「地球最後の秘境・深海はどんな世界? - しんかい6500パイロットに聞いてみた」はコチラ

2015年10月10日(土)から放送中の連続ドラマW「海に降る」(WOWOW)。JAMSTEC(海洋研究開発機構)の全面協力のもと、有村架純さん演じる女性初のパイロットが、さまざまな葛藤と戦いながら深海に挑む様子が圧倒的リアリティで描かれ、毎週見逃せない展開になっている。監督は山本剛義さん。なんと自ら2015年4月、有人潜水調査船「しんかい6500」に乗り、沖縄近海の潜航調査に同行している! ジェームズ・キャメロン監督がマリアナ海溝に単独潜航しているが、本格的な深海調査潜航は山本監督が「世界初」だ。

前回までは「しんかい6500」のプロフェッショナル深海パイロット、大西琢磨さんのインタビューをお届けしたが、山本監督の深海体験は、より私たち一般人の目線に近い。監督が「もう出たい!」と感じたほどの恐怖とはいったいどんなものだったのか?

潜航1カ月前に乗船決定 - プレミアチケットとは知らなかった

初めて日本人監督として「しんかい6500」に乗り、沖縄近海の潜航調査に同行した山本剛義さん。WOWOWにて放送中の連続ドラマW「海に降る」の監督を務める

――そもそも、なぜ監督が「しんかい6500」に乗船することになったのですか?

山本(以降、敬称略):「しんかい6500」完成25周年を記念した番組の企画募集があり、ドラマ撮影のために応募した企画が採用されて、潜航する機会が得られました。元々はカメラマンを乗せようと言ってたんです。でもせっかく乗せて頂くのにカメラマンがずっと船内だけを撮っていてもしょうがないし、船内でのパイロットの所作を見たり、雰囲気を体感するには監督が乗ったほうがいいんじゃないか、ということで乗せて頂くことになりました。

――その話が来たのはいつ頃ですか?

山本:今年の3月ぐらいにドラマの企画が通りまして、潜ったのは4月18日です。

――じゃあ、ドラマ化が決まってすぐですね?

山本:けっこう早かったですね。「しんかい6500」に乗るには、研究者の方が何年もかけて研究提案しなければならないほどの「プレミアチケット」で、一般の人が乗りたいと思っても乗れるものではないということを、その後取材してから知るわけですが、最初にプロデューサーから話を頂いた時は知らずに「あ、そうですか、乗りますか」と(笑)

―― なんと、ラッキーな! 羨ましすぎます。乗船が近づいてくるとどう思いましたか?

山本:実際ちょっとこわかったです。船酔いはするほうだし、「カメラマンが乗ってくれた方がいいんじゃないか」ぐらいに思っていました。しかも国の研究費を使って研究者の方もなかなか乗れない機会だと知ると、責任重大です。でも、とにかく船内でのパイロットやコパイロットの方たちの動きや様子をつぶさに見て、自分がどういうふうに思うのか、それが主人公の気持ちとリンクすればいいのかなと。

――自分が実際に体験して感じた気持ちを、主役の有村さんに伝えるのが目的だと?

山本:そうですね。何に一番、不安を感じるのか。物語の中で主人公は色々なトラウマがあって、「しんかい6500」の潜航に失敗するんですけど、その失敗のきっかけになるものが何なのか。自分が乗った時に何が一番不安に感じたかということとうまくリンクさせられれば、と思ったんです。

潜航の朝、「パイロットが2人死んでも監督1人で上がってきてください」と聞かされて

――なるほど。では潜航の様子を教えてください。当日の朝は何を?

山本:朝8時頃、支援母船「よこすか」でミーティングをして、「命に何かあってもJAMSTECは責任を持ちません」という誓約書にサインをします。そして船内でパイロット2人に何かあった時でも自力で脱出できるように、説明を受けるんです。具体的には船内にエマージェンシーのボタンがあって、「これを左から押してください」と(エマージェンシーボタンについては大西さんのインタビュー連載第2回のコックピット内の写真を参照してください)。

エマージェンシーのボタンを左から押していくと、順番に色々なものが「しんかい6500」から外れることで、潜水船の浮力を大きくして海面まで戻ってくる仕組みになっているんです。すごく基本的な脱出方法で、それが一番安全であると。「パイロットが2人死んでも、これを押して監督1人で上がってきてください」と聞かされた時に「そんなことないよね!?」、「そんな説明されること自体が不安なんだけど」と(笑)。

――その時、初めて聞いたんですか?

山本:そうです。「一番わかりやすいボタンですから」と言われて。思わず「もう1回教えてもらっていいですか? 右から押したらダメなんですか?」と聞き直しました(笑)。

――ビビりますよね…でいよいよ内径2mのコックピットに乗り込むわけですね

山本:はい。中に乗り込む。でも上の扉があいてる間は「狭いな」ぐらいに感じてました。

――失礼ですが、監督は身長はどのくらいですか?

山本:180cmです。

――コックピットは内径2mの球形ですよね?

山本:はい。だから常に誰かのひざがぶつかっている状態です。皆さんそれが当たり前だと。パイロットの松本恵太さんは僕より大きいと思いますよ。必ず誰かと当たっているので、ひざも腰も伸ばせない。とにかく狭いんです。

――ギュウギュウ詰め状態…で、扉が閉まると?

山本:圧迫した空間の中で扉が閉まった瞬間に、緊張感がありました。外の音がまったく聞こえなくなるし、もう出られないんだと思うと、急に不安になったんです。その不安な気持ちは有村さんに伝えて「(コックピットの)ふたがしまる瞬間にピークを持ってきてほしい」と伝えました。

――扉を閉めるときは「髪の毛一本はさまっても水が漏れる」というセリフがドラマでもありましたね。実際、作業する運航チームにも緊張感があるんですか?

山本:ええ、水が漏れるので、チームが一番ナイーブになる瞬間です。海に100mも潜るとコックピットに何かあってもすぐに外から救援できないし、中からも脱出できない。何日分かのライフサポートはあるけど、命の保証はない。そこが宇宙と深海の大きな違いです。宇宙船は何かあれば外から救出できますからね。だから、「しんかい6500」の扉の開け閉めに関しては、実際に乗るとき以外は絶対に撮影させてもらえませんでした。他はなんでも撮らせてくれたんですけど。それだけ重要なんだ、と説得力がありました。

連続ドラマW「海に降る」より。有村架純さんが日本人初の「しんかい6500」女性パイロットを演じている。ロケの多くはJAMSTECの実際の施設を使って行われた (C)WOWOW

有村架純さん演じる天谷深雪は、初潜航に失敗、広報課で働くことに (C)WOWOW

息苦しさ + 暑さ + 揺れ、そして「出してくれ」という気持との葛藤…

――記者会見では、扉を閉めたとたん「息苦しさを感じた」とも言われていましたね?

山本:扉が閉まると、「完全な密封された球」の中にいることになる。人間が吐いた二酸化炭素は吸収する浮き輪みたいなのが上にいっぱいあるし、酸素は医療用酸素ボンベみたいなものから、ぽこぽこ出ている。でも閉まった瞬間に、空気が薄くなった気持ちがしたんですね。

沖縄での潜航だったから気温が高い上に、潜るときに着る潜航服が(深海での防寒着も兼ねているので)ものすごく暑い。汗だくの状態でぴたっと扉を閉められて、密封された内径2mの球の中で男3人。息苦しいし熱いし…

――うわぁ…そのまま支援母船「よこすか」から吊り下げられて、着水するんですね?

山本:そう。着水するまでの揺れがものすごいんです。外は見えず、目をつぶってずっと揺らされているような状態です。しかも、なかなか着水しない。さすがに気持ち悪くなって「もうそろそろ潜りますか?」と聞いたら「いや、今(ドラマのために)撮影しているからまだ潜らない」と。「うちの撮影のせいだったのか! 早く撮ってくれないかな」と(笑)

――それは笑えますね。息苦しくて暑くて、揺れて…しかもなかなか潜らない(笑)

山本:今、「出してくれ」って言ったらえらいことになるのかな、と色々考えたり。

――「出してくれ」と言いたくなるほどキツかったんですか?

山本:僕は出たかった。「今言えば誰かに変わってもらえるかな」、とまで思ってました。

「しんかい6500」に乗るという千載一遇のチャンスを得ながら、冷や汗たらたらで「出してほしい」という最悪の船出となった山本監督。この危機をどう乗り越えるのか? パイロットの秘策は意外なものでした。次回の掲載は11月6日の予定です。お楽しみに!

(第2回は11月6日に掲載予定です)