都心で真冬のような冷たい雨が降った日、この日も立ち食いそばに出掛けた。向かったのは、九段下にある「むさしの」(東京都千代田区)。東京メトロ半蔵門・東西線「九段下」駅から徒歩5分ほどのところにある、小さな路麺店だ。皇居を背にして、首都高と平行に北に進むとすぐ見つかる。

「とろろこぶそば」(税込360円)

一風変わった料金システム

訪れたのはランチタイムに差し掛かろうかという、平日の11時50分くらい。玄関の傘立てには既に何本かささっていた。入り口は引き戸になっていて、手書きで「開業以来50年、利尻こぶと宗田かつおでダシをとった無化調の天然だし」であることが書かれていた。

中に入ると、店内は両側に着席カウンター。合わせて10席強だろうか。突き当り正面が厨房になっていて、客はこちらからズラリと一列に並んでいる。厨房の中にはふたり。その内の大将が、ひとりずつ客をさばくシステムになっている。

自分の番になれば、まずは口頭で注文。メニューは壁に貼られている。そこで合計金額を告げられるので、次に脇にある券売機でその金額分のチケットを購入して渡す。券売機は100~1,000円と10~90円のボタンがあり、例えば今回注文した「とろろこぶそば」(税込360円)だと300円と60円のチケットを買うという一風変わった仕組みとなっている。

優しい麺ととろろが染みわたる

そばはすぐつくられるので、その場で水をくんで待つ。お盆の脇には紙コップに入った輪切り唐辛子があるので、こちらはお好みで使いたい。

さすがこだわりのあるダシ。旨味もさることながら、甘くてコク深い。麺は、くたっと柔らかめ。胃にやさしそうな喉越し。とろろこぶもふんわりと甘く、今日のような肌寒い日にじんわり染み入る。お好みの輪切り唐辛子、また、卓上には別途「ゆず一味」もあるので、途中で風味を変えて楽しもう。

「むさしの」へは東京メトロ半蔵門・東西線「九段下」駅から徒歩5分

食べ終えて店を出る頃にちょうど12時。客の列は店外まで出るほどに伸びていた。「むさしの」は平日ランチタイムのみの営業とのことで、近隣のビジネスマンでないとなかなか足を運びづらい店ではあるが、近くに立ち寄った時のためにぜひ覚えておきたい一軒だ。

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。