湿度が高く、不快指数の高い日本の夏。そんな気候でだるくなってしまい、夏になると何も食べたくなくなる、という方は多いかもしれません。

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第25回は、「甘いもの」が好きで、体調を崩しがちだったとある患者さんの改善例についてお話しいただきました。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID:@asilliza

このところ、私の臨床でのトピックスとして、「甘いものを控える」ことを勧める……というものがあります。ダイエットではメジャーなやり方ですが、実はこれまで、私は間食について厳しく指導してはいませんでした。というのも、私の指導目的は「体の不調の改善」なので、甘いものを多少とったからといって、大きな問題にはならないからです。

患者さんたちは皆大人なんだから、食事の内容に響かない程度のものを少し食べているだけなのだろう。そう思っていたのですが、ところがどっこいそんなことはなかったのです。個人が特定できないよういくつかの症例を混ぜてはいますが、実際にあったエピソードを元にお話したいと思います。

とある女性の患者さんの主な症状は「肩こりや首のコリがひどく、月に数回は偏頭痛が出る」というものです。加えて、足は冷えてむくみやすい状態。時々、座骨神経痛のような痛みも発生し、「仕事で負荷がかかると背骨が痛い」ともおっしゃっています。体重は標準体重の範囲内、場合によっては痩せ型に傾くことも。そんな「彼女」、指導前の朝食はこんな感じでした。

・トーストにバターとジャム
・市販のフルーツ入り加糖ヨーグルト
・サラダ
・卵料理
(これに場合によってはチョコレートスプレッドがつく)

形だけ見れば品目の多い模範的なメニューですが、ジャム、チョコレートスプレッド、砂糖入りヨーグルトに果物など、朝から甘いものばかりです。とっている栄養素だけで考えたら、おそらく「フルーツパフェ(チョコレートがけ)とサラダ、卵料理」とあまり大差ないかと思われます。

砂糖をとりがちな傾向は朝食だけではありません。午前中と午後にコーヒーを一杯ずつ飲んでいて、一杯につき角砂糖を3つほど入れて飲んでいました。コーヒーを飲む目的を聞いたところ、「むくみが強いので、利尿作用があるからと思って」とのことでした。

また、週に2~3回はカップ入り高級アイスクリームを食べる習慣があり、チョコレートは常に買い置きしてあるとのこと。週末は「甘いものを食べると疲れが取れると思って」、友人とパンケーキやスイーツバイキングへ……。

この患者さんには、甘いものだけやめていただくように説得しました。他の食事内容は特に気にしなくても構わないから、間食や、朝食のヨーグルトのように加糖されているものを避けるように、と。最初はものすごい抵抗にあいましたが、粘る私に根負けして「じゃあ、半月だけ頑張ります」と言い残して治療室を後にしました。

そして半月後。甘いものの摂取をやめた彼女に聞くと、頭痛も肩こりも、背骨の痛みも無くなっていたというのです!勧めた私の方が驚いてしまうくらい、早く効果が現れました。

ここで、「白砂糖が危険なんだ!」と考えるのは早計です。砂糖をとること自体が悪いのではなく、単純に量が多かっただけなのですよ。キーになるのは、「体重は標準範囲内、場合によっては痩せ型に傾く」ということです。

これだけ甘いものを間食でとっているのに体重が標準範囲内というのは、摂取カロリー面から見て矛盾があります。要するに、食事の量を減らしてその分甘いものを食べているということなのです。細かく聞いてみると、やはり、間食をした時は食事を抜いたり、減らしたりしていることが判明しました。

ちょっと怖いことを言いますが、こうした「甘いもの優先」の食生活をすることで、体に絶対に必要な栄養素が不足し、栄養失調が起こっている可能性があります。糖分を過剰に摂取すると、それを体に取り込むために必要となる栄養素、特にビタミンB1が不足する可能性が高くなるのです。

その一例として、社会福祉法人「日本子ども家庭総合研究所」の文献抄録に、「イオン飲料多飲による脚気の1歳児」というものがあります。これは、食欲不振でおう吐が続いた小児にイオン飲料を与え続けた結果、ビタミンB1不足に陥って脚気に罹患した症例についての報告です。この記事の中に、以下の記述があります。

「ビタミンB1は炭水化物代謝において補酵素として作用するため、炭水化物の過剰摂取、甲状腺機能充進、発熱等により必要量は増加し、水溶性であるため下痢、利尿剤投与、透析等で喪失される。ビタミンB1が数週間欠乏すると疲労、無感情、易刺激性、抑うつ、傾眠、食思不振、悪心などの初期症状が出現する」

ひょっとしたら、先ほどの患者さんも結果として似た状況に陥っていて、甘いものを減らしたことでビタミンB1の欠乏が改善されたのではないのか……?と、私はそう疑っているのです。

なんとなく体の調子が悪く、甘いものが大好きな方は、一度食生活を見直してみてください。思っている以上に様々な栄養素が不足しているのかもしれないですよ。今回とは違う方向から「甘い物」についてお話した回に、食事バランスを考える際のポイントを書いてありますので、こちらもぜひご覧ください。