債権を金融証券化して経営参加し、再生後の利益を受け取るというしくみだ。

湘南モノレールの経営状況は深刻ではない。しかし、乗客数の低下や古い設備の更新費用が悩みのタネだったという。そこで、運輸事業の経営コンサルタントとして「みちのりグループ」が参加し、機材の調達コスト削減や広域な集客連携などを実施するという。

大井川鐵道は昨年に続き、6月から「きかんしゃトーマス号」を運行開始した

5月29日には、大井川鐵道の地域経済活性化支援機構による事業再生が決定した。大井川鐵道はSL運行で全国的に知られ、最近は『きかんしゃトーマス』シリーズとの連携で話題だ。しかし、こちらも沿線人口の低下などで一般客が減少、さらにSL運行でライバル会社が増え、観光バスツアーの減少にともない経営不振に陥っていた。事業再生にあたっては、北海道のホテル「静内エクリプスホテル」を経営するエクリプス日高がスポンサーとなる。

大井川鐵道は名鉄が筆頭株主で、社長以下4名の取締役を派遣していた。しかし、今回の事業再生計画では、名鉄が株式を譲渡し、さらに大井川鐵道の新株をエクリプス日高が引き受ける。名鉄は事実上撤退となる見込みだ。地域経済活性化支援機構は政府が設置する法律にもとづいて作られた組織で、地方自治体の事業再生の調整、監督役となる。

このふたつの事業再生は、地元自治体が金銭的に関与しないという共通点がある。地方鉄道の経営支援は、ひたちなか海浜鉄道のように地元自治体が参加して第3セクター鉄道になる例と、和歌山電鐵のように民間企業が参加する例がある。湘南モノレールも大井川鉄道も民間企業による再生だ。支援する企業にとって、事業再生の成功によって利益を期待できるという意味である。

最悪の事態になる前に救われたと考えられる。しかし水間鉄道のように、民間企業によって再生しても、自治体の支援を受ける事例もある。油断は禁物といえそうだ。

ブルーリボン賞・ローレル賞に鉄道の進化を実感

5月21日、鉄道友の会は2015年の優秀鉄道車両に贈るブルーリボン賞・ローレル賞を選定した。ブルーリボン賞は北陸新幹線のJR東日本E7系・JR西日本W7系。ローレル賞はJR東日本EV-E301系と、箱根登山鉄道3000形「アレグラ号」が選ばれた。

鉄道友の会ブルーリボン賞に選定されたJR東日本E7系

E7系・W7系の受賞理由を要約すると、「勾配や降雪という厳しい線区条件下で安全性と信頼性を確保」「和の未来をテーマとしたデザイン」となる。北陸新幹線開業における交通・経済・国土発展を象徴するという意味合いも大きい。

EV-E301系は、蓄電池で走る「非電化路線向けの電車」という画期的な技術が受賞理由だ。鉄道路線の電化といえば、全線にわたって架線を張る必要があった。蓄電地電車は線路の電化コスト、保守コストを大幅に削減できるほか、景観を損わないというメリットもある。外観は従来の通勤電車に準じており、やや地味な印象もある。しかし技術は一級品。今後、鉄道の無架線化が進むとしたら、間違いなく日本の鉄道史の節目となる。

箱根登山鉄道3000形「アレグラ号」は、同社25年ぶりの新型車両だ。運転席に大型ガラス、客室端側面と乗降扉も大型ガラスの展望窓を採用し、観光鉄道ならではの「景観を楽しむ」を追求した。箱根登山鉄道はスイッチバックの高低差が名物で、下方の景色を見たくなる。あじさいの時期をはじめ、線路際の植物も愛でたい。そこで、「足元を見せるという展望窓」のアイデアが生きている。4種類のブレーキ装置による安全性、時速5km以上の定速走行機能で運転士の負担を軽減させるというアイデアも斬新だ。

鉄道友の会ローレル賞に選定されたJR東日本EV-E301系(写真左)と箱根登山鉄道300形「アレグラ号」(同右)

鉄道友の会は設立から62年の歴史を持つ趣味団体だ。ブルーリボン賞は1958年から、ローレル賞も1961年からの伝統がある。どちらも会員投票をもとに、識者による選考で決定する。ブルーリボン賞は投票結果を尊重し、ローレル賞は識者の意見が強めに反映される傾向がある。鉄道趣味として鉄道車両を評価する賞だけど、いまや社会情勢、技術革新などの時代背景を映す象徴のひとつともいえる。ブルーリボン賞は時勢を表し、ローレル賞は技術進化を表すと考えると、鉄道ファン以外にとっても興味深いと思われる。

西武鉄道が観光列車を導入 - 新車? 改造車?

西武鉄道の観光列車は、5月19日に発表された「2015年度の鉄道事業設備投資計画」に盛り込まれている。具体的な路線や時期は未定という。「新型特急」ではなく、「観光列車」という表現を使っている。

日本で「観光列車(向け車両)」というと、ほとんどが中古車両の改造である。水戸岡鋭治氏がデザインを手がけ、JR九州で展開される「D&S列車」などがそうだし、東武鉄道も6050系を改造し、「スカイツリートレイン」を仕立てた。この流れで考えると、西武鉄道では引退が進む3扉車の101系が改造候補になるだろうか? ならば、運行区間はホームドアが設置されない近郊線区になると思われる。

西武鉄道10000系「ニューレッドアロー」

ところで、西武鉄道の看板列車として、10000系「ニューレッドアロー」が挙げられる。製造から20年経過しているとはいえ、古さを感じさせない。しかし、小田急電鉄は2005年にロマンスカーVSE(50000形)、2008年にロマンスカーMSE(60000形)を導入。京成電鉄は2010年に「スカイライナー」の新AE形を導入した。東武鉄道は1990年デビューの「スペーシア」の後継車として、500系を2017年に導入する予定だ。そろそろ西武鉄道も新しい特急車両が出てきていい時期かもしれない。

6月5・6日には、6000系を使ったダンスイベント列車を走らせたばかり。かつては犬と一緒に乗れる列車の企画もあった。西武鉄道には斬新なアイデアを許容する文化があるようだ。今後の車両展開に注目したい。

乗れない車両を連結する「懐かしの115系諏訪号」

その他に注目したいニュースとして、JR西日本岡山地区の観光列車、JR東日本のリバイバルトレイン、京都鉄道博物館を挙げておきたい。

岡山地区の観光列車は2016年春に導入予定で、近郊形電車213系を改造する。「旅に必要なモノとコトが全部ある『旅の道具箱』」がテーマで、サイクルスペースを設置予定。おもな運行区間は宇野線になるようだ。宇野線は宇高連絡線の頃は本州と四国を結ぶ主要路線だった。瀬戸大橋線が開通して以降、茶屋町~宇野間はのんびりした区間になっている。海が見えない区間だけに、どのような演出になるか興味深い。

5月22日には、JRグループが夏の臨時列車を発表している。その中で注目したい列車が、JR東日本の「懐かしの115系諏訪号」だ。横須賀色の115系に、単行電車クモユニ143形を増結して運行するという。クモユニとは「運転台付き電動車」で、用途は「郵便・荷物輸送」である。103系のような高窓タイプの平らな前面形状が特徴だ。かつては東京・大阪近郊で113系や115系に連結され、新聞や郵便を運んだ。

「懐かしの115系諏訪号」の懐かしさは、この「荷物電車の併結」にある。座席がないから、車内の見学はできるかもしれないけれど、乗車はできないだろう。つまり、乗客向けというよりは外観の懐かしさ、つまり「撮り鉄向け」だ。「撮り鉄」は「乗り鉄」と比べて鉄道会社の売上に貢献しにくく、マナーについて否定的に扱われがち。しかし、「撮り鉄」は沿線のガソリンスタンドや商店を利用するから、地域の経済に貢献する。「撮り鉄」の経済効果を認めた列車といえるかもしれない。

京都鉄道博物館の開業が2016年春に決まり、JR西日本は5月20日に収蔵車両を発表した。梅小路蒸気機関車館と、昨年春に閉館した交通科学博物館の車両を引き継ぐ。新たに0系新幹線ビュッフェ車両、100系・500系新幹線車両、ブルートレインも牽引したEF66形電気機関車、「トワイライトエクスプレス」客車なども加わっている。中高年だけではなく、若い人にも「懐かしい」と思わせるラインアップ。開館が楽しみだ。