前回は、コンピュータネットワークを実現するための約束事となる「プロトコル」について概略を紹介しました。その際、通信は複数のプロトコルの集合体で成立していると説明しました。これらプロトコルの集まりを、プロトコル群、プロトコルスイート、プロトコルスタックなどと呼びますが、本連載では、プロトコルスタックと呼ぶことにします。

今回から数回にわたり、私たちが実際に使用している「TCP/IPプロトコルスタック」とその階層モデルについて紹介していきます。

TCP/IPとインターネット

1970年代から、アメリカでは「ARPANET」というコンピュータネットワークの研究を進めていました。そして、1982年にこの「ARPANET」で標準プロトコルとして採用されたのがTCP/IPです。このネットワークが後に「インターネット」と呼ばれる世界規模のネットワークを構成する根幹となりました。

1990年代後半から2000年代にかけ、インターネットが爆発的に普及し、あらゆるコンピュータや通信端末のメーカーが、自社製品にTCP/IP通信を行うプログラムを標準搭載しました。このような背景から、TCP/IPはインターネット上で使用する標準的なプロトコルとなったため、デファクトスタンダード(事実上の標準)と呼ばれています。

TCP/IPの通信モデル

前回紹介した「OSI参照モデル」と同様に、TCP/IPもコンピュータ通信に必要な順序、機能を区分した構造を持っています。OSI参照モデルとTCP/IP階層モデルを比較すると、おおよそ以下のような関連付けになります。

OSI参照モデルとTCP/IP階層モデル

今回は「ネットワークインタフェース層」を紹介します。この階層は、OSI参照モデルの「物理層」と「データリンク層」の2つの階層に相当します。「データを電気信号に変換する」という物理層の機能と「同じネットワークに接続された複数のコンピュータを区別し、1つのコンピュータへデータを伝送する」というデータリンク層の機能が定義されています。

この役割を担うのにふさわしいプロトコルや通信規格が数多く確立している中、新しい規格を作るよりも、既存のプロトコルをTCP/IPと上手に組み合わせて使おうという考え方です。この階層で定義されている代表的なプロトコルは、表1に示すものとなります。

表1:ネットワークインタフェース層を定義した通信規格

用途 プロトコル
LANで利用 Ethernet、TokenRing、FDDIなど
WANで利用 PPP、ATM、Frame-Relayなど

有線LANで使用されるプロトコルはEthernetとなります。今回は、このEthernetの物理層の機能を詳しく見ていきます。

Ethernetの物理層機能

さて、ここからはEthernetの物理層の機能について説明します。

最初にEthernetとは、IEEE(アイ・トリプル・イー、※)が定める有線LANの規格を総称したものであり、IEEE802.3で仕様が公開されています。

※ IEEE:米国電気電子学会(Institute of Electrical and Electronics Engineers) コンピュータや通信などの電気・電子技術分野における規格の標準化をする団体。

Ethernetには100Base-TXや10Base-5などの規格名があり、この規格名の命名規則は以下のように規定されています。

(1) 伝送速度 単位はMbps、100の場合は100Mbps
(2) 伝送方式 Baseはベースバンド
(3) メディアタイプ アルファベットの場合はケーブルの種類。TXはツイストペアケーブル、ほかに光ファイバケーブルを使用する場合は「FX」「LX」などがある。数字の場合は、最大ケーブル長。単位は100mで、10Base-5は500m、10Base-2は185m

そして、伝送速度によって規格名は異なります。例えば、伝送速度が10Mbpsの規格名をEthernet、100Mbpsの規格名をFastEthernetなどと、規定されています。

規格名 伝送速度 規格の種類
Ethernet 10Mbps 10Base5、10Base2、10BaseT
FastEthernet 100Mbps 100Base-TX、100Base-T4、100Base-Fx
ギガビットEthernet 1000Mbps(1Gbps) 100Base-T、100Base-CX、1000Base-SX、1000Base-LX
10ギガビットEthernet 10Gbps 10GBase-T、10GBase-LX4、10GBase-SR、10GBase-LR、10GBase-ER

有線LANで主に使用されるケーブルは、ねじり合わされた(ツイスト)細い2本の導線(ペア)が4組で構成されているケーブルです。その特徴から「ツイストペアケーブル」と呼ばれています。

ケーブルの両端は「コネクタ」と呼ばれる透明なブロック状のプラスチックで加工してあります。コネクタの中に8本の導線をどのような順序で並べるかも標準規格で定められています。

UTPケーブル

両端とも導線の並びが同じ組み合わせで配置されているものをストレートケーブル、両端の導線の並びの順番が入れ違いになって配置されているものをクロスオーバーケーブルと呼びます。これらのケーブルは、接続する機器によって変わります。

ネットワーク接続機器のポートは、MDI (Medium Dependent Interface) とMDI-Xの2種類があります。MDIは送信用として「 1, 2 」ピン、受信用として「 3, 6 」ピンを割り当てられたポートで、PC、ルータなどが該当します。

MDI-Xは送信用に「3, 6」ピン、受信用に「1, 2」ピンを割り当てられたポートで、スイッチやハブが該当します。ネットワーク通信を行うには、送信用ピンで送信した信号が、接続先の受信用ピンで受信する必要があります。

PCとPCといったように同じ機器を接続する場合、送信ピンから送信した信号を受信ピンで受信できるようにケーブル内でクロスさせる必要があるので、クロスオーバーケーブルで接続する必要があります。このように、MDI同士またはMDI-X同士を接続する場合は、クロスオーバーケーブルで接続します。

一方、PCとスイッチのようにMDIとMDI-Xを接続する場合は、送信ピンと受信ピンが別のため、ストレートケーブルで接続します。

最近は接続先のポートのタイプを自動判別して、ストレートケーブルやクロスオーバーケーブルに関係なく相互接続できるようにするAuto MDI/MDI-X機能を搭載したスイッチなども販売されています。

接続デバイスとケーブル

第3回まとめ

  • TCP/IPは現在、世界的な標準プロトコルとして利用されている。
  • EthernetはTCP/IPのネットワークインタフェース層に当たり、OSI参照モデルにおける物理層とデータリンク層の働きに相当する。
  • LANの環境では主にツイストペアケーブルが使用される。
  • ツイストペアケーブルはピンの並びによってストレートケーブルとクロスオーバーケーブルがある。
  • MDIポートのデバイス同士、または、MDI-Xポートのデバイス同士を接続する場合はクロスオーバーケーブルで接続する。
  • MDIポートのデバイスとMDI-Xポートのデバイスを接続する場合はストレートケーブルで接続する。
板倉 恭子
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部 第1応用技術部 ネットワークアカデミーチーム所属
ネットワークインストラクター歴13年で、過去にCisco認定インストラクター試験の試験官にも従事。
ネットワークをベーススキルとして、オリジナルコースや顧客要望に合わせたカスタマイズコースのカリキュラム作成やコンサルタント業務を担当。