梅雨入りして間もないある日、僕はサーフィンに挑戦することになった。初めて訪れたサーフショップでの座学を終え、いよいよ海に向かう。→体験記 前編はこちら

意気揚々とビーチに到着し、準備体操をして、いよいよ海に入ることに。……と書くとすごくカンタンそうだが、忘れてはいけない。足元は、砂だ。そう、亀田兄弟や浜口京子が、足腰を鍛えるために走っているのと同じ環境! (←大げさ)さらに、強めに吹く風にボードをあおられて、全身のあちこちに力を入れていないと、前に進むのも難しい。運動不足の僕のスタミナは、早くも怪しい雲行きとなってきた。そんなことを知る由もない、撮影部隊として同行したA先輩(サーフィン歴6年)の「前田くん、立てるかな」という期待のこもった眼差しが、、、痛い。

僕の不安をよそに、レッスンは進む。まず、海に入る前に、リーシュコード(体とボードが離れないようにつないでおく道具)を足首に巻きつける。続いて「それじゃ、行きましょうか!」みゆきコーチの気合のこもった声に励まされ、いざ入水。まずは波が崩れていないところまでパドリングしていき、そこで海トレだ。海トレは、ボードを足だけで方向転換させる、立ち泳ぎをする、波をやり過ごすためにボードの上で腕立て伏せのような姿勢をとる(プッシングスルー)、ボードをひっくり返してまた戻る(ローリングスルー)、という4ステップ。これらは、波に乗る以前にサーフポイントにパドリングアウトしたり、乗りたい波を見つけてから波に乗るためのパドリングの体勢を整える時に必要なテクニックなのだ。

以下、僕の悪戦苦闘は動画にて!

海トレに挑戦

1.リーシュコードをつける
ライディングの邪魔にならないように、コードが足のかかと側&外側に来るようにつける

2.入水
テールを水に浮かべるようにしてノーズ側を持つと歩きやすい。

3.初めてボードに乗ってパドリング開始
パドリングでまっすぐ沖へ……行くはずが、風に流されて僕だけが離れていく…。コツを教わりながらひたすらパドル!「胸を反らせて!」とアドバイスされるが、残念ながらそんなたくましい背筋は持ち合わせていない。体の軸がぶれまくり、ボードがなかったらおぼれているようにしか見えない僕に対して、みゆきコーチは頭や反った姿勢がまったくぶれず、すいすいと漕いでいく。カッコいい…。コツは「力を抜くこと」なのだという。全身ガチガチだと、水をかく腕の動きも硬くなる。

4.ボードにまたがって足で方向転換
コーチに導かれてやっとのことで海トレゾーンに到着。腹ばいになった姿勢からボードに馬乗りになると、重心が少し高くなった分、ものすごくグラグラする!!しかも、時おりうねりがやってきて、ただでさえグラグラしている僕に上下の揺さぶりをかけてくる。座っていてもこれだけ不安定なのに、立つなんてありえない→僕にサーフィンはできない。と、入水後30分もしないうちに体で理解してしまった……、が、そんなことを理解している場合ではない。というか、周りにいたサーファーの人たちは余裕でボードに座り、のんびりおしゃべりなんかしている。さらに、みゆきコーチは、水に浸かった膝下部分を動かして、ボードごとくるくると回っている!す・ご・い!ポイントは目線。目線が向いた方に体が導かれるため、方向転換でもテイクオフした後のサーフィンでも、行きたい方向を見ることはとても大切なのだ。また、遠くを見ることで、ボードが安定してぐらぐらしにくいという。

5.プッシングスルー
プッシングスルーと次のローリングスルーは、パドリングアウトの際に崩れてくる波によって陸の方へ押し戻されないようにかわすテクニックだ。

6.ローリングスルー
プッシングスルーではかわしきれない大きな波が来てしまう時には、ボードを裏返し、自分が海中でぶら下がって"おもり"になることで、ボードを沈めて波をかわすローリングスルーを使う。

海トレを終了し、いよいよ波乗り。この時点で、僕の体力は限界に近づいていた。特に、腕が上がらないほど重かった。サーファーの見事な三角筋は、こうやって鍛えられているらしい。腕だけではない。海の上でバランスをとり、自分の体をコントロールするためにふだんとは違う動きをすることで、体じゅうの筋肉が眠りからたたき起こされたようだ。サーフィン上達を目指せば、メタボにはならない! そう確信した。

僕は、波に乗る感覚を体験できるのだろうか…。みゆき氏によれば、「立つことばかり考えて、まだボードが滑り出していないのに立とうとしてしまい、波においていかれるというのが初心者にありがちな失敗」だという。隣にいるコーチに「来た来た、あれいいんじゃない」と乗れそうな波を見立ててもらい、波が近づいてきたタイミングを見計らって、力いっぱい陸に向かってパドリングをする。これを、何度も繰り返す。後ろから押される感じはあるが、波に置き去りにされてなかなかボードが滑り出さない。

波においていかれること数回。足もつりかけて、ずっと僕を撮影しているA先輩にいつギブアップ宣言しようか逡巡していたときだった。後ろから、それまでよりもずっとパワフルな力をボードを通して感じた。と思ったら、ボードが勝手に滑り出し、僕はあっという間に波打ち際まで運ばれたのだ。ただし、腹ばいのまま。残念ながら立つことはできなかった、というか、どんどん進むボードにびっくりしてそんな余裕はなかった。想像以上に早かったのだ! 浜が猛スピードで接近してきて、自分だけが周囲とは違うスピードで空間を切り裂いているのを感じた。顔全体に受けた風も、そのことを僕に知らせた。こんな風に書くと、僕がものすごくいいライディングをしたかのようだが、波に乗っていたのはほんの2秒ほど。それでも、他では味わったことのない感触が体に残った。

この後本格的に足がつってしまい(かたじけない!)レッスンは終了。「ボードの上に立つ」という小さな目標は次回へ持ち越しとなった。そうして、立てたらさぞ気持ちがいいだろうなぁと、遠い目で海を眺めながら、ショップへと引き返したのだった。

動画: 波乗りに挑戦
腹ばいのままではあったが、波に乗ることができた

これまで、当たり前のように波間を滑っていくサーファーを、当たり前に景色の一部として眺めていたが、目からウロコだ。実際やってみて、彼らのテクニックと体力に脱帽。 パドルができて、プッシングスルーができて、乗れそうな波を見極められて、ぐらぐらせずにボードに座って方向転換ができて、波のピークにポジショニングできて、波と調和するスピードでパドルができて、初めて波に乗れるのだ。

「波に乗れるってスゲーー!」と感動しきりの僕だった。もうひとつ感動したのは、海と戯れることが単純に気持ちよかった、ということだ。海水浴シーズンはまだまだ先だったが、頭のてっぺんからつま先までひんやりとした海に浸かり、かなりスッキリ。足で立つことができない海の上の、独特のリズムも心地よかった。サーフィン初体験の夜、テイクオフはできなかったものの、思いきり体を動かした僕がぐっすりと眠れたのは言うまでもない。

この記事に掲載されている動画は、三洋電機の機材貸し出し協力のもと、「Xacti DMX-CA8」を使用して行っています。