長い冬を越え、春がやってきたと感じられる今日この頃。ですが、変わり目の天気は変動も激しく、体調を崩している人も多くいるのではないでしょうか。

頭痛やめまいなど明確な主因のわかりにくい体調不良には、もしかしたらこうした「季節」による要因が関係しているのかもしれません。

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第16回は、季節の変わり目に起こりやすい不調(自律神経失調症状)についてお話いただきます。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID:@asilliza

桜の花も東京では終わりを告げて、あと10日前後で札幌に、5月の連休には北の端まで桜前線が北上する予定です。もうすっかり春……と言いたいところなのですが、このところ気温が乱高下することが多く、朝晩が冷え込んでも日中は夏日……なんてこともよくあります。

夏や冬の方が身に堪えると思う方は多いかもしれません。しかし、寒いなら寒い、暑いなら暑いと気温が一定に推移している方が、自律神経に対しての影響は少ないのです。朝夕と日中の気温差が5~7度以上になると、自律神経失調症状による体調不良が出やすくなります。

また、気温のほかにも、春先に進学や就職、部署替えなどで身の回りが新しい環境になるのも、同じく体調不良の原因となります。新しい人間関係というのは、志望校合格や昇進などで喜ばしいものであったとしても、ストレスなのです。

魚を飼育したことのある人ならご存じかと思いますが、水槽の水替えの際は環境変化を少なくするため、必ず半分ずつ水を取り換えるのです。ですが、人間の世界ではそういった調整は難しく、環境変化は一気に起こりますから、それはそれは大きなストレスとなります。これも、自律神経失調症の原因となりうるものです。

自律神経失調、医師からみて「なんともない」一つの理由

自律神経失調症状の具体的な症状は多岐にわたっており、めまい、耳鳴り、吐き気、頭痛、微熱、過呼吸、倦怠感、不眠、嗜眠、生理不順、味覚障害、情緒不安定、妄想、抑うつ状態、動悸、息切れ、冷や汗……などなどが、入れ代わり立ち代わり引き起こされます。

多彩な症状が入れ代わり立ち代わり現れることが多く、あまりにコロコロ変わる症状とその辛さに驚いて重篤な病気と思い、急いで病院に駆け込むと、「なんともありません」「神経質な方ですか?」と言われたり、軽くあしらわれてしまったりして、憤慨する方もしばしばいらっしゃいます。

医師がこういった訴えを軽くあしらう理由は、自律神経失調の症状では死に至ることはないから……なのですよ。だから、そのようなことがあっても、疑心暗鬼にならず、「ああ、死ぬような病気ではないから安心だ」と思うようにしてみてください。「自分は原因不明の病にかかっているのでは」と思い込んだり、改善しない症状にいらだったりすると、余計にストレスがかかってしまいますから……。

東洋医学で「なんとなく」の不調に対処

具体的な疾患がないのに起こる不定愁訴は、西洋医学よりも、東洋医学が得意とする領域です。気温差が5~7度も開く時は、気圧も乱高下していることがありますので、以前お話した気象病の対処で乗り切れる場合もあります。

そして、環境変化による新しい人間関係につきものなのが、飲食を伴う付き合いの席。夜は少し冷える春の頃に、お花見だ、歓送迎会だと飲み食いして帰宅が遅くなる……などということを繰り返していると、消化器官が疲弊してきます。そこにさらに寒さが影響して、おなかの風邪を引きやすくなります。また今年は湿度が高めなのが、胃腸障害に拍車をかけてきています。東洋医学では、湿気が多いと下痢や嘔吐、食欲不振が増えるとされているのです。

これらを防止するには腹八分目を守ること……なのですが、どうしてもお付き合いの席は避けられないものです。食べ過ぎ・飲みすぎで胃もたれしてしまった……という場合は、豊隆という経穴(ツボ)に爪楊枝を10~20本程度束ねたものを軽くトントントンとたたくように押し当ててやってください。この「爪楊枝鍼」は、鍼による治療を簡易化したものです。

「豊隆」の位置

爪楊枝鍼

おなかが緩くて胃がちゃぷちゃぷするし、何となく食欲がない……という場合は、中かんと裏内庭にペットボトル温灸を。ペットボトル温灸は、以前のコラムでもお伝えしましたが、お湯を入れたペットボトルを使うことで、お灸を自分自身に行えるようにした方法です。やり方はこちらのページを参考にしてくださいね。

「中かん」の位置

「裏内庭」の位置