【連載】

経済キャスター・鈴木ともみが惚れた、"珠玉"の一冊

12 ストラテジストの自己否定の書!? 広木隆氏著『ストラテジストにさよならを』

    鈴木ともみ  [2012/02/23]

    経済キャスターの鈴木ともみです。連載『経済キャスター・鈴木ともみが惚れた、"珠玉"の一冊』では、私が読んで"これは"と思った書籍を、著者の方へのインタビューを交えながら紹介しています。第12回の今回は、広木隆さんの『ストラテジストにさよならを~21世紀の株式投資論』(ゲーテビジネス新書)を紹介します。

    広木隆さんプロフィール

    上智大学外国語学部卒業後、大和証券に入社。その後、ファンド・マネジャーを志し、資産運用業界に転身。富士投信顧問、フィデリティ投信、JPモルガン・アセットマネジメントなど、国内系、外資系の運用会社を渡り歩き、株式投資の最前線に20年以上携わる。自らヘッジファンドを立ち上げ運用した経験も持つ。2010年9月、マネックス証券チーフ・ストラテジストに就任。豊富な資産運用の知識と経験に培われた明快な投資戦略が多くの個人投資家に支持されている。

    『ストラテジストにさよならを~21世紀の株式投資論』(ゲーテビジネス新書、広木隆著、定価743円+税)

    この連載もスタートから半年が過ぎました。

    多くの方々にお読みいただき、また感想なども届くようになり、嬉しい限りです。私自身もこの連載のおかげで、本屋さんへ通う回数も増え、怠けがちな性分に喝を入れてもらっています。その本屋さんで感じるのは、マネーや投資をテーマにした本棚にズラリと並んだタイトルが、ほぼ似たりよったりであるということです。

    そもそも株式やFXなど投資の世界で、常に勝ち続けることができる確実なハウツーなどが存在するものなのか? これは、私が日々、東京証券取引所から株式マーケットの実況中継を担当しているなかで、抱き続けてる疑問でもあります。

    そうしたなか、その答えのヒントをくれ、また他とは明らかに異なる斬新なタイトルの本を見つけました。それが今回ご紹介する『ストラテジストにさよならを』です。

    ストラテジストが自己否定? どういうこと?

    著者はマネックス証券 チーフ・ストラジストの広木隆さん。

    ストラテジストの方が「ストラテジストにさよならしなさい」とはどういうことなのでしょうか? まずはそこから探っていきましょう。

    ストラテジストとは簡単に言えば、株式市場全体の動向を分析し、相場見通しを立て、その相場観に基づく投資戦略を提示する職業だ。英語の「ストラテジー(strategy)」は日本語に訳せば「戦略」という意味。「投資戦略を立案する人」=ストラテジスト、である。(中略)かつてファンド・マネジャーをしていたころは、個人投資家の方と直接お会いする機会はほとんどなかった。現在はレポートへの反響や講演会での質疑応答など個人投資家の声に接することが多い。そうした<投資家の生の声>に触れて気がついたのは「これまで株式投資でいい思いをしたことがない」「いろいろ努力しているが儲からない」「なかなか損切りができず、塩漬けに悩んでいる」というひとが大勢いるということだ。
    なぜ個人投資家の多くが儲からないのか?
    成功体験が少ないのはどうしてなのか?
    そこにフォーカス(焦点)を当ててみようと思った。株式投資についてはいろいろ書籍が出ているが、ほとんどは「こうやれば儲かる」という内容だ。然るに、どんな投資であろうと、常に勝てるオールマイティのやり方なんてない。本書でお伝えしたいメッセージのひとつは「投資に限らず、この世に絶対確実なことは何ひとつない」ということである。
    市場の見通しも株価の予想も半分以上は外れるものと思ったほうが良い。「それでは身も蓋もない」「何のためにストラテジストという職業はあるのか?」という声が聞こえてきそうだが、それが事実である。では、予想もできないならば株式投資で儲けることは無理なのか?いや、そうではない。この世に絶対確実なことは何ひとつないのだ、と肝に銘じて相場に臨むことが投資で成功する要諦なのである。そこを理解するのとしないのとでは投資の方法論がまるで異なってくる。
    本書では「個人投資家がなぜこれまで儲からなかったのか」を徹底的に分析することを通して、株式投資の本質を浮かびあがらせる。失敗に学び、負けない投資のやり方を提唱する。(「はじめに」より抜粋)

    負けない投資手法の提唱。ストラテジストである著者の広木さんはまず、「個人投資家がなぜこれまで儲からなかったのか」について第I部の第1章「20年続く下り坂の経済と株式相場」、第2章「「長期投資」の誤解」第3章「個人投資家が陥りがちな「塩づけ」の罠」において、わかりやすい具体例を用いながら解説しています。

    「株でなぜ儲からないのか」については、投資家の心理面に負うところが大である。古典的な経済学やファイナンス理論の多くは、投資家が合理的な判断をもとに行動することを前提にしているが、実際には違う。「人間は合理的に考えることができるが、合理的に行動できるとは限らない」という言葉があるが、合理的に考えることさえできないのが実際のところだ。(中略)
    顕著な例を挙げよう。とても入手が困難な、いわゆるプレミアム・チケットを知り合いからタダでもらったとしよう。(中略)歌舞伎? 宝塚? 韓流スター? 嵐? AKB48? なんでも良いのであなたのお気に入りのスターが出演するイベントが開催される、そのイベントの高価なチケットをもらったのである。(中略)ところがイベントの直前、あなたがお目当てにしていたスターは急遽、出演をキャンセルしたことが分かった。おまけに、外は大雪の悪天候。あなたはそのイベントに行きますか?
    大抵のひとは「それなら行かないや」と答える。しかし、そのプレミアム・チケットがタダでもらったものではなく、あなた自身が徹夜で並んで大枚をはたいて買ったものだとしたらどうだろうか? 大抵のひとが「行く」と答えるのである。(中略)行こうと行くまいとお目当てのスターは観られない。それなのに、自分で買ったものかタダでもらったものかで行動が異なる(中略)
    ゲーリー・ベルスキーとトーマス・ギロヴィッチは共著「賢いはずのあなたが、なぜお金で失敗するのか」(日本経済新聞出版社)でこう述べている。
    「将来のことを決定するとき、人びとは過去の行為に縛られていることが非常に多い。(中略)つまらない本を最後まで読んでしまうのは、すでに途中まで読んでしまったからであり、登場人物がどう生きるかを知りたいからではない。退屈な映画でも最後まで席を立たないのは、チケットを買ってしまったからであり、楽しんでいるからではない。(中略)値上がりしない株を持ち続けるのは、いくらで買ったかが忘れられず、その株を『終わり』にするのが我慢できないからだ」(「第3章 個人投資家が陥りがちな「塩漬け」の罠」より抜粋)

    上記で引用されているゲーリー・ベルスキー氏とトーマス・ギロヴィッチ氏の共著「賢いはずのあなたが、なぜお金で失敗するのか」を始め、同書にはチャールズ・エリス氏著「敗者のゲーム」、ナシーム・ニコラス・タレブ氏著「ブラックスワン」「まぐれ」、バートン・マルキール氏著「ウォール街のランダム・ウォーク」など、数多くの海外の著者による文献の一節が紹介されています。その点も理解を深める上でのスパイスとなり、効いてきます。

    (ちなみに、個人投資家の皆さんから好評を得ているマネックス証券『Strategy Report』でも、広木さんは海外の文献から特筆すべきメッセージを紹介しています。株式相場と真剣に向き合いたいと考える投資家の皆さんにとっては、要チェック! のレポートです)。

    個人投資家が儲からなかった理由の一つ「プロとの圧倒的な情報格差」

    さらに、広木さんは「個人投資家がなぜこれまで儲からなかったのか」その理由の一つに「プロとの圧倒的な情報格差」を挙げています。同書のタイトル『ストラテジストにさよならを』と直結する第4章「頼るものがない」を読み終えた私は、胸のすくような感覚を覚えました。ご紹介しましょう。

    個人投資家の悩みのひとつが、いかにして有益な情報を入手するかということだろう。個人投資家は情報入手という点において、プロと比較して圧倒的に不利な立場にある。にもかかわらず、プロも素人も戦う土俵は同じ市場である。この情報格差が原因で個人投資家は負けるべくして負けてきたという主張もある。(中略)
    ベストセラー「ブラックスワン」(ダイヤモンド社)の著者で知られるナシーム・ニコラス・タレブはその前作「まぐれ」(ダイヤモンド社)のなかでこう述べている。
    「コメンテーターの類についていえば、やつらが成功するかどうかが、確かに言ったことがどれぐらいの頻度で当たるか、どれぐらいの頻度で外れるかで決まる(べきである)。この手合いには、テレビに出てくる大手投資銀行の『チーフ・ストラテジスト』なんかも含まれる。なんのことはない、連中は芸人にすぎないのだ。名前が売れていて、筋が通ったことを喋っているような気がするし、数字を振り回して向かってくるけれど、効能からいえば、連中の仕事は芸をお見せして人を楽しませることだ。だいたい、何かの予測に意味があるのは、統計的に実証可能な形で予測が示されるときだけだ。連中はというと、厳密な実証にもとづいているかどうかではなくて、むしろプレゼンテーション能力なんてものが勝負の分かれ目になってしまっている」(中略)
    身も蓋もないが、ストラテジストは(私を含めて)みんな能力的には五十歩百歩だろう。能力というのは相場の先行きを占う能力である。本当に相場を当てられるならひとに教えたりしないで自分で相場を張るか、ヘッジファンドを運用したりしたほうが良いに決まっている。だから自分で相場を張っていない人間の相場予想は話半分に聞くべきだろう。(中略)
    運用会社の人間がメディアで相場観を語る目的は何か、筆者にはよく理解できない。あり得るのは「ポジション・トーク」だろう。ポジション・トークとは自分のポジションに有利な方向に相場が動くように、市場心理を揺さぶる発言をメディアに流すことを言う。ただし、ポジション・トークが効果を発揮するのは、それだけ市場に影響力のある著名投資家に限られる。それ以外の人物が、やたらメディアで発言するのは、推測するに「自己顕示欲」によるところが大であろう。市場に影響を与えるポジション・トークにもならず、また自社の運用の妨げにもならない、つまりは毒にも薬にもならない情報に価値はないと言える。(第4章「頼るものがない」より抜粋)

    「『有名人=一流のプロ』かと言えば、そうではない」

    この歯に衣着せぬシャープな記述については、その真意を直接伺わないわけにいきません。広木さんに伺いました。

    広木隆さん

    「この仕事をしていると、個人投資家の方から批判的なコメントを寄せられたりもします。例えば「自分は一流のプロの言うことは聞く」ということを言ってくる方もいました。それで、その一流のプロとは例えば誰か? と伺えば、なんてことはない、朝の経済情報番組などに出演している方々の名前を挙げるのです。確かに彼らは視聴者・投資家の皆さんにとっては、有名人かもしれません。でも、『有名人=一流のプロ』かと言えば、そうではない。個人投資家の方から、スタッツ・インベストメントやエピック・パートナーズ、ホライゾン・アセット・インターナショナルのような、日本で実際に稼ぎ続けているヘッジファンドや、それらのファンドを運用するマネジャーの名前が出てくることはありません。なぜなら、彼らは金融危機後の今もしっかりとしたパフォーマンスを見せているプロ中のプロですが、メディアに登場することはありませんから」

    なるほど。目から鱗(うろこ)…。現実を直視した見解です。では、専門家とされるストラテジストやエコノミストの意見を話半分に聞くというのであれば、個人投資家の皆さんは何を頼りに投資を行えば良いのでしょうか?その点についても伺いました。

    「どんなものでも基本が大切です。それは投資も同じ。まずは投資の基礎、投資理論を学ぶこと。難しい理論や学術的なことではなく、基本的な理論を表層的になぞるのではなく、徹底的に、深く、根本的に理解できるまで学ぶことが大切です。こうした『サイエンス』の部分を押さえた上で、相場観やチャートなど『アート』の部分を押さえてください。私自身は、チャート分析のみでは、将来の株価を予測できないと考えています。チャートは過去の推移を検証し、他の市場や銘柄と比較するためのもので、その比較のなかで、現在の位置を確認、把握するために使います。どれだけ分析を重ねても、結局、相場は運や偶然に左右されるところが大きいのも事実です。ただ、この運や偶然は、不思議と日頃から投資理論を把握し、テクニカル分析も怠らない、そういった基礎固めを着実にしている投資家の元に降りてくるものなのです」

    上記の話は、詳しく同書の「第II部どうすれば儲かるのか?」第6章「投資の理論を知る」第7章「(ROE・PER・PBR)株式投資の評価尺度を学ぶ」、第8章「大局観を持つ」、第9章「正しい長期投資は『売る』ことである、第10章「分散投資とリスク・コントロール」で詳しく解説されていますので、ぜひ何度も読み返し頭に入れておくことをおすすめします。

    同書を読み終え、広木さんのお話を伺ううちに医師である知人の、ある言葉を思い出しました。

    「今、メンタルヘルスという言葉が頻繁に用いられているけれど、メンタル面のトレーニング、ましてや診療や治療に近い分野になると、症状や効果が見えにくい世界だけに慎重にならないといけないはずなんだよね。例えば心療内科医や精神科医は、基礎の医学を学び、医師国家試験に合格後、その学術や臨床をもとに、疾病の診察、治療、投薬を行う。臨床心理士は心理学系の大学院を卒業しないとその資格を得られない。しかし、それ以外の認定資格はあいまいなものも存在する。以前、心療内科医、臨床心理士、人気メンタルトレーナーらが集うシンポジウムに出席したけど、ディスカッションでの差は歴然としていた。しかし、素人の観客たちは、メディアに数多く登場しているその人気トレーナーのもとに寄っていくから不思議だった。もちろん、トレーナーの中には、アメリカでしっかりと基礎と実践を学んだ本物の人もいる。ただ、少々の実践経験と、わかりやすい成功例をもとに、単に存在がキャッチーで、自分を表現するプレゼンが上手いというだけで、メディアが取り上げる。そこが日本のダメなところだね」

    メディアに関わる一人として、深く反省するに至った言葉でした。

    プロ・専門家が必要とされる世界では、どの分野においても、フェイクが存在するのかもしれません。気持ちや行動を揺さぶられずに生きるためにも、私たち一人ひとりがその本質をとらえ、本物を見極める目利きになることが不可欠な時代なのでしょう。投資術とともに、そんな人生の教訓を学ぶこともできる一冊です!

    『ストラテジストにさよならを~21世紀の株式投資論』

    ◆はじめに
    ◆第I部 なぜ株は儲からなかったのか?
    第一章 20年続く下り坂の経済と株式市場
    第二章 「長期投資」の誤解
    第三章 個人投資家が陥りがちな「塩漬け」の罠
    第四章 頼るものがない
    第五章 それでも株は儲かる
    ◆第II部 どうすれば儲かるのか?
    第六章 投資の理論を知る
    第七章 株式投資の評価尺度を学ぶ
    第八章 大局観を持つ
    第九章 正しい長期投資は「売る」ことである
    第十章 分散投資とリスク・コントロール
    ◆最終章 投資とは不確実性を相手にするゲーム
    ◆おわりに

    【関連リンク】

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    執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

    経済キャスター、ファィナンシャルプランナー、DC(確定拠出年金)プランナー。 中央大学経済学部国際経済学科卒業後、ラジオNIKKEIに入社し、民間放送連盟賞受賞番組のディレクター、記者を担当。独立後はTV、ラジオへの出演、雑誌連載の他、各種経済セミナーのMC・コーディネーター等を務める。現在は株式市況番組のキャスター。その他、映画情報番組にて、数多くの監督やハリウッドスターへのインタビューも担当している。

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