前回に引き続き、東芝ソリューションで展開されている社内SNSについて、同社の半導体・液晶エンジニアリング事業部 半導体・液晶エンジニアリング部 参事 星野康久氏に話を伺う。星野氏はもうひとつの肩書として「経営変革エキスパート」をもつ。はたして社内SNSはこのきびしい経済状況の中、どれくらい経営変革に貢献できるのだろうか。

「他の社内SNSに比べても使用規約は厳しいと思う。そういった厳しさにあっても、SNSを使いたい、SNSは楽しいと思わせることが重要」と語る星野氏

SNS上で検討会を開いて成功

運営チームは、毎週社内SNSの状態について話し合ってきた。5名いると、さまざまな意見が出るが、やはり同じような意見に収束する危険性もある。そこで「運営チームだけでは管理者的な立場でしか見られないので、全国で検討会を」となり、SNS機能を使ってネット上で検討会を開催した。

検討会は、専用のコミュニティを立ち上げて、日時を設定し全国でいっせいにアクセスするという方法を採った。昨年の9月と11月に2回開催したが、1回につき約90名が投稿した。「テーマを振ると次々と書き込みがあがったので、1時間はあっと言う間だった」(星野氏)という。「この機能はどう使えばいいか」「こういう機能はないのか」などの質問のほか、SNSに対するさまざまな感想が寄せられた。

「SNSのおかげでコミュニケーションがとりやすくなった」「同じ部署にいて顔も知らなかった人と知り合えてよかった」「関係会社の知り合いが増えた」「誰がどのような仕事をしているのかが日記から伺える」などのコミュニケーション関係の感想のほかに、「業務を円滑にこなすためのツールととらえている」「業務連絡などで大いに活用している」と業務に活用し始めている人たちの意見も出た。

2回目のテーマは、自分たちの部署で活かしている「ワークシェア」だった。1つのトピックにつけられるコメント数には制限があるのだが、その時には20分で制限いっぱいまでついたくらい盛り上がった。近いうちに3回目も開催する予定だという。可能ならば月に1回程度、オフ会や検討会などのイベントを開催しようと検討している。

意見が出やすい社内SNS

星野氏は自分の業務全体のうち、1、2割くらいを社内SNS管理の時間に当てている。「ツールの良さであまり時間はかからないが、管理メンバーは5名くらいいると負担になりすぎずによいと思う」。

書き込みは、運営チームメンバーがチェックしている。10 - 15くらいの単語を制限ワードとして想定し、バックエンドのシステムを利用して文字列検索でヒットしたらメールがくるよう設定している。もっとも「書くことをなるべく制限したくない、本音を出してもらいたいと思っていたため、制限ワードは極力少なくした」と星野氏は語る。

事業部では毎年、1年の終わりに今年の十大ニュースを集めてランキング形式で出していた。しかし、それまでは出てくる意見が少なく、きちんと書く人が10名くらいしかいなかった。ところが、SNSで集めたところ、70人くらいが書いてくれて"本当の"ランキングが出せたという。ちなみに、そのときの1位は「社内SNSスタート」だった。

ランキング機能を使ってアンケート結果を公表する。情報共有のひとつのかたちだ

コミュニティやWikiで情報共有

コミュニティは40くらい立ち上がっている。業務系と趣味系は半々だ。趣味系は体育会系/文化系/飲食系があり、体育会系はゴルフ、ボーリングなど、文化系は音楽、車などで、飲食は飲み物、おいしい店などだ。これまでにオフ会が開かれたこともある。運営チームが主催したSNSの使い方オフのほか、飲み会オフなどだ。業務系は社内連絡用や、プロジェクトに密着した「○○プロジェクトコミュニティ」などがある。

Wikiはほとんどが業務系で、15件くらいある。編集するのはユーザー全員だ。専門的な手法や技術情報、開発したツールを添付してみんなで使えるようにしたりしている。とくに技術用語や技術知識に関しては、「自分だけの財産にせず、積極的に書き込むようにお願いしている」と星野氏はいう。今後の業務のためにも、当人だけがわかっているような状況では意味がないからだ。自分が当たり前だと思っていることでも記事として載せるようにすることで、その便利さが伝わり、少しずつ書き込みが増えていっているという。

SNSの"基本"ともいえるコミュニティが活発だと、SNS全体が盛り上がりやすい

Wikiによる技術情報の蓄積は今後、期待が寄せられる部分だ

掲示板を"つぶやき"の場に

ビートオフィスのトップ画面は画像を変更できるので、最近は、メンバーから投稿された写真の中から選んだものをトップ画像にしている。とくに腕に自信がある人の作品というわけではなく、オフ会での集合写真が選ばれたりする。「こういう画像だとお互いの顔を知るいい機会になります」(星野氏)。今後は継続的に掲載し、Wikiにバックナンバーとして登録する予定だ。

トップ画面は社内SNSの顔。入りやすく、親しみやすい雰囲気も重要だ

Q&Aには、技術情報に関する質問のほか、「結婚式のスピーチで何を言えばいい?」「サラリーマンのお小遣いはいくらですか」「お酒はビール派ワイン派?」などさまざまだ。参加メンバーの職場がばらばらで急を要するプロジェクトでも、社内SNSのQ&A機能を利用して情報を共有し、業務がスムーズに進んだこともある。

「つぶやき機能」を掲示板の代わりに使っている人たちもいる。「今日は○○に出張します」などと書かれているので、急いで連絡を取りたい場合などには便利だという。

今後は効率化&業績アップにつなげたい

ファシリテータとして、星野氏が一番嬉しかったのは「会社に来ることが楽しくなった」という声だ。会社で過ごす時間は1日のうちで一番長い。そこに楽しみがないと行きたいという気持ちにならないものだ。「社内SNSを会社の中での楽しみとして見つけてくれたのが嬉しい。ネガティブな話が出ることもあるが、まず会社に行こうと思えることが大事。その一つとしてうまく機能しているのでは」(星野氏)

今後については「ナレッジに力を入れたい。事業部全員で効率化し、業績に結びつけたい」と星野氏は強調する。コミュニケーションはすでに十分なほど活性化し、それを認められて、社内SNS活動は社内で表彰された。「コミュニケーションの活性化ができたのは、使う側が使いたいと思ったから。使う側が使う意味を感じてくれないと、理想とするナレッジの共有まではいけないだろう」(星野氏)

また、「今後は意識改革が課題」と星野氏は言う。「ワークスタイルチェンジング」というスローガンが立ち上がっており、会社の方針と沿った形で従業員の意識をどう変えていけるかが課題だという。「"星の囁き"というオフィシャルページがあるので、意識改革についての自分自身のメッセージを出していきたい」(星野氏)

社員の大半は、顧客の各拠点に駐在して仕事をしている。そのため、東芝ソリューション社員にもかかわらず、"顧客サイドの人間"という意識になりがちだった。しかし、事業部メンバーが方針を示すことで、社員らが"東芝ソリューションの人間"ということを意識し始めてきたという。直属の部長の顔をほとんど見ることがない若手も多いが、彼らが「自分は、東芝ソリューションの業績を上げるために働いているのだ」と自覚しはじめたのだ。「社内SNSでいきなりナレッジだけ蓄積させようとしても難しい。日記を書くことで社員がお互いを知り、困ったことがあったら聞いてもらえるような状態ができている。これをきっかけに情報共有まで拡げていきたい」(星野氏)

今後はさらに技術情報を拡充させていきたいとしている。その面で活躍しているのはどちらかというと協力会社のメンバーなので、プロパーがいかに使っていくかも課題のひとつだ。「担当を決めて、自分の部の技術情報をぜひとも載せていってほしいと思っている。ただ業務に負担をかけてはいけないのが難しいところ。それでも社全体のナレッジ共有のためにもぜひ実現したい」(星野氏)。