【コラム】
情報システムを戦略的に活用しようというコンセプトが明確に打ち出されたのは、1980年代後半に世界的な話題となったSIS(Strategic Information System=戦略情報システム)以来のことである。SISとは、読んで字のごとく情報システムを積極的に企業戦略に活かし、最終的に企業競争力を強化することを目的としたシステムである。要するに、SISにおいては情報システムが企業戦略そのものなのである。
一方、SIS以前のシステムは、業務効率化やせいぜい意思決定支援が目的であって、適用範囲も部署ごとの個々の業務に限定されたものであった。SIS以降のシステムに比べてはるかに後ろ向きの使命しか持たないものだったのである。
■SISの登場背景
当時の事情を知らない方のためにひととおり解説しておくと、「インターネット」などという言葉はもちろん誰も知らない、大企業ではメインフレーム、中小企業ではオフコンが中心で、クライアントサーバーシステムでさえさほど普及していなかった。パソコンはまだまだ「オタク」の占有物だった時代のことである。なぜこの時期にSIS事例の数々が登場することになったのかは明らかではないが、おそらくはネットワーク、データベース、開発環境等々の技術やインフラが、この時期ようやくSISのようなシステムを構築しようと思えばできるレベルにようやく達したためであろう。
「企業戦略に情報システムを活かす」、システムを提供するベンダー側にとってこれほど都合のよい売り文句はない。わが国においても1980年代の終わり頃になってからテレビCMを含めてさかんに宣伝されるにいたった。
■SISの事例
SIS初期の事例として有名なものは、米国におけるアメリカン・ホスピタル・サプライの受注システムとアメリカン航空のSABREである。わが国においてはヤマト運輸の「荷物追跡システム」、花王のネットワーク受注システム、セコムの連絡網システム、あるいはセブンイレブンのPOSシステムなどが紹介された。
アメリカン航空のSABRE(Semi-Automated Business Research Environment)の事例を簡単に説明するが、これは旅行代理店の顧客窓口にアメリカン航空の端末を設置し(それ以前はアメリカン航空の支店のみに設置されていた)、アメリカン航空だけでなく他の航空会社の航空券やホテルなど、その他の付帯サービスを予約購入できるものであった。端末上に列挙される空き航空券の表示順序をABC順で表示したため、実質アメリカン航空のチケットが売れやすくなった、というからくりがあったものの、アメリカン航空はこのシステムのおかげでオイルショック以降減少し続けていた顧客を、見事に取り戻したのである。この事例は最初から企業競争力の獲得を意図したものではなく、たまたま大きな成果が出てしまった、という事例である。
■SISの意義
SISというコンセプトが与えたインパクトはかなり強烈だった。しかし、当時はSCM、CRM、KM等々、現在では百花繚乱のソリューションコンセプトや、ソフトウェアやインターネット、RDBのような技術やインフラが十分整っていなかったので、何をどうしたらいいかについても明確な提案がなされなかったのが実状であった。したがって、振り返ってみると各ベンダーの大々的な宣伝の割に、盛り上がりに欠けた感は否めない。
しかし、SISの実態や評価がどうであれ、これだけは言えるだろう。SISというコンセプトが登場して以来、システムに対して経営的観点から期待される役割は大きく変わることになった。
すなわち、「電子データ処理(EDP:Electric Data Processing)」ではなく情報システムを上手に活用すれば、業務レベルでの効率化のみならず、経営に大きなインパクトを与えることができることが、複数の成功事例によって証明された、ということである。そして、企業にとって「コスト」と評価されてきた情報システムが、SISにいたってはじめて戦略的な投資と評価されたのである。SIS以後、情報業界のいろいろな場面で使われる殺し文句として「これは投資です」が連発されることになった。
■SISから学ぶべきこと
SISとして紹介された数々の成功事例が、華々しい成果を挙げることができた理由は、「他に先駆けて新しいシステムを創りあげた」という点にあった。アメリカン航空のSABREは1976年の時点で稼動したからこそ、企業の業績に大きく貢献することができたのである。
しかし「他に先駆けて」行うことは実は大きなリスクを伴う。「ハイリスク・ハイリターン」こそが出現当時のSISの身上であったともいえる。ハイリスクを恐れなければ得られるリターンも大きい。逆にリスクを侵さなければ得られるリターンは小さいのである。
ここでSEである読者に以下のことを問いたい。
SISが脚光を浴びてから10年以上の年月が経つが、いまだに「現行業務をシステム化しよう」というEDP的な発想から、ほとんど脱却できていない企業が、特に大企業を中心に多いことは認めざるをえない(もちろんそうでない企業も多いだろう)。
もし「どちらかといえばコストかな?」と思うのであれば、その結果としてそのシステムを構築しているSE自身も損をしていることになる。なぜならそういうSEも「コスト」と評価されることになるからである。確かに現場でできることは非常に限られているが、リスクを恐れず、「自分が新しいものを生み出すのだ」という姿勢を持ち続けてほしいものである。
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