仕事に追われている時、あなたはどんなものを食べていますか?

修羅場に追い込まれたクリエイターをはじめ、食べる暇も無い程忙しい時には、買ったらすぐ食べられる菓子パンや、買いだめてあったお菓子に手を伸ばし、空腹をしのぐ人も多いかもしれません。急場しのぎならともかく、こんな食事が「普通」になっていたとしたら、何だか気分が重く、つらい感覚になっていないでしょうか。

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。

第5回は、締め切りに終われるクリエイターが陥ってしまいがちな「温度のない」食事が心に及ぼす悪影響と、そこからの脱却について語っていただきました。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID: @asilliza

突然ですが、『じゃりン子チエ』 って漫画、ご存知ですか?

ある一定年齢以上の層には大変有名なこの作品。大阪の西成で小学校五年生にしてホルモン焼き屋を経営しているチエちゃんとダメ父とその周辺のお話なのですが、単行本5巻、おばあちゃんのセリフにとてもいいものがあるのです。

「人間に一番悪いのは腹が減るのと寒いゆうことですわ。長いこと生きてますとな、ほんまに死にたいちゅうことが何回かありますのや。そおゆう時メシも食べんともの考えるとロクなこと想像しまへんのや。ノイローゼっちゅうやつになるんですわ。おまけにさむ~~~い部屋に一人でいてみなはれ。ひもじい…寒い……もお死にたい、これですわ。」

クリエイター界隈では、ご飯を食べる時間ももったいない、そんなものに時間を割く余裕はないとばかりに、機能性食品やそのまま何も手を加えず食べられるコンビニのサンドイッチやおにぎりなど、食べ物自体に温度がない「さむ~~~い」食品ばかりを食べ続けている方が多く見受けられます。

臨床で出会う、チエちゃんのおばあちゃんが言う「ノイローゼ」になっていると思しき方々は、確かにろくに食事もとらず、食べても菓子パンや機能性食品など、袋や箱を開けたらそのまますぐ手づかみで食べられるようなものばかりを召し上がっている傾向がありました。

私としては「なぜこんな寒々しい食事をえさのように食べるのだろう」と不思議でならなかったのです。が、ある時、Twitterにて #養生サバイバル というハッシュタグを立ち上げた際、謎が解けました。

なぜ「さむ~~~い」食事が常態化してしまうのか

このハッシュタグを使ってツイートしてくれた方々のコメントを読んだことで、お金がなくて、長時間労働で、めんどくさくなってきて、その結果、「食べること」を手放してしまうために、こうした「さむ~~~い」食事が常態化するということが分かりました。

いくら食事が面倒だと言っても空腹だとつらいので、パッケージを開ければすぐ食べられる食事を胃に詰め込むようになり 、栄養素のアンバランスにより体調不良を引き起こし、そのうち精神のバランスも欠くようになっていくという……。世に溢れている「自炊テクニック」など遠い夢、もっと厳しい状況にいる方が大勢いることに愕然としました。

このハッシュタグ は今もTwitter上にあり、ときどき書き込みがなされています。TogetterにもPert1Pert2と2つにわけてまとめておいてあります。このハッシュタグをそのままタイトルに採用し、つらい状況の中でも生き抜くための方法を収録した書籍「養生サバイバル」も出版されています。

何は無くとも「温度」を取ること

いったいどうしたら忙殺されて生きる気力も消えかけている人が、温かい食事を用意できるのだろう……と、模索した末の結論。それは、「手段はなんでもいいから、お湯を沸かそう。」だったのです。

お湯を沸かして、飲み物を淹れる。お湯を沸かして、カップスープを作る。そうして温かいものを口にすること。「エサ」ではなく、最低限の「人間らしい食事」をそろえること。それが自分のための食事をあつらえること、自炊への突破口になるのです。お湯を沸かすのが 、『養生サバイバル』の最初の一歩です。

『養生サバイバル』はじめたての人が気をつけたいこと

それまで「さむ~~~い」食事一辺倒だった人が『養生サバイバル』する時に 気を付けたいのが、炭水化物・タンパク質・野菜類の3種類をできるだけそろえるようにすること。

もうね、お湯を沸かしてカップ麺作って、そこに魚肉ソーセージと、コンビニで売ってる冷凍野菜放り込むだけでもいいです。魚肉ソーセージが苦手だったらちくわとか、冷凍野菜が置いてないコンビニだったら、食品コーナーの冷蔵庫にあるカット野菜のパックでも。とにかく3種類そろえるのを諦めないことが大事。

パン食派なら、食パンとカップスープにカット野菜入れたのと、コンビニのゆで卵とかでも全然問題ないです。そもそも、一食で3つのカテゴリーを全部そろえるのが難しかったら、一日2食なり3食なり食べる間でそろえてやることから始めても良いのです。コンビニ以外立ち寄れないような状況の人には、連載第1回の「修羅場食リスト」も見ていただきたいです。

チエちゃんのおばあちゃんが言う「ひもじい、寒い」は、生きる気力を奪うだけではなく、良い作品を生む創作意欲をも奪うものです。うまくいかない、なんか辛いなあ……と思ったら、何でもいいからお湯を沸かして、人間らしい食事をとるように心がけましょうね。