夏休み期間中の8月は、親子で楽しめる作品が積極的に上演される時期。今年、日本公演30周年を迎える『ピーターパン』や、四季劇場夏のこけらおとし公演として12年ぶりに東京に戻ってきた『美女と野獣』など、年齢層を問わず楽しめる「名作」に触れることができるチャンスです。

そんなこんなで、ほかの月以上にバラエティに富んだ作品がラインアップする8月、それぞれ特徴や作風がまった~~く異なる3本の舞台をご紹介しましょう。この3本をご覧いただけば、「演劇」の度量の深さがきっと実感できるはず!

『エリザベート』 - 耽美で、退廃的な世界観に酔う

ミュージカルといえば、ロンドンとニューヨークが二大聖地として知られているけれど、音楽の都・ウィーンも侮れない! そのウィーンミュージカルのすばらしさを日本に知らしめたのが、この『エリザベート』なのだ。同作のヒット以降、『モーツァルト!』『レベッカ』といったウィーン発信のミュージカルが日本で上演されるきっかけにもなった、金字塔的な作品でもある。今回は2000年に初演された東宝版の、10年の節目となる公演。

Photo by Leslie Kee

オーストリア・ハプスブルク家の最後の皇后、エリザベートのドラマチックな人生を追体験するだけでも一見の価値があるが、彼女の生き様に架空の存在であるトート(死の帝王)との愛憎劇を絡めて展開していくのがこの作品の最大の特徴。クラシックの盛んなウィーンらしい、メロディアスな楽曲も耳に残り、劇場からの帰路は頭のなかで劇中の音楽がくるくるとうずまいているかも?

ロンドンともニューヨークとも異なる、ウィーンミュージカルの真髄を知る

『エリザベート』
日程 2010年8月9日(月)~2010年10月30日(土)
会場 帝国劇場(東京・日比谷)
演出・訳詞 小池修一郎
脚本・歌詞 ミヒャエル・クンツェ
音楽 シルヴェスター・リーヴァイ
キャスト 朝海ひかる・瀬奈じゅん、山口祐一郎・石丸幹二・城田優、高嶋政宏、石川禅、村井国夫、田代万里生・伊礼彼方・浦井健治ほか
料金 S席13,000円、A席8,000円、B席4,000円

『ガラスの仮面』 - 北島マヤと姫川亜弓が舞台で対決!

(C)美内すずえ・白泉社

日本が世界に誇る少女マンガ『ガラスの仮面』で、演劇に興味をもった人は多いだろう。知らない人のためにちょこっと説明させていただくと、『ガラスの仮面』とは演劇を題材にした、美内すずえ作の人気コミック。1976年の連載開始以来、いまだその人気は衰えることはなく、国民的マンガのひとつといっても過言ではない(はず)。

その『ガラスの仮面』が、蜷川幸雄演出で音楽劇として上演され、好評を博したのは2年前のこと。以来、再演や続編を求む声がたたなかったが、ついにこの8月に続編がお目見えすることに! 今回、フィーチャーされるのは、『奇跡の人』。永遠のライバルであるマヤと亜弓が、『奇跡の人』のヘレン・ケラー役に挑み、対決する、原作でも人気のエピソードだ。2008年の前作に続き、脚本は青木豪、演出は蜷川幸雄が担当。マヤ役の大和田美帆、亜弓役の奥村佳恵、そして、月影千草役の夏木マリも前作に続いての出演となる。

人気コミックの世界観を生の舞台で体感!

『ガラスの仮面~二人のヘレン~』
日程 2010年8月11日(水)~8月27日(金)
会場 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉・与野本町) ※地方公演あり
原作 美内すずえ
脚本 青木豪
演出 蜷川幸雄
音楽 寺嶋民哉
キャスト 大和田美帆、奥村佳恵・細田よしひこ、新納慎也、香寿たつき・夏木マリ
料金 S席6,000円、A席4,000円

『サーフィンUSB』 - サーファーじゃない人たちによる、サーファーのためにならない、サーフィンコメディ

東京でも人気急上昇中の、京都発の劇団「ヨーロッパ企画」。リアリティがあり、くすりと笑ってしまう会話劇が魅力の同劇団が放つ待望の新作は、『サーフィンUSB』。サーファーじゃない人たちの、サーファーじゃない人たちによる、サーファーのためにならない、夏にぴったり(?)のサーフィンコメディだとか。

「まるで時間が止まったような、母親の胎内に戻ったような気分になる」というコンセプトが、舞台上でどのように昇華されるのか乞うご期待。ヨーロッパ企画の作品は、舞台上で繰り広げられる、ぬるく、意味のないように感じる会話が現代社会をそのまま映し出す鏡のようだと評されることが多い。一見、なんの変哲もないような言葉の応酬に、実はとても大切なことが隠されていたりする。劇場を出たあと、誰かととりとめもないことを話したくなるような感覚を覚える──そんなところがヨーロッパ企画の芝居のおもしろさのひとつだったりするのだが、はて、本作はいかに? 

ゆるい会話劇に見え隠れする、人生の機微

『サーフィンUSB』
日程 2010年8月4日(水)~8月15日(日)
会場 本多劇場(東京・下北沢) ※地方公演あり
脚本・演出 上田誠
音楽 木暮晋也
キャスト 石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力、山脇唯
料金 前売4,000円、当日4,500円

長谷川あや
大学時代から舞台にはまり、小劇団のストレートプレイから大型ミュージカルまでジャンルを問わず観劇。卒業後は出版社に入社し、編集者として活躍。1996年に退社し、現在はフリーライターとして、演劇専門誌や女性誌、情報誌などで読みものページを中心に執筆している

イラスト:gnk