【コラム】

ビジネスを成功させる戦略的システム構築

16 24時間止まらないコンピュータ ~ 保守契約におけるSLAについて

飯島麻夫  [2003/02/20]

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■SLAとは?

SLAとはService Level Agreementの略で、「Agreement=合意」が示すとおり保守契約の一形態を指す。念のため解説を加えておくと、保守契約とは「顧客のシステムを維持したり、面倒を見たりする代わりに対価を受け取る」契約である。

SLA以前の企業間の保守契約は、単に「B社がA社のシステムのどの範囲におけるどのような保守業務を請け負います」というように、単なる請け負う保守業務の範囲を定義したものに過ぎないものがほとんどであった。言いかえれば、保守業務を請け負うB社は保守契約上に銘記された範囲の業務をこなしてさえいれば、たとえ質の低い仕事をした結果システムの稼動に影響を与えたとしても、少なくとも契約上は違反とはならないのである。

これに対してSLAとは提供されるサービスの品質そのものを保守契約上に盛り込むもので、考え方としては非常に合理的なため、いまでは企業間の保守契約においてはほとんどがSLAに基づき行われている。

■SLA登場の背景

オンライントレード、ネットショップ、e-ラーニングなど、インターネット上でサービスを提供している企業では、システムが数分止まっただけでも売上減や信用低下につながる。やはりSLAが広まった背景としては、インターネットがビジネスで利用されるようになったことの影響が非常に大きい。

しかし、自前のシステムを24時間フル稼働させるには3交代シフト勤務体制をとるなど、高い運用コストを強いられてしまう。そこで特にインターネットに関わる部分についてはサービスプロバイダなどを利用したアウトソーシングの対象となりやすい。

■SLAとサービス稼動率

SLAにおいて、おもに問題にされるのは「サービス稼働率」という指標である。通常SLAではこの保証されたサービス稼動率が達成できない場合、サービス料金の一部返金などの罰則規定を設ける。

サービス稼働率とは

(サービス稼働率)=(サービスの稼働時間)/(サービスの稼働時間+サービスの停止時間)

の式で表される。我が国のアウトソーシングプロバイダがSLAの目標として掲げている稼働率の数値を、許容される年間のサービス停止時間で示すと下記のようになる。

稼働率99.999%=0.0876時間(=約5分)/年 以内の停止時間
稼働率99.99%=0.876時間(=約52分)/年 以内の停止時間
稼働率99.97%=2.628時間/年 以内の停止時間
稼働率99.95%=4.380時間/年 以内の停止時間
稼働率99.9%=8.760時間/年 以内の停止時間

1年間に数時間以内のサービス停止しか許されない、というのは一昔前の常識からするとかなり厳しい。2~3年ほど前、大手のベンダーはこのサービス稼動率の高さを競ったものである。しかしシステムが提供するサービスの内容にもよるが、よほどクリティカルな業務であったとしても通常は一定以上のサービス稼動率であれば問題ない場合がほとんどであるため、最近は高いサービス稼動率を誇示することは以前よりも減っている。

■高いサービス稼働率を実現のために

ではこのように高い稼働率を維持するためにはどのような手段が必要なのだろうか? まず一つ目は開発時に誰もが心がけることであるが、サービスが停止するような事態を引き起こさないということである。

二つ目は、不幸にしてサービスが停止してしまった場合でも、ごく短い時間の間にサービスを再開できる仕組みを作り上げることである。

(1)クラスタ化
基本はクラスタ化である。本番システムに冗長性を持たせることによってサービス稼動率をかなりの程度にまでは向上することができる。
障害の状況によってはクラスタ化だけでは対応できない場合もあるので、高いサービス稼動率を実現するにはこれだけでは決して安心できない。
(2)監視体制
万全の監視体制をひくことによって、サービス停止の早期発見に努める必要がある。発見が遅れれば遅れた時間の分だけサービス稼働率は下がる。障害をシステムが自動的に検知、警告する仕組みと事象の重要性に応じてエスカレーションさせる体制作りが必要である。
(3)サポート体制
システムが自力で回復できない障害が発生した場合、誰に、どのように知らせて、どのような手段で対応するか。もし現場に駆けつけなくとも、リモートで操作できる体制をとっておけば、人間が移動する時間を稼げることにもつながる。

■SLAの問題点

SLAは保守契約の形態としては合理的である。特に一定のサービス基準に満たない場合の罰則規定はサービスを提供する側の努力を促すことになり、特に保守契約に対して適用することのメリットは大きい。

ただし、サービス稼動率のみをもって提供されるサービス全体を評価することには非常に無理がある。サービス稼動率だけでサービスを評価することは、乱暴に例えてみれば「24時間営業しているコンビニのほうが10時間しか営業していないデパートよりも優れている」と主張するようなものである。サービス稼動率はサービスの質そのものを問題にするものではないからである。

このようにSLAにおいてサービス稼動率が主な指標として用いられる理由は、決して積極的な理由からではない。サービスに対する評価方法としてサービス稼動率に代わる定量的かつ便利な方法が確立されていないために、やむなくサービス稼動率を採用しているにすぎないのである。くれぐれもこの点を誤解してはならない。

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インデックス

連載目次
第29回 三次元CADの導入~中小企業の情報化事例その2
第28回 地域商店街の活性化 中小企業の情報化事例その1
第27回 進まぬ中小企業のIT化
第26回 製造業とIT~MRPの概要
第25回 わかっちゃいるけどできない~SCM導入にあたっての障壁
第24回 流通革命~サプライチェーンマネージメントとは?
第23回 CRM その2~CRMを囲む諸概念
第22回 CRM~ITが企業を強くする その1
第21回 いつでもどこでもコンピュータ~ユビキタス
第20回 プロジェクトを成功に導く~プロジェクト管理に必要なこと
第19回 PMBOK~プロジェクト管理の基礎知識体系
第18回 セキュリティのための基盤~PKIとは?
第17回 暗号化技術の過去と将来
第16回 24時間止まらないコンピュータ ~ 保守契約におけるSLAについて
第15回 「まさか」の場合に備える ~災害対策
第14回 セキュリティは企業戦略か? ~ セキュリティ総論
第13回 第3の開発手法 ~オブジェクト指向
第12回 誰が開発するのか? ~エンドユーザコンピューティング
第11回 いかに開発するか? ~RADとプロトタイピング
第10回 データは安定している ~POAからDOAへ
第9回 地球にやさしい企業経営 ~ペーパーレス社会の実現に向けて
第8回 市場を制する ~デファクト・スタンダード
第7回 競争力の根源とは何か? ~ナレッジマネージメント
第6回 業務に革命を起こす ~ 業務改革か? 業務改善か?
第5回 スピード経営・スピード開発 ~パッケージの活用
第4回 情報システムは企業戦略そのものである - SIS(戦略情報システム)
第3回 まずはコンセプトを理解しよう
第2回 「経営」という視点で考える
第1回 ITと経営戦略 ~みずほ銀行の例で考える

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