世界115カ国に住む約7万人の出品者(パーソナルショッパー)から、世界中のブランド品をお得な価格で購入できるソーシャル・ショッピング・サイト「BUYMA(以下、バイマ)」。

日本にいながらにして、国内未入荷商品や海外限定商品など、現地に行かなければ手に入りづらいアイテムを気軽に購入できることから人気を集める。今や、会員数は250万人を突破するほどだ(2015年7月6日時点)。

運営元のエニグモは、2004年の設立からわずか8年で東証マザーズ上場を果たし、CtoC(個人間売買)型ショッピングサービスとして大きな成功を収めた。最近では、米経済誌「Forbes」のアジア版「Forbes Asia」が毎年選出する「アジアの売上10億ドル以下の優良企業200社リスト(Forbes Asia's 200 Best Under A Billion)」にも選出され、世界からも熱い視線を集める。

しかし、同社はここまで順風満帆に歩んできたわけではない。幾多もの試練を乗り越えてきた強靭な企業である。同社CEOの須田将啓氏は、創立からの11年に「苦難や苦労はたくさんあった」と話す。同氏は大学院を卒業後、博報堂 ストラテジックプランニング局にて5年間、大手自動車メーカーからベンチャー企業まで幅広い領域のクライアントを担当したが、「30歳で起業しよう」と決めていたという。

エニグモ CEO 須田将啓氏

ヤフオク! の一部分を切り出せばサービスとして通用する

――― 起業までにどのような道のりがありましたか?

そうですね。2002年のクリスマスに、前職の同僚だった田中禎人(2013年4月、共同CEOを退任)と残業していたところ、田中が「面白いアイデアがあるから聞いてくれ」と話しかけてきたんです。その会話の中で、田中の知人が以前海外で買った靴が、日本ではどうしても手に入らないので、海外在住の友人に購入してもらい、日本へ送ってもらっているという話を聞きました。

彼は、現地に知り合いがいるおかげでそういったことができますが、海外に知人のいない人はそれができません。海外でしか手に入らないものを誰でも買えるようにする ―― これがバイマの発想の根幹でした。自分にもアイデアがあったので、田中の意見と合わせてブラッシュアップしていくうちに、市場はあるはずだと自信を持ったことを覚えています。

しかし、当時のCtoC市場はヤフオク! の一人勝ち状態だった。よく「CtoCは市場が大きいほど強く、一度市場ができるとそこに皆が集まるから、後発サービスが勝つのは難しいだろう」と言われたほどです。ヤフオク!の半年後に日本に進出したeBayですら、彼らには勝てなかった。売り手は買い手がたくさん集まる "売れる場所" で売りたいですし、買い手は品数が豊富な場所で買いたいと思うのは当たり前ですよね。

ただ、自分たちはヤフオク!内で海外から商品を取り寄せているユーザーがいることに気づいていました。その部分だけ抽出して集中すれば、ヤフオク!ほどの規模にはならなくても、ニーズは必ずあるだろうと。

スタート台に立つまでの2年間は困難の連続だった

――― 2004年2月に会社を設立されましたが、それまでどんな出来事がありましたか?

2003年の年明けから企画書を持っていくつかの会社を回り、出資者や協力者を探したものの、考え方や方向性の違い等で上手くいかなかったです。自分たちが思い通りにやるためには、自分たちで起業するのが一番だという結論に至ってから、仲間を集め始めました。

ここまでも紆余曲折ありましたが、サービスサイトの公開時にも大変なことがありましたね。2004年夏にリリースする予定が、システムを発注していた会社に夜逃げされてしまい……2005年2月にようやくリリースできました。構想からサイトオープンまで2年以上ですか。産みの苦しみを味わい続けた時期だったと思います。

サイトオープン後も、なかなか売上が伸びない日々が続きました。月間取扱額は50万円ほどで、売上が4万ほどだった時期もあります。ただ、思いがけない転機もありました。オープンから3カ月後くらいに、ジャフコさんをはじめとするVCから1.4億円の調達に成功したんです。

当時、まだ目立った売上を出せていない企業が、これほど大きな資金調達に成功するケースは、非常にレアな事例だと思います。あとでジャフコさんに伺ったのですが、「大手企業を退職して起業する人がほとんどいなくて、エニグモが先駆けとなって成功すれば、日本のスタートアップ企業の発展に必ず良い影響があると思った」そうです。

確かに自分たちが起業したあと、古巣の博報堂やさまざまな大手企業を辞めて独立・起業する人が出てきています。自分たちの起業という選択が、新しい流れにおける何らかのきっかけを作れたのかな。

エニグモ創業当時から変わらない、情熱と能力を兼ね備えたチーム

――― ジャフコ側には、エニグモというチーム自体も魅力的な存在として映っていたのではないでしょうか。

どうなのでしょう。最初のチームは、自分と大学時代の友人で今はCOOを務める安藤、元共同CEOの田中、彼と一緒に仕事していた同僚の4人だったんですよ。安藤に声をかけたのは、とにかくハズさない男だなと、行動を共にする中で知っていたから(笑)。もちろん、そういった感覚的なことだけではなく、彼が自分たちのチームに必要なSler(システム開発)の知識やスキルを持っていた点も大きいです。当時から何か起きても何とかしようとする情熱と能力があるチームだと、VCにも感じてもらえていたのかもしれません。

――― その後、2008年に単月黒字化を実現しましたね。

このときのことは、今でも強く印象に残っていて……すみません、この話をしようとするといつも、うまく喋れなくなってしまって……。

それまで赤字の時期が続いていたわけですが、当時の責任者(以下、Aさん)はバイマというサービスが本当に大好きで、チームが結果を出すために朝から晩までとても頑張ってくれた。休日に書店でマネジメントの本を買い込んでいた、といった目撃情報もあるほどでした。

社内制度として年に一度取得することができる1週間の長期休暇では、旅行先のハワイにバイマのチラシを持って行って、現地で一生懸命配ってくれていたそうです。それでも赤字が続いていて、Aさん自身も苦しんでいたと思います。

自分は会社の代表ですから、何とかしなければと思い、苦渋の決断でしたが責任者を変えました。初めて単月黒字化したのはその月のことです。

その後Aさんには、得意とする部署を任せたいと伝えましたが、残ってもらうことはできなかった。エニグモというチームのリーダーとして、社員の適材適所を把握し、現状に素早く対処することがどれだけ大切か、それに気付かされた出来事でした。

何においてもそうですが特に、チームで動く際、計画通りにいくことは難しい。たとえ順調に見えてもイレギュラーな問題が発生することもあるでしょう。

最近では、そういった課題に直面しても「まぁ大丈夫だろう」と試行錯誤しながら解決策を見つけ出し、結果的に計画通りにかつ楽しみながら進めていける、そんなチームになってきている気がします。創業時の雰囲気とは少しずつ変わってきていますが、さまざまな困難を乗り越えられる情熱と能力は引き継がれているのかなと。

CtoC市場において「スモールBtoC」が活発化していく

――― チームの情熱と能力のほか、CtoC市場での勝因は何があったのでしょうか。

タイミングも良かったと思います。当時は、カメラ付き携帯電話が普及し始めた頃でした。商品の写真を携帯で撮影・掲載し、注文も携帯で受けられるとなると、いつでもどこでもセンスさえあれば、誰でもバイヤーになれる環境が生まれます。田舎で埋もれているハイセンスな商品も、バイヤーが "発掘" すれば世界デビューできるわけで、これこそが革命的だったと思います。

また、バイマは、パーソナルショッパーや購入者、エニグモ……関わるすべての人が互いにWin Winになるほど、売上が上がっていくビジネスモデル。パーソナルショッパーは儲かれば嬉しいし、購入者は安く買えると嬉しい、購入が成立すればエニグモには手数料が入ってくるという仕組みです。叩いて安く仕入れたものを高く売るといったことが発生しにくく、パーソナルショッパー同士の競争もあり、価格が自然と適正になることも勝因の1つだったように思います。

今後CtoC市場は、「スモールBtoC」が盛り上がっていくでしょう。完全なCtoCは、トラブルをコントロールできないことが多く、また完全なBtoCは、お金や組織の規模に左右されて今までとあまり変わらない。一方で、スモールBtoCは趣味ではなく、ある程度仕事として取り組むため、サービスレベルも一定に保たれますし、1対1でのやりとりがスムーズにできるのではないかと考えています。なにより、今まで日の目を見なかった個人に焦点があたり、多様性がうまれることは面白いのではないでしょうか。

日本のきめ細かいサービスで、世界に挑戦していく

――― テレビCMも放映され、日本での認知度はますます上昇していると思いますが、海外進出についてはどうですか?

確かにCMのパワーは大きかったです。梨花さんや清原亜希さん、小嶋陽菜さん、又吉直樹さんを起用したCMをW杯の放送中に流したところ、予想以上の反響でした。



海外展開で言うと、2015年内にはバイマのグローバル版をリリースします。

これは、弊社にとって大本命ともいえる戦略です。勝負する市場も流通額も、世界からの評価もすべて、これまでとは桁違いのものになる。今なら円安を逆手にとって、有利な立場で世界に出ていけます。

また、現在バイマで活躍するパーソナルショッパーの76%が英語でのやりとりができますし、仕入れや検品も丁寧に対応する人ばかり。ちょっとしたほつれを取ったり、手紙を添えたり、限定切手を貼って送ってくれたりと、おもてなしのサービスも細やかで洗練されています。日本人が求めるサービスのクオリティは高いので、自然と鍛えられてきたのだと思います。

パーソナルショッパー自身が英語を使えることで、この鍛えられたジャパンクオリティを最初から全面にアピールできる ―― これはグローバルで戦う上で強みになると確信しています。

けど、今は純粋に、日本を背負って海外に出ていけることにワクワクしているというのが本音ですね。世界で大きな成功を収め、日本全体を元気にしたいです。