【コラム】
■中小企業における三次元CAD導入の事例
まずは中小企業白書に掲載された事例(中小企業庁編 2003年版中小企業白書事例4-2)を見て頂きたい。
事例4-2 三次元CADの導入により取引先多角化へ
O社(長野県、従業員55人)は、1972年に創業した情報機器や産業機器等の精密板金加工業者。売上のほぼ100%が一次、二次を含めた下請受注であり、主力取引先からの受注は売上の50%を占めている。
○三次元CADの導入
O社が三次元CADの導入を決意したのはおよそ1年前のことである。O社の属する業界においては、以前からCAD化の流れは進んでおり、特に社長は欧米の企業を視察した経験から、その有用性と、自社における三次元CADの導入の必要性を常々感じてきていたという。また、グローバリゼーションが進展し、国際的に競争が激化する中で、新しい手段を取り入れていく必要性も痛感していた。そのために社長は積極的に三次元CADの勉強を始め、自らが使えるという実感を持った上で導入を決めた。
○社内の体制整備
三次元CADの導入といっても、ただソフトを備えるだけでは効果は薄い。発注元からの三次元データの受け渡しを可能とするだけでなく、社内の生産設備を結ぶLANにおいても利用できる環境にしておく必要があると考え、実際にそのような環境を整えてきた。しかし、つい最近まで、実際に三次元データが発注元から渡されることは少なかったという。
発注側での三次元データ化への取り組みは、社内の整合性を図っているところというのが現状と思われるが、受注側での三次元データ化対応の遅れから、発注側で三次元データを再度二次元データ化した上で発注という重複作業をせざるを得ないのが現状でもある。社長はこの状況については大きな無駄だと考えている。
このような状況のため、O社としては二次元データを積極的に三次元データ化し、いつ何時発注側から三次元データ化対応を求められても対応できる体制を整えている。 最近では何社かが三次元データを渡してくれるようになり、少しずつO社が三次元CADを導入した成果が感じられるようになってきているという。
○三次元CADの活用
O社での三次元CADの活用は生産体制への組み込みだけで終わってはいない。というよりも、O社において三次元CADの最も大きな意味合いは営業ツールとしての意味合いである。営業担当者が三次元CADソフトを組み込んだノートPCを使い、取引先へのプレゼンテーションを行うようにしているのである。社長は、自身が20年以上前にドイツのデザイン会社で受けたプレゼンテーションに感銘を受け、その際の手法を基盤として取り入れているのである。
○三次元CAD導入の効果
以上のように、生産、営業の両面で三次元CADを導入してきたO社であるが、ここに来て、ようやくその効果が受注面に表れてきたという。特に、三次元CADを使った営業は、O社の設備状況や設計レベルも同時に相手先に示すことになり、相手先の関心を引きやすい。実際、O社では三次元CADの導入後に10社程度の新規取引開拓に成功している。
また、従来の取引先からも設計・企画への参加要請が増加しているという。 このような新規開拓先とは、まだ継続的取引関係を築けたとは言い難いが、今後とも積極的に提案型の営業を続けていくことで柱となる相手先を1社でも多く確保したいと社長は考えている。
生産面においてもソリッドモデルの出現による効果は表れてきているという。例えば、従来の二次元の設計図面を眺める時間が大幅に短縮され、作業効率が格段に改善されている。社内LANを通して各生産機械にも三次元データが流れることにより、生産設備を使用する従業員も直感的に作業が分かり、生産効率も向上している。 社長は、今後さらに三次元CADを活用し、特に設計・企画面から受注先に参画する機会を増加させ、受注先との戦略的な連携を行っていきたいと語っている。
■中小企業におけるIT化の現実
情報産業界に身を置いている者が見れば、上記の事例においていえることは「三次元CADを社内に導入し、導入の効果として予想される当たり前の効果を享受した」ということになってしまうかもしれない。大企業における数々の事例のように、特に高度な技術やシステム構築上の工夫が盛り込まれているわけでもない。マスコミに取り上げられることが多い大企業やベンチャー企業の華々しい成功事例の影にこのような多くの地味な成功事例があることを知らなくてはならない。
人材面においても、また資金面においてもリソースの乏しく、ギリギリの採算で勝負している中小企業、特に零細な規模の中小企業においては、「製造業者が三次元CADを導入する」というだけのことでも会社にとっては大きな事件なのである。IT化を推進したい側にとっては「どのようにIT化するか」を考える以前にまずはIT化への一歩を踏み出させることに大きな努力を払わされることが多いのだ。このようなことから、IT化に理解が深い大・中堅企業に対する以上に、辛抱強く対処することが必要なことも多いのも事実である。
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