朝食は1日の活力であるというような話はちまたにあふれ、中には子供の学力にも影響するような調査結果も出されたりしていて、「朝ご飯=よいもの」というイメージは根強いもの。不規則な生活になりがちなクリエイター職には耳の痛い言説ですが、では「朝食だけ」食べていればセーフ、と言えるのでしょうか……?

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第22回は、健康の要として語られがちな「朝食」の役割と、それに適した食事内容についてのお話です。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID:@asilliza

ウチの息子が以前、保育園から「そうだ、やっぱり早起き・早寝! 」という冊子を持って帰ってきました。これ、東京都が配布しているものなのですが、この冊子を読むと、子供らが朝起きられない・朝食をとらない状態に陥っている現状がよくわかります。

この冊子のいいところは、「早起き・早寝」を主題としながらも、「朝食」をはじめとした食事や日々の活動を、別々の事柄としてではなく、密接にからみあった要素であると明記しているところです。

それとは逆に、「朝食をとると学力アップ!」という話をよく聞きますが、朝食と学力の相関関係は弱いと考えています。朝食をとる・とらないが直接的に学力や能力の向上に役立つかどうかは正直言って眉唾物ですが、朝食をとることによって空腹に耐える時間は少なくなり、その結果として集中力が増すであろうことは予想できることですね。私も、おなかが減ると集中力が下がります。

朝食は健康上の「リスクヘッジ」

では、朝食に明確な利点は無いのかというとそんなことはありません。1日2回の食事で必要な栄養素を摂取しようとすると一回当たりのカロリーは多くなりますし、何らかのアクシデントが発生した際に欠食すると、身体的ダメージが非常に大きくなります。ですから、3食に分散しておいた方が健康上のリスクヘッジができるというわけです。朝ごはんを食べないで出社し、午前の会議が長引いて昼食が午後3時ごろに……なんてことになると、会議の最後の頃なんか集中力も何もありません。

また、「朝食」は昼・夜の食事と比べて手軽さが重視される点も気になっています。朝は忙しい人が多く、また「朝食をとるべき」とあちこちで言われていますから、何でもいいからとお腹に入れてしまいがち。ですが、お菓子をかじっていたり、ドリンクタイプの機能性食品を飲んだりするだけで済ませてしまっていたとしたら、それは朝食とは言えないものです。

1日に必要とされている栄養素とカロリーを3回に分けて摂取するのですから、炭水化物・タンパク質・野菜の3種類をきちんとそろえたものでなくては「食事」とはいえません。お菓子や機能性食品は内容として糖質や脂質に偏っており、通常の食事ととらえてしまっては問題があります。これについては連載第11回「コンビニで買える「健康にいい」機能性食品、実際の効果は?」をご覧ください。

朝食初心者はまず「スープ」

東洋医学の食養生的に考えるのであれば、季節に合わせて朝食の内容を変更します。暖かい季節は果物や生野菜プラスたんぱく質を少量、それに小麦や小豆、蕎麦などを主体とした炭水化物をとると体を涼しく保つことができます。

寒い季節は果物を控え、野菜スープなど加熱した野菜類にタンパク質を多めに設定します。炭水化物類は体を冷やす作用が少ない米や小麦類を主体にします。

……ですが。そんな細かい操作は無理!とおっしゃる方。なんでもいいですから鍋にお湯を沸かし、そこに季節の野菜とお好みのたんぱく源、それに何らかのだしと調味料を投入し、まずはスープを作ってください。コンソメキューブや鶏ガラの顆粒などの便利なものも多く売られていますし、味付けは和風でも洋風でも構いません。そこに、炊いた米を一膳! これで煮たてれば雑炊のできあがりです。

もう少し余力があるなら、もう一つ鍋にお湯を沸かし、うどんでも蕎麦でも素麺でもゆでて、それを先ほどのスープに放り込んでください。これで美味しい麺類の完成です。雑炊も麺も面倒なら、作ったスープに食パン一枚でも合わせてください。こうすれば炭水化物・タンパク質・野菜を全部摂取できて、洗いものも、ごく少量で済みます。冷凍野菜などを活用してもいいでしょう。「朝は和食」「丁寧に作る」など細かなことは考えず、まずは毎日朝にスープを中心とした食事を続けることで、体の調子が変わってくるのを実感できるはずです。

ちなみに、食養生が一般的である中国や台湾には、美味しい朝食屋台がたくさんあるそうです。そういったものが日本にもあればもっと手軽にバランスのいい朝食をとれるだろうに……と思っています。味も日本人好みのものが多く、現地では日本人観光客が押し寄せている店もあると聞くので、国内で流行っていないのが不思議なほど。どなたかそういったチェーン店舗を展開してくださる方はいらっしゃらないでしょうか?