本連載では、ネットワーク構築に必須となるLANスイッチについて、動作や仕組みを解説しながら実際の設定例を示し、ネットワークを身近に感じていただける事を目的としています。第六回では、MSTPとオプション設定について解説しています。

第四回ではスパニングツリープロトコルの動作や仕組み、STP(Spanning Tree Protocol)とRSTP(Rapid Spanning Tree Protocol)の設定までを解説しました。第七回は、MSTP(Multiple Spanning Tree Protocol)やエッジポート、BPDUの透過について解説します。

1. MSTPとは?

スパニングツリープロトコルは、LANスイッチ間でBPDU(Bridge Protocol Data Unit)を送受信する事により、ルートブリッジやフォワーディングポート、ブロッキングポートを決め、ループを回避します。また、障害時にはブロッキングポートがフォワーディングポートになる事で、冗長性を確保します。MSTPも基本は同じですが、異なる点が2つあります。1つ目は第四回でも説明した通り、グループ分けできる点です。例えば、VLAN10のグループ、VLAN20と30のグループとグループ分けする事が可能です。

このグループ分けはインスタンスと呼ばれ、インスタンスIDにVLANを割り当てる事で実現します。例えば、インスタンス1にVLAN10、インスタンス2にVLAN20と30を割り当てます。インスタンス毎にブリッジプライオリティやパスコストの設定が可能なため、インスタンス毎にルートブリッジやブロッキングポートを変える事ができます。

STPやRSTPでは全てのVLANが同じ通信経路となりますが、MSTPではこのようにインスタンスを分ける事で通信経路を分散可能です。

2つ目の異なる点は、リージョンという範囲がある事です。LANスイッチは1つのリージョンに所属し、リージョン内では同じインスタンスを持ちます。例えば、インスタンス1にVLAN10、インスタンス2にVLAN20と30を割り当てたリージョンでは、リージョン内で同じ割り当てになっている必要があります。リージョン毎にインスタンスを変える事ができるため、別のリージョンにはインスタンス1にVLAN30、インスタンス3にVLAN40と言った割り当てが可能です。

リージョンは、リージョン名とリビジョン番号で区別されます。リージョン名とリビジョン番号が同じLANスイッチは同一リージョンに所属し、異なるLANスイッチは別のリージョンに所属します。リージョン内では同じインスタンスを持つため、インスタンスの設定も一致している必要があります。ネットワーク全体で1つのリージョンとする場合は、リージョン名、リビジョン番号、インスタンスの設定は、全てのLANスイッチで一致させる必要があります。

2. MSTPの設定例

ネットギア製品のスマートスイッチでは、ログイン後に「Switching」→「STP」→「Advanced」→「STP Configuration」を選択する事でMSTPを有効に出来ます。

赤枠部分で「Enable」を選択後、「MSTP」を選択します。青枠部分はリージョン名やリビジョン番号の設定です。「APPLY」をクリックすると設定が反映されます。MSTPを有効にするポートは、「CST Port Configuration」で設定します。

赤枠部分を選択すると全てのポートの設定が同時に行えますが、青枠部分のように設定したいポートだけ選択する事もできます。緑枠部分の「STP Status」でEnableを選択し、「APPLY」をクリックすると設定が反映されます。デフォルトはDisableです。インスタンスは、「MST Configuration」で設定できます。

赤枠部分の「MST ID」がインスタンスIDで、「Priority」がブリッジプライオリティです。ブリッジプライオリティのデフォルトはSTPやRSTPと同じで32768です。「Vlan Id」でインスタンスに割り当てるVLANを選択し、「ADD」をクリックするとインスタンスが追加されます。ここで割り当てないVLANは、インスタンス0に割り当てられています。インスタンス0は、デフォルトで存在するIST(Internal Spanning Tree)と呼ばれる最低限必要なインスタンスです。ISTは特殊なため、ブリッジプライオリティは「CST Configuration」で設定します。また、既に設定されたインスタンスにVLANを追加する時は、以下のように「MST ID」を選択し、追加するVLANを選択後、「APPLY」をクリックします。

上記ではインスタンス1とインスタンス2があり、赤枠で示すようにインスタンス2を選択してVLAN30を追加しようとしています。尚、青枠部分が自身のブリッジIDです。右にスクロールして表示される緑枠部分はルートブリッジのブリッジIDです。これが一致したインスタンスでは、このLANスイッチがルートブリッジになっています。MSTPでは、インスタンス毎にブリッジプライオリティを設定できるため、インスタンス毎にルートブリッジが異なる可能性があります。各ポートへの設定は、「MST Port Configuration」で行います。

MSTPではインスタンス毎にパスコストを設定できるため、青枠部分でインスタンスを選択します。赤枠部分を選択すると各ポートの設定が行えるため、「Port Path Cost」でパスコストの設定を行い、「APPLY」をクリックすると設定が反映されます。右に画面をスクロールしてForwardingと表示されているポートが、選択したインスタンスでのフォワーディングポートです。また、ISTのパスコストは、「CST Port Configuration」で「Path Cost」を設定する事で変更できます。

MSTP設定時のポイントですが、STPやRSTPでもブリッジプライオリティを設定し、ポートに対してパスコストの設定を行いますが、MSTPではそれがインスタンス別に設定できるのと、インスタンスに対してVLANを割り当てるという点です。

3. エッジポートの設定例

スパニングツリープロトコルが有効な時、パソコンやサーバ等を接続すると通信可能になるまで時間がかかります。これは、フレームがループしないよう最初はブロッキングポートになり、BPDUのやりとりをした後、フォワーディングポートになるためです。ポートをエッジポートにするとBPDUのやりとりを待たず、すぐに通信ができるようになります。エッジポートの設定は、「CST Port Configuration」で行います。

赤枠部分で設定したいポートを選択し、「Fast Link」でEnableを選択後、「APPLY」をクリックするとエッジポートになります。デフォルトはDisableです。エッジポートは、パソコンやサーバ等との接続を前提としているためすぐにフォワーディングポートになりますが、間違ってLANスイッチと接続してBPDUを受信した時は、ループにならないよう必要に応じてブロッキングポートになります。

4. BPDU透過の設定例

スパニングツリープロトコルを使っていて、新たに追加するLANスイッチではスパニングツリープロトコルを使わない場合は、BPDUを透過する必要があります。

透過できないと、周囲のLANスイッチでBPDUのやりとりができず、スパニングツリープロトコルが正常に動作しないためです。設定は、「STP Configuration」で行います。

「Spanning Tree State」でDisableを選択し、「BPDU Flooding」でEnableを選択した後、「APPLY」をクリックする事で設定が反映されます。「BPDU Flooding」は、機種によっては「Forward BPDU while STP Disabled」と表示されています。

5.おわりに

第七回では、MSTP、エッジポート、BPDU透過の動作や設定を解説しました。MSTPは、インスタンス毎にブリッジプライオリティやパスコストを設定し、経路を分ける事ができます。リージョンを分ける事も可能ですが、ネットワークの規模がかなり大きい、管理者が異なる等の必要性がない限り、一般的にリージョンを分ける事はしません。

次回は、基本的なルーティングの仕組みについて解説します。

のびきよ

2004 年に「ネットワーク入門サイト」を立ち上げ、初心者にも分かりやすいようネットワーク全般の技術解説を掲載中。著書に『短期集中! CCNA Routing and Switching/CCENT教本』、『ネットワーク運用管理の教科書』(マイナビ出版)がある。

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