前回に引き続き、広告制作会社である日本SPセンターの社内SNS導入事例を、同社ディレクターの薗田覚氏に聞く。

ファシリテータとして社内SNSの浸透にさまざまな手を尽くす薗田氏。「私はそれほどITに詳しいわけではなかったので、わからないことがあれば、何でもすぐにビートコミュニケーションに聞きました。相当うるさい客と思われたかもしれません(笑)」

毎月変わる、社員デザインによるログイン画面

「当初、コミュニティを作ったり、ブログ(ビートオフィス内のオフィシャルサイト: 公開と非公開を選べる)を作って情報発信をしてほしいと皆さんにお願いしていました。まだ実現していないものも多いです。ただ、始めると期待以上の内容になり、頻度の高い更新をしてもらえているものも出てきて、驚きました」(薗田氏)

「当社では、コミュニティよりも、個人が何かを発信するコンテンツが受け入れられ、オフィシャルサイト(=ブログ)が人気です。一方、日記がコミュニティ的に使われている感じですね」(同氏)

機能的に一番使われているのは日記だ。内容は仕事絡みやプライベートなど多岐に渡り、アクセスの原動力となっているという。広告を生業とする会社の特徴として、面白いことやトレンド情報の収集も仕事につながるので、そのような内容が多くなる。若手が仕事で失敗したという日記を書いていたら、大阪の、たぶん直接会ったことがないだろう先輩がフォローを入れる、といった交流が生まれたこともあったという。1日に5本くらいの日記が上がり、アクティブユーザー率はずっと変わらず3 - 4割をキープしている。

ログイン画面デザインにはGIFアニメーションが使えるようになっている。そこで、若手社員に練習を兼ねて順番にデザインさせ、毎月更新している。これにより、「みんなに見てもらえている」という喜びを得ることができるのだ。

日本SPセンターの社内SNS「デモデモ」のログイン画面は、社内の新人デザイナーに技術研磨を兼ね、月がわりでGIFアニメーションを制作させているという。左は2007年11月、右は同12月

不在を埋め、期待感を高める「動画」

「もともと動画を使いたいという気持ちがあったので、動画が使えるSNSサービスを探していたら、当時はビートコミュニケーションしかなかったというのが、決めた最終的な理由です」(薗田氏)。同氏が勤務するのは大阪なので、最初はビートコミュニケーションに大阪支社がないことが気になったが、実際はまったく関係なく、メールのやりとりのみですべて解決できたという。

同社は平面(紙媒体)とWeb関係の広告/販促を生業としている。「動画と関わるのは一部の社員に限られていたのですが、Webがこれだけ浸透してくると今後、クォリティの高い動画にも取り組まねばならなくなります。そこで、まずは経験の浅い社員に『動画はこんな簡単に使えて楽しい』という啓蒙をするために動画を取り入れました」(同氏)。当初は表示がうまくいかないなどのトラブルがあったが、その度にビートコミュニケーションに相談しながら進めた。

社内で勉強会を開いたときも、仕事の都合で参加できなかった人のために、言葉で伝えきれない部分を見てもらおうと、その時の様子を動画で見られるようにした。今後も、このようなケースを積極的に動画として公開していくことを考えているという。

動画活用例。社内研修の欠席者フォローとして講師の熱弁を臨場感とともに

会社が創立40周年を迎えたことを記念して、秋口に1泊2日で社員旅行として横浜から神戸をクルーズした。そのために作った"カウントダウン"ブログ内でも、動画は人気コンテンツだった。下見に行った社員が美しい景色や食事、インタビューなどを動画に撮り、随時アップしていったのだ。下見時に購入したお土産が当たるプレゼント企画を設け、抽選会の模様を公開するなどしたことも、盛り上げに一役買った。

これらのコンテンツはすべて20代の若手社員が作ったものだ。「彼等の発想には、ベテラン社員にはマネしにくい自由さがある。20代のクリエイティブパワーをどれだけ引き出せるのが成功の秘訣かもしれません」(同氏)。

社員旅行のためのカウントダウンブログやムービーアルバムも若手社員たちが遊び心たっぷりに作成。プロのクリエーターが手がけるだけあって、社内SNSとは思えないクォリティの高さに圧倒される。動画だけでなく、写真や文章など、表現力豊かな質の高いコンテンツが日々アップされており、アクティブユーザ率が高いのもうなずける

社内SNSには導入した人の"人格"が表れる

日本SPセンターのSNSは本名登録制だ。人を中心につながりをもちたいというコンセプトの下、顔写真の掲載や、プロフィールには、現在の担当案件や過去に関わった仕事について書くように推奨している。薗田氏は「今後、これを活用してお互いにやりとりをしてもらえるようになることを期待しています」という。

4月に新入社員4名が入社した。新人は教育の意味を込めて強制参加にした。日記を毎日書くことを義務づけたため、上司が新人の考えや悩みなどを知る役に立っている。全社視点での人事教育面でも意義があると感じているそうだ。「ある新人は口下手で上司がやきもきしていましたが、書き込みが大変充実しており、情報を発信する意識が高いとわかったことがあります。その人の対人スキルと、発信する情報の豊かさは必ずしも一致しないということですね」(同氏)。

会社の雰囲気をわかってもらえれば、と思い、入社契約の済んだ内定者も社内SNSに参加させた。「内定者どうしもここでやりとりできます。地方から出てきて住まいに困っている場合など、情報交換や先輩からのアドバイスのニーズはあると思います」(同氏)。

「社内SNSは導入した人の人格が出る、とある本で読みました。プレッシャーになりましたが、それなら自分が信じている感覚を出さないと後悔すると思ったので、このようなSNSにしました。やったらやっただけのことはあると思います。まだまだこれからが正念場ですが」と薗田氏は、最後に社内SNS導入の難しさとやりがいを語ってくれた。