もう40代後半になってしまった筆者ですが、いまだに新幹線に乗ると俄然テンションが上がります(まだまだお子様ですね……)。今回は新幹線、いまとなっては「昭和の象徴」のような存在になった0系の思い出を、つらつらと書きつづってみたいと思います。

初めて見た0系は「羽根のない飛行機や!」

引退直前の新幹線0系が走り去っていく

初めて新幹線に乗ったのは、まだ小学校に上がる前。横浜に住んでいた親せきの家へ行ったときです。まるで飛行機のような電車に乗り込み、関東まで行くという、それまであまり経験したことのない大旅行に、子供ながらテンション上がりまくりでした。

新幹線は筆者が生まれ育った場所の近くを走っていましたが、幼稚園児だった頃は実物を見たことがほとんどなく、絵本で見るとか歌で聴くとか、そんなものでしかありませんでした。行動範囲が狭いので、それも当然かもしれません。同様に飛行機もあまり身近でない乗り物でしたが、こちらは何度か見ていました。たまに父が、飛行機を見るため伊丹の飛行場へ連れていってくれたからです。

新幹線に初めて乗車した日、新大阪駅のホームに入ってきた0系を見て、「羽根のない飛行機や!」と思いました。車内に入ると、もうなにもかも未来の世界です。中でも記憶に残っているのが、銀色に鈍く光るステンレスの便器……。おぼろげに憶えていた万国博覧会のイメージでした。

0系にはビュッフェがあって、そこには大きなスピードメーターがありました。赤い針が動くアナログ式で、走行中に時速200kmの少し上を示していました。

日頃、父の運転する自動車のスピードメーターは時速140kmまで表示されていましたが、実際に走行するときは、時速100kmを少し超す程度。昔の日本車は、そのあたりで「キンコン、キンコン」と警告音が鳴ったのですが、それがたまに鳴るくらいの速さです。幼い頃の筆者は、それまで体験したことのない「120」「140」の世界に憧れがありました。もしかしたら、なにかものすごい世界がそこにあるのかも……、と空想したものでした。

早朝、六甲トンネル付近を駆け抜ける0系をとらえた

その数字を軽々と超え、時速200km以上で走る新幹線0系。信じられない速さです。でも車と違って、タイヤが弾む音も、エンジンのうなる音もありません。流れる景色も遠くにあり、窓辺をかすめていくような物もないので、正直なところ、いまいちそのスピードを感じられませんでした。「ワクワクしないな、憧れていたものとはちょっと違うな」と、子供のくせに生意気なことを思っていました。

でもそれ以来、新幹線は筆者の心をわしづかみにしていました。疾走する新幹線を外から見るかっこよさ、とくに夕暮れ時に走り去る姿が大好きでした。

夕闇に映える大きな赤い目、バチバチと猛烈なスパークを飛ばしながら、世界を置き去りにするかのように走る後ろ姿は、科学技術とダンディズム、さらに哀愁みたいなものまで凝縮されていました。武庫川の国道脇から六甲トンネル方面へ走り去る夕暮れ時の0系は、異次元に向かってワープするようで、いまでも夢に見るほどすばらしい風景でした。

いつかこれを撮りたいとも思いましたが、若い頃は腕も知識も機材もなくて実現せず。2008年、0系は山陽新幹線「こだま」での運用を最後に引退しました。

現役引退する0系を追いかけて

筆者は現役最後の姿を撮りたいと思い、六甲トンネルの入口付近までカメラを担いで行ったことがあります。朝4時に起きてスクーターに乗り、出勤前に戻ってくるというスケジュールで……。六甲トンネル付近では、トンネルの入口の上が公園になっています。厳重に金網が張ってあるものの、500mmのミラーレンズで撮ると、手前の金網は大幅にピントから外れるので、ほとんど問題なく撮れるのです。

秋も深まる夜明け前、「こんな寒い所で、一体自分は何をしているのだろう?」などと考えつつ、0系を待ちました。周囲が明るくなってきた頃、朝もやのレールの先に、丸い「ひかり」のボンネットが(実際は「こだま」)。でも実を言うと、「やった! 撮れる」より、「これで帰れる!」という喜びのほうが大きかったのは内緒です(誰に?)。

トレーラーで運ばれる0系先頭車両。この車両は吹田操車場跡地に保存されたという

それから半年ほど経ったある日、ラジオを聞いていたら、「0系の最後の1両が吹田市へ運ばれる」という情報をつかんでしまいました。「しまいました」というのは、うれしい反面、「またカメラ持って待機か……」という気持ちも少し入っていたからです。不確かな情報をもとにルートを予測し、不安を抱えながら待機しました。

真夜中を過ぎて、突如現れた巨大なトレーラー。最初は台車だけを積んだ車両がやって来ました。その後しばらくして、ついに現れました。0系です。荷台に後ろ向きに積まれ、国道を走っていきます。横幅3m40cm・長さ25mの車体は、道路で見るとやはり桁外れに大きいものでした。そんな0系の姿を、夢中になって写真に収めた筆者。気がつけば夜が明けていました。もちろんその日の仕事は休みました……。