今日紹介するのは、田町にある立ち食いそば屋「まるちょう」(東京都港区)である。田町駅周辺は、これまでもこの連載で紹介しているが、いずれも三田方面だったので、今回は駅前を攻めることにした。

「メンチそば」(税込390円)

缶ビール片手にそばで立ち飲みも

この店が入っているのは、森永プラザビル。その名の通り、森永製菓の本社が入ったビルである。その2階から地下1階は「森永エンゼル街」と名付けられており、銀行や文具店、書店などが入っている他、地下は飲食店に特化。昭和49(1974)年のオープン、当時の名残を今も感じさせるような昭和空間。焼き鳥や串揚げ、そして立ち食いそば兼立ち飲み屋として、この「まるちょう」も軒を連ねる。

店の仕切りは何もない。のれんすらも見当たらず、ただ一角にカウンターがあるのみ。よく見れば「○」印の中に「長」と書かれた看板があるのだが、酒のポスターやカレンダーなどで埋もれていてあまり目立たない。訪れたのは平日の11時前。客は誰もおらず、厨房には店主らしき人がテレビで甲子園中継を見ていた。

おもむろに近づいて財布を探りつつ、客であることをアピール。メニューはどこかと壁を見やると、ビールにハイボール……こちらは酒のメニューだった。そばのは、厨房正面の壁面に短冊が。たまご、きつね、わかめ……と当たり障りのない顔ぶれ。立ち食いそばのメニュー前で熟考するのも野暮かと思い、何の気なしに目に入った「メンチそば」(税込390円)を口頭注文した。

昭和にタイムリープ

水を汲み、カウンター左側のサブカウンターに陣取る(と言ってもひとりだが)。メインカウンターの奥側ドリンクケースには、缶ビールなどがギッシリ。定時を過ぎる頃には、プルタブを開ける音で賑やかになるのだろうか。

待つこと1分。商品と引き換えに代金を支払い。想像以上に真っ黒なツユである。ところが、これが信じられないほどほんのりとしたダシ風味。良く言えば上品、悪く言えば薄味。麺もうどんみたいな食感で、小さい頃に実家で食べていたような、慣れ親しんだ味。メンチカツも硬めで揚げおきだ。

「まるちょう」へはJR山手線「田町」駅三田口より徒歩すぐ

以上、どこにもこだわりがなさそうな味だが、たまにはこういうのもいい。最近の立ち食いそばはレベルが上がり過ぎていて、やれ十割だの、やれ変わりダネだの、気疲れしてしまう時もある。そんな中、味すらも昭和にタイムリープしたようなエンゼル街の一杯でリセットしてみては。

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。