3月16日に行われたダイヤ改正で、大阪近郊でも「絶滅危惧種」となっている国鉄色の特急形電車、183系(元485系)がラストランを迎え、引退しました。国鉄色といえばクリーム色と深い赤色。上品で、しかも速そうで。「特急」(特別急行)の名が示す通り、特別な色でした。もちろん筆者も、国鉄時代からの特急列車に憧れを抱いたものです。

485系を改造した特急形電車183系。窓下に細い赤帯が入っている以外、ほぼ国鉄時代のままのカラーだった

キハ58系よりも、キハ81系の「特別急行列車」が憧れだった

筆者は兵庫県生まれの兵庫県育ち……と言いたいところですが、実際には小学校3年生の秋から小学校卒業まで3年余り、和歌山県のとある町に住んでいました。自宅の裏側には紀勢本線の線路があって、筆者が住んでいた頃、「ブルドッグ」の愛称を持つキハ81系による全国最後の特急「くろしお」が活躍していました。

畑の向こう、山の中腹を走り抜けていくボンネット型のその特急列車は本当に速そうに見えて、子供心にいつか乗ってみたいと思っていました。でも実際には、兵庫県の祖母の家に行くときに乗るのは、いつも急行「きのくに」。クリーム色と朱色に塗り分けられたキハ58系も、それはそれで端整な顔立ちで、いまとなっては非常に懐かしい車両なのですが、それでもやっぱり、当時の憧れは特急「くろしお」なのでした。

念願の「くろしお」に乗れたのは、それから十数年も後のこと。大阪で就職した後の、職場の慰安旅行でした。筆者がその旅行の幹事を任されてしまい、それならばとごり押しで(笑)「特急『くろしお』で行く南紀勝浦ホテル浦島の旅」に決めたわけです。

当日、特急「くろしお」を前に、ひとりだけ「テンションだだ上がり!」の筆者。紀勢本線が新宮駅まで電化されるのと同時に登場した振り子式車両381系は、その頃すでに年季の入った車両になっていましたが、春先の紀伊半島の海岸沿いを快走する様は、まさに筆者が思い描いた通りの「特別急行列車」でした。

周囲の同僚たちの不思議そうなまなざしもなんのその、すっかり「鉄ちゃん」モードに入ってしまった筆者。電車酔いしてうなだれる同僚を相手に、「振り子式車両の素晴らしさ」を熱く語ってドン引きされるも、じつに充実した旅行となりました。

最近はハイカラな車両ばかり…国鉄色183系は「心のオアシス」だった

自然の中を走る国鉄色の特急列車

ところで国鉄時代末期、特急「くろしお」は381系のほかに485系が使われたこともあったらしいです。重心が高く、振り子式でもない485系の「くろしお」は、スピードも上げられず、所要時間が急行とあまり変わらなかったとのこと。結局、わずかな期間で撤退してしまったそうです。

先日引退したJR西日本の183系は、民営化後に交直流特急形電車485系を改造し、直流専用にした車両で、見た目は485系とほぼ同じ。車両そのものにあまり詳しくなかった筆者は、実を言うと最近まで183系と485系、さらに381系も含めてごっちゃに考えていて、単に「国鉄色の特急列車」というくくりで考えていました。鉄道ファン以外だと、そういう人は意外と多いかも……。

かつて国鉄色の車両ばかりだった特急「くろしお」も、最近は次々に新型車両が投入され、車体色もホワイトにグリーンのハイカラな色になって、かつての「特別急行列車」の独特のオーラがあまり感じられなくなってしまいました。そんな中、北近畿方面の特急「こうのとり」(かつての「北近畿」)などで見かける183系の国鉄色の車両は、鉄道旅行の楽しみを思い出させる「心のオアシス」だったのです。

まあ、183系がいなくなった後も381系が残ってがんばるみたいなので、もうしばらく国鉄色の特急列車の雄姿を楽しめそうですが。それでもやっぱり、「またひとつ、昭和が遠くなってしまった」ような気がしてなりません。