上手くいっているように見える人にも、実は意外な過去や失敗がある。失敗体験を丁寧に咀嚼し、何が敗因だったのか、どうすれば上手くいったのかを考え、次は絶対に成功させるのだと、強い心意気を持つ人が、多少時間がかかったとしても成功をつかみとるのだ――。

今や1,000万件以上の口コミ数を誇る映画レビューアプリ「Filmarks(フィルマークス)」を運営するつみき 代表取締役社長の鈴木貴幸氏も、そんな人物の一人。同社は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ (以下、CCC)とT-MEDIA ホールディングスがスタートアップ向けに行ったパートナーシップ&支援プログラム「T-VENTURE PROGRAM」の第一期でTSUTAYA賞を受賞したほか、2015年8月にはCCCと業務提携を行うなど、勢いにのっているといっても過言ではない。

「T-VENTURE PROGRAM」第一期受賞企業一覧 公式Webサイトより

鈴木氏は一度目の起業で失敗した経験がある。二度目となるつみきの創業から4年後の2012年、Filmarksをリリースするのだが、それまでも紆余曲折が無かったとは決して言えない。鈴木氏は失敗をどう乗り越え、成功への道のりを描いてきたのか、自身の経験を振り返って語っていただいた。

つみき 代表取締役社長 鈴木貴幸氏

自分のお金を出すか出さないかで、全然違う

鈴木氏 : 僕は最初からWebの仕事をしていたわけではありません。新卒入社したラジオ局に1年半勤めたのち、Web制作会社に転職しました。

もとは音楽制作会社でしたが、当時は2000年前後で、ちょうどFlashが流行り始めたころ。サイト上で音楽を自由に表現できるようになり、Webがどんどん面白くなっていく時期でした。会社でもアーティストのホームページ制作を機にWeb制作事業が始まり、そこで2年半ほど働きました。その会社を退職後、26歳で最初の起業をしましたが、このときは上手くいかなくて、創業2年半で会社をたたみました。

――― それから2008年につみきを設立されましたね。また起業しようと思ったきっかけは何でしたか?

最初に起業した会社では、僕自身は1円も出資しておらず、代表権も持っていなかったんです。でも、自分でお金を出さない限り、上手くいかないときに他人のせいにしてしまう、と気づきました。

その後転職した制作会社では、取締役を務めていました。採用権限があったり、売上の責任を持っていたりはしましたが、ここでも自己資金を一切出していません。それもあって「これは自分の会社である」という思いを持てずにいました。

それに、もし次に転職したとしても、逃げ道を持ち続けるのではないかと思ったのです。だから次こそは、自己資金だけで会社をやってみたいと思い、つみきを起業しました。

それまで会社の通帳を見たこともありませんでした。でも、自分で会社を経営してみると、3カ月ほどでみるみるうちにお金がなくなっていくのです。「起業時に用意した資金300万円がこんなにも早くなくなるのか!」と、ドキドキしっぱなしでした。

月末になると売上が入ってくるはずだ、とヒヤヒヤした記憶もあります。それでも経営者としての責任を感じながら仕事をできているという、一社目の起業では得られなかった充実感に包まれていました。

1カ月で自社サービスを終了、その理由は「面白くないから」

――― 当初はWeb制作が主な事業でしたよね。どのタイミングで自社サービスを作ろうと決めたのでしょう?

創業時から、いずれは自分たちで新しいサービスを作りたいという思いがありました。具体的に考えだしたのは、4年目くらいからです。3年目までは前年売上を超えたとか、昨年より良い仕事ができたといった充足感がありましたが、4年目になるとそういった思いが小さくなり、将来像を描けなくなっていました。

「自分たちで何かサービスを作ろう」というざっくりとした目標はあったものの、何をすれば良いのかなかなか決められずにいました。焦りもありましたね。僕自身がつみきという会社をこの先どうしていきたいか、どんな事業をやるべきか、迷走している時期でもあったと思います。

――― そのモヤモヤした状況をどうやって乗り越えましたか?

最初は前職で得た知見を生かし、ブログパーツの分析ツールを開発しました。行動に移してみなければ何も始まりませんから、まずはやってみようと。結果的には上手くいったと思います。今までオファーをいただいたことのなかった、大手広告代理店からも引き合いがありました。

自社サービスを持つことは、価格や内容も自分たちで設定できるため、受託とは全然違う満足感と自信を得られました。ブログパーツ自体の人気が下降するにつれて需要がなくなり、サービスの提供を終了しましたが、あのとき挑戦して本当に良かったと思います。

もう一つ、2011年後半ころ、台湾のユーザー向けに半年ほどかけてゲームサイトを作ったことがありました。僕自身のモチベーションを保てなくて、リリースから1カ月でサービスを停止したのですが(苦笑)。

――― そもそもゲームを作ろうと思い立った経緯は何でしたか?

当時「海外向けにサービスを作る」というのが、業界で盛り上がっていました。僕たちもトレンドにのってやってみよう、となりまして。「スマホ×海外向け×ゲーム」というのはどう考えても旬の組み合わせでしたが、いざサイトが立ち上がったあと、「僕ってゲームに興味あったかな?」と考えてしまい……(笑)。

結局「面白くない」「楽しめない」と感じてスッパリ辞めました。でも、これがFilmarksを生み出す大きな転機になったと感じています。というのも、自分のやる気が出ないサービスを事業にしてはいけない、と気づけたからです。

僕の場合、お金儲けをしたいとか、誰かに喜んでもらいたいといった思い以上に、自分がそのサービスを続けていきたいかどうか、という思いが大部分を占めていました。そもそもサービスは作っておしまいではありません。開発後も運営していかなければならないので、サービスに対する強い思いがないと続くはずがないですよね。

Filmarksは、自分が一番欲しかったもの

――― 映画を事業のテーマに選んだ背景は何ですか?

具体的なアイデアを思い付いたのは、TSUTAYAの旧作コーナーをぶらぶらしているときでした。でも、「映画が軸となったサービスを提供したい」といった、熱烈な気持ちがあったわけではありません。サービスのアイデアを10~20個出して、こんなの良いよねと最終的に選んだのが映画だったのです。ただ、ゲームサイトを1カ月で終了したという反省があるので、自分が長く続けられるものをやろうとだけは決めていました。

これだけは断言できますが、映画に関するサービスは、僕が一番欲しいと思ったものです。映画にハマっていた学生時代、貪るように観ていたので、有名タイトルは一通り押さえていました。でも、まだ観ていない作品はたくさんあるわけです。その中からどうすれば面白い作品を見つけられるのかと考えていました。

そんな僕のニーズを満たしてくれるようなサービスは、まだ世の中に存在していない気がしました。だから、まだないものを自分たちで作ろうと決意したのです。2012年1月に開発を始めて、同年8月末にリリースしました。

「Filmarks」公式Webサイト イメージ

――― 開発時に苦労したことはありますか?

本格的な自社サービスの開発は初めてで、企画・デザイン・システム、すべてが大変でした。特に、一通り画面デザインとシステムの実装ができたタイミングで、イチからやり直したことは記憶に残っています。そのデザインでは、ユーザーを限定してしまうのではと感じたのです。

というのも、映画のポスターって、本当に素晴らしいクリエイティブだと思いませんか?それが主役になるわけですから、「サービスやアプリのデザインは主張しない方が良いのでは」と、作ったあとにハッと思ったのです。今となってはやはり、この判断は正しかったと感じています。

一方で、リリース2週間後にユーザー数が100人ほどしかいなかったときには、サービスとして大丈夫かなと少し心配しました。でも、その100人が繰り返し使ってくれているのが数字でハッキリとわかり、自信が生まれましたね。このサービスは支持されているし、使いたい人はたくさんいるんだなと初期のうちに手応えをつかめたのは良かったです。

新しい事業をスタートさせるために - 必要なのは社長の先導力

――― 組織作りについてお話を伺いたいです。現在は約30名ですが、どのようにメンバーを増やしてきましたか?

起業当初は二人で、2カ月目でもう一人増えました。3カ月を過ぎ、資金的にも安定してきたころに人を増やそうかなと考えましたが、人の紹介をもとに慎重に増員し、その結果創業5年目まで6人でやってきました。

というのも、正直、いつか仕事がなくなって経営が立ちゆかなくなるかもしれないという最悪の事態が、常に頭の片隅にあったためです。これは、つみきの前に働いていた会社での経験がきっかけでした。

その会社に僕が入った当時は8人でしたが、2年半で50人まで増やしました。短期間のうちに、5倍以上に増えたわけです。業績が良く、採用権限もあった僕は次々と人をとっていました。でも、それが上手くいかなかったんですね。

その時も今も、僕には社員に対して責任があります。これまでは少し慎重でしたが、今では資金調達を得ることができ、人員増加にもアクセルを踏めるようになりました。ここ2年間で約20人ほど採用しています。

――― 最後に、自社サービスの開発を目指す起業家に向けてアドバイスをお願いします

よく若手起業家から「なかなか受託から抜け出せず、自社サービス開発に手をつける余裕がない」「途中までサービスを開発したけれど、受託に追われてやめてしまった」といった相談を受けます。そもそも前提として、受託メインの状態から次のステージへ進むまでに時間がかかることは仕方ないです。

実際、僕たちは約4年間、受託に専念していました。そこで出た利益を自社サービス開発に投資し、ゲームサイトを開発したときは、受託7割・新規サービス(ゲーム)3割のリソースでやっていました。上手くいくようになると、徐々に新規サービス開発に回すリソースを高めていけます。Filmarksのときは8割ほどリソースを回していました。

大事なのは、最初にトップ(社長)が率先して新規事業をリードし、サービスを作ることに専念する環境を社員に提供することだと思います。そうでもしなければ、クライアントワークである受託が、優先順位として高くなってしまうのは当然です。社長が「これで良いのだ!」と決断して共有しない限り、メンバーもどうして良いかわかりません。

新規サービス担当者にすべてを託すという方法も、もちろんあると思います。ただ、やはりその人が会社の通帳残高とにらめっこしながらやるわけではないですよね。リードするのはあくまでトップであるべきだと僕は考えます。そういう意味で、開発の最前線で緊張感や温度感を味わえるのは、起業家の醍醐味ではないでしょうか。