前回に引き続き、井筒屋 経営戦略室 経営企画担当 マネージャ 進雄二氏に同社社内SNSの利用状況について伺う。導入して1年が経ち、最初の試行錯誤の段階は過ぎた。今後はいかに経営効果に結びつけるかが課題となってくるが……。

「導入して1年、まだ経営層に対して『これだけの経営効果がありました』と報告できるほどの成果は、残念ながら出せていません。ですが、社員のつながりが密になることで、お客様、さらには地元に貢献できる部分が増えていくはず、と信じています」(進氏)

メッセージ、つぶやき機能が人気

「意外だったのが、メッセージの機能の使用が異様に高いこと」と進氏は語る。1人で1500 - 1600くらい送っている人もいるという。メッセージは圧倒的に女性の利用が多い。「日記やコミュニティへのコメントは男女差がない状態なのは、実名制という敷居の高さに起因するのかもしれません」

また、オフ会も非常に良く開かれている。近いところに住んでいる人どうしのコミュニティができてオフ会が開かれたり、"B型コミュニティ"オフがなぜか大きく盛り上がったり…など。ファシリテーターは意識的に参加していないが、店舗を超えた交流、今まで接点がなさそうな部署間での交流が生まれつつある。

コミュニティ数は現在70ほど。「今年4月、本店近くの伊勢丹が井筒屋になるため、『品揃えに関する意見を出し合おう』コミュニティなどもできました。元からある店舗と新しい店舗の品揃えを変えた方がいいか意見を出し合い、アイディアもたくさん出ました」

数日に1度の割合で日記をアップしてコメントが多くついている、いわゆる"アルファブロガー"もいる。そういう人たちが話題や場を引っ張っていくことがあるという。実名で経営陣批判の日記を書いている人もいて盛り上がるそうだ。写真掲載率は7割以上で、顔写真の他イラストや風景などを利用しているという。

今年になってTwitter風のつぶやき機能が追加されたが、人気が高い。「日記よりずっとハードルが低いため、気軽に書けるのが人気のようです。また、日記は残ってしまいますが、上書きするタイプなのもいいようです。つぶやかれている内容がすごくネガティブに振れているとかプラスに振れているとか、そのときそのときの社員たちの健康状態が見えますね」

公開範囲はマイフレンド限定となり、やりとりが続くこともある。「最初のハードルさえ超えられれば後はすんなり入ってこられるという手応えを受けました。このような扉をたくさん作ってあげたいですね」(進氏)

Wiki機能を活用

「インストール時には来てもらいましたが、あとはもっぱら電話で対応してもらい、バージョンアップも遠隔で行ってもらいました」(進氏)

社内SNS導入にあたっては、数社のサービスを比較検討した上で、ビートコミュニケーションの製品を選んだ。選んだ理由は、求めていた機能が基本的にすべて揃っていたこと、導入実績、価格なりによくできているところがポイントだったという。最も欲しかった機能は"簡易Wiki"だ。「日記や掲示板はフローの情報なので時間が経つと見つけづらくなります。将来的に貯めたい情報をWikiでストックできるだろうと考えて選びました」

Wikiは現在4つあり、コミュニティを立ち上げるように立ち上げて、社内プロジェクトの情報を固定化するためや、会社の中だけで通じる用語や業界用語、スラングなどを登録した用語集として使われている。

「今後、eラーニング的な使い方もできないかなと考えています。マニュアル的にすれば便利なのではないかと思うのです。接客対面販売は場数も必要だしOJTでなければならないですが、OJTのトレーナーどうしの情報交換などには使えそうです」

Wikiは気づいた人間が入力するようになっている。ポータルの中に窓があり、そこから行けるようになっているという。書き込みは登録が必要だが、閲覧は誰でもできる仕組みだ。

敷居を下げるのが課題

人材の流動が激しい百貨店業界においては、ナレッジマネジメントはこれから取り組まなくてはならない課題。「個人ではなく、会社にノウハウを蓄積するにはどういう手段があるのか、日々考えています。社内SNSはその有力候補のひとつですね」(進氏)

「社内SNSを使えば全員とつながることができ、ほかの人がもっている知識なども含めて共有することが可能で、実際にその状況が実現しつつあります。働いている人どうしが有機的につながっていて、いつでもアクセスできて、一瞬で知る人が対応できるようになればいいなと思っています。たとえば、『お客様がこういう品物を探していて、近いものがあるがこれじゃない。どうしたらいいか』などの問題を解決できるシステムになるのが理想ですね。

実際には"パソコンなんて触るのも嫌"という人もおり、最初の心理的抵抗を取り払うためにも、参加するハードルを下げていきたいです。何かのきっかけにハマる人もいるので、それを増やしていく方法は常に考えています。今後、高齢者や使っていない人に参加を促すために、操作方法の説明会などを開いていきたいですね。

メーカーから派遣されている人は井筒屋の社員数の3倍くらいいるので、将来的には加わってもらいたいと思っています。次のステップはどうしたらいいのかをSNSの中で見つけていきたいですね」

社内SNSは効果はあるものの外からは見えにくいところが課題だ。これから百貨店という形態でどのような使い方が広がっていくのかが楽しみだ。