前回、阪神間の路線について、ほぼ阪神電車びいきの目線(筆者は阪神沿線在住)から書かせていただきました。今回も阪神電車の話です……。それも武庫川線という、阪神間とは思えないたいへんローカルな路線の思い出話を、つらつら書きつづりたいと思います。

阪神武庫川線の電車はいわゆる「赤胴車」だが、すべて各駅停車

2km足らずの区間を、2両編成の電車がのんびり走る

阪神本線の武庫川駅は、駅のほぼ全体が武庫川に架かる橋の上にあり、ちょっと"掟破り"(?)な雰囲気さえ漂う駅です。出入口は武庫川を挟んで西宮市側・尼崎市側にそれぞれあり、武庫川線とは西宮市側で接続しています。

阪神武庫川線は全長1.7km。16両編成の新幹線(全長約400m)が4編成あれば、起点から終点まで届いてしまいそうなくらい、ものすごく短い路線です。この路線には起点・終点も含めて4つの駅があり、駅間は平均して600m程度。所要時間はわずか5分。全線単線で、2両編成の電車がのんびりと往復しています。

起点の武庫川駅を出た電車は、東鳴尾駅、洲先駅、そして終点の武庫川団地駅と、本当にあっという間に着いてしまいます。この路線を舞台に『阪急電車』みたいな小説を書こうにも、恋が芽生える時間なんて全然ありません。若い男女が出会ったとしても、

「あの……」
「えっ!?」
車内放送「次は●●、●●、終点です」

……こんな感じです(笑)。中間の2駅は無人駅なので、そもそも誰とも出会わないことのほうが多いのでは? と懸念されるところです。

子供の頃、「プチ最果て感」漂う洲先駅へ行くのが「冒険」だった

阪神武庫川線は昔、武庫川駅からさらに上流側へ線路が延び、国道2号線のところで路面電車の阪神国道線と接続していたそうです。その名残なのでしょう。いまも武庫川駅の北側には線路跡が残り、国道2号線付近まで不自然に細長い住宅地が続いています。それよりもっと昔には、国鉄(現JR)の甲子園口駅付近まで貨物線がつながっていたそうです。

武庫川駅。一段高い所を阪神本線の電車が走る

武庫川駅の北側に線路跡が残る

筆者は子供の頃、この武庫川線から程近い、ある古い公団住宅に住んでいました。当時は自転車で武庫川の下流まで行くのが、筆者にとってちょっとした「冒険」でした。

その頃の武庫川線はいまよりさらに短くて、洲先駅までしかなかったのを覚えています。その先は広い広い空き地で、そのさらに先は海。「洲先」という駅名自体、子供心に「プチ最果て感」のようなものを覚えていました。ここに来ると、なんとなく寂しい気分になってしまい、家が恋しくなるので、帰りはいつも自転車を漕ぐペースが早くなったものです。

現在の終点、武庫川団地前駅

その後、武庫川線沿線では団地ができ、自動車教習所ができ、堤防の外まで埋め立てられ、工場がたくさん建って、いまでは阪神高速道路も通るようになりました。

かつて洲先駅付近に漂っていた「プチ最果て感」も、いまは全然ありません。洲先駅自体、いまでは単なる住宅密集地の中の駅です。武庫川線の線路が武庫川団地前駅まで延びたため、終着駅でもなくなってしまいました。

武庫川線で運行される電車の本数は、阪神間の路線の割にさほど多くありません。阪神本線へ接続する武庫川駅も特急が止まらない駅なので、正直、バスで甲子園駅まで出たほうが早い場合もあります。とはいえ、線路が敷かれ、事故などない限り定時運行が行われることへの安心感は、何物にも代えがたいと思うのですね。鉄道があるというのは心強いものです。

ただ、この路線は終電が早いです。帰宅が遅くなったときなど、阪神本線の電車はまだ走っているのに、武庫川線の電車だけが終わっていることもしばしば。しかしまあ、それでも線路沿いに歩けば帰れる距離なんですがね。なにせ、「新幹線4編成分」ですから。