肩こり、腰痛はクリエイターの慢性病、といっても過言ではないかもしれません。前回は、これらの症状の「根」とも言える、体にかかっている力を抜くことについてお話が展開されました。

では、実際に仕事をするにあたって、肩こり・腰痛を避けるには、どうやって座ったらよいのでしょうか?

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第16回は、クリエイターの慢性病ともいえる肩こり・腰痛を避けるための「座り方」の解説です。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID:@asilliza

第14回のコラムでは、体の力を抜くお話をしました。今回は、肩こり・腰痛にならないための、基本的な姿勢のつくり方をお教えします。

クリエイター業の場合、長い時間座っている方がほとんどでしょう。ですから、今回は立ったり歩いたりする際に起こる肩こり・腰痛防止ではなく、座った姿勢で引き起こされる骨盤から上のコリや痛みに特化してお話しましょう。

よい姿勢は“緊張しない”もの

『痛くない体のつくり方』光文社新書より

良い姿勢を作ろうとすると、余分な力が体のあちこちに入って、カッチカチに固まってしまうと思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。前回、「姿勢を積み上げる」という言葉を使いましたが、体のパーツを積み上げるようにしてバランスよく姿勢を構築すると、カラダに余計な力は入らないため、長時間座って行う作業も難なくこなせます。

反対に、胸を張って腰を反って、あちこちを固めて作った見た目だけが「正しい姿勢」は、余計な力ばかりが入っているため、作業しながらその姿勢をほんの数分だって保持できないでしょう。

まずは、坐骨を座面に突き刺すようにして座ります。坐骨といわれてもどこにあるかわからない方がほとんどかと思いますが、図の位置に存在しています。積み上げるためには土台が必要で、これが基礎になります。座骨が椅子の座面に当たるように座るわけです。

たったそれだけ、と思えるようなことかもしれませんが、案外「尾てい骨」を座面に当てるようにして座るのを「坐骨で座る」ことだと勘違いしていらっしゃる場合は多いです。尾てい骨と坐骨の位置関係を見るとわかりますが、尾てい骨のほうがより後ろに存在しています。このため、尾てい骨を座面に近づけようにすると、背中が丸まってしまいます。この状態から腰を反って見た目だけ美しい姿勢にしようとすると、無理な力がかかるため腰痛が起こってしまうのです。

一般的に、姿勢を整える時は”背筋を伸ばす”など見栄えから入ることが大半です。小さいころ、学校などでそう注意された方も多いかもしれませんね。ですが、体を痛めない「正しい姿勢」のためには、何よりも坐骨を真下に向け、座面に突き刺すようにして基礎を作ることが大切。ここから始めて、他の部分の姿勢も整えていきます。

座骨を起点に姿勢を積み上げる

『痛くない体のつくり方』光文社新書より

左右の坐骨が座面に刺さったら、次はその真上に首と頭が来るように持ってきます。これで、背骨が坐骨の上につみあがった状態になります。頭蓋骨が真上に来るというより、首の骨、もしくは、鼻の奥が坐骨の上に位置する感覚です。この時、どこかに力を入れて固めて首の位置を決めるのではなく、上からフワッと坐骨の上に置くようなイメージで行いましょう。

あたまと坐骨の位置が決まると、胴体はおよそちょうどいいくらいの位置に納まるようにできています。ですが、この状態で直立したままですと、低い位置にある画面を見てパソコンを扱う作業などには向きません。この場合、股関節から屈曲して坐骨と背骨ごと前に傾斜させるよう仕向けます。

残りは肩回りですね。体の前にも出ず、後ろにも出ない所場所に肩甲骨を載せてやるようにします。背骨を積み上げてから、その姿勢のまま腕を前に組んで左右の肩甲骨の間を広げるようにストレッチ、その後、後ろに手を組んで、左右の肩甲骨の間を狭めるようにストレッチします。コツはグイッと力を込めて思い切り伸ばし、その後一気に脱力させること。この時、出来るだけ肩甲骨が上がらないよう注意してください。前後セットで数回行うと肩回りの筋肉が脱力し、一番良いところに落ち着きます。具体的な位置は図を参照してください。

肩先がだいたい胸椎の真横、耳たぶの下あたりの位置になるのが理想的です。ですが、正しい位置を意識しすぎて、あちこちに力を入れて位置を整えようとするのはNG。あくまでも無駄な力が抜けるとこの位置に収まるというものです。

『痛くない体のつくり方』光文社新書より

「正しい姿勢」は本来苦しいものではなく、人の骨格の仕組みにたがって積み上げ、構築すると大変心地よいものです。肩こり・腰痛に悩まされている方はぜひ挑戦してみてください。