2010年6月にMicrosoft SharePoint Server 2010(以降、SharePoint Server 2010)がリリースされた。SharePoint Server 2010は、情報共有およびビジネスアプリケーションの基盤となるマイクロソフトの製品。SharePoint Server 2010は非常に多機能な製品ですが、本連載では最もよく利用される機能の1つであるファイル管理を中心にわかりやすく解説します。

SharePoint Server 2010が持つ機能の全体像

SharePointは、Web上で情報共有などを行うサーバ製品であり、ユーザーはWebブラウザから利用します。

SharePoint Server 2010の画面

たとえば、手軽なWebページの作成、ファイル共有、動画配信などが可能です。またOffice 2010であれば、SharePointとの連携機能を利用して、ファイル作成を複数のメンバーで共同で行い、作業を効率化することもできます。SharePoint Server 2010には非常に多くの機能が搭載されており、次の6つに分類できます。

機能エリア 説明
ポータル ポータルサイトとして利用できます。Wikiベースのページ編集が可能であるため、HTMLを詳しく知らなくても、Webページの編集作業が比較的簡単に行えます。また、多言語対応、モバイル対応、オフラインでの利用なども可能になっています。
ソーシャルネットワーク 自分専用のポータルサイト(個人用サイト)を持つことが可能です。また、気に入ったコンテンツ(ファイルやページなど)に任意のタグを追加したり、評価(星印をクリック) したり、コメントを残すことが可能です。こうした行動は、個人用サイトに記録されるようになっているため、タグを追加したコンテンツをアクセスすることなども可能です。
コンテンツ管理 デジタルコンテンツ(画像、動画)の管理やファイル共有、バージョン管理、メタデータ管理、自動仕分けなどさまざまな文書管理機能を利用できます。
検索 SharePointに搭載されている検索エンジンを用いて、SharePointサイト内のコンテンツだけでなく、共有フォルダやWebサイトなどの文書ファイルを検索するなど横断的な検索が可能です。また、組織内のユーザー情報を検索することなどもできます。
可視化と分析 SQL ServerのReporting Servicesとの連携や、Excel Services、PerformancePoint Servicesによるデータ分析と分析結果からの洞察などが可能になっています(Excel Services、PerformancePoint Servicesは、SharePoint Server 2010 Enterprise Editionのみの機能です)。
コンポジット SharePoint Designer 2010、InfoPath 2010、Visio 2010、Access 2010などのOffice 2010クライアントアプリケーションとの連携による機能のカスタマイズや拡張が可能です。また、SharePointのオブジェクトモデルが公開されているため、Visual Studio 2010を使った高度な機能拡張もできるようになっています。

これだけ豊富な機能をプラットフォームとして利用できるSharePoint Server 2010ですが、本連載では最も多くの方が利用される「コンテンツ管理」機能のファイル管理について説明していきます。

SharePointを利用する前に

SharePointの機能説明をする前に、SharePointに対する製品の捉え方を説明しておきましょう。よく誤解されるのが「SharePoint Server 2010は、マイクロソフトのグループウェア製品である」ということです。実際には、"あくまでもグループウェア的にも利用できる"と言った方が正確です。グループウェアとしての機能の完成度を追求している製品ではありません。たとえば、一般的なグループウェアに搭載される主な機能としては次のものが挙げられます。

・電子メール
・掲示板
・スケジュール管理
・設備予約
・ワークフロー

これらの機能を利用したい場合は、SharePointだけで利用可能な場合もあれば、SharePoint以外のマイクロソフト製品等と組み合わせて利用することが必要になる場合があります。たとえば、次の通りです。

機能エリア 説明
電子メール SharePointそのものに電子メール機能はありません(電子メールとの連携機能はあります)。そのため、Exchange Serverなどの電子メールシステムと連携させて利用することになります。
掲示板 SharePointが標準で持つ「お知らせ」ページを利用することが可能です。
スケジュール管理 SharePointの標準機能として利用できます。ただし、比較的簡易な機能であるため、高度なスケジュール管理を行う場合は、Exchange ServerとOutlookを組み合わせて利用する方が適していることがあります。
設備予約 SharePointの標準機能として利用できます。ただし、これも比較的簡易的な機能であり、より高度な設備管理を行う場合は Exchange ServerとOutlookを組み合わせて利用する方が適していることがあります。
ワークフロー SharePointにはワークフローを実行するためのフレームワークが搭載されています。SharePointのカスタマイズに利用する、SharePoint Designer 2010(無償ツール)を使って、コーディングすることなく簡易的なワークフローをカスタム構築したり、より複雑な処理をするワークフローをVisual Studio 2010を使ってコーディングしたりできます。また、ワークフローに関しては、SharePointに対応したサードパーティ製品も数多く存在します。

以上はあくまで一例です。 以前のバージョンまではWebグループウェアとしての機能を拡張するSharePointサイトテンプレートとして、「GroupBoard Workspace 2007」が提供されていましたが、SharePoint Server 2010では、標準でこの機能が内包されており、上記以外にも「電話メモ」、「回覧板」、「タイムカード」、「行き先掲示板」などの機能が標準で利用できるようになっています。ただし、グループウェアが標準的に持っている機能とほぼ同等の機能は利用できるとはいえ、先に述べたように6つの機能エリアに分類される豊富で汎用的な機能を様々組み合わせて利用できるアプリケーション基盤として利用することに主眼が置かれており、機能の一部に過ぎません。そのため、単にグループウェアとしての機能だけ比較すると製品機能を見誤ってしまいます。

SharePoint Server 2010内に占めるグループウェア機能のイメージ

一般に、SharePointは「どんな製品かと聞かれると、一言で説明しづらい」とよく言われます。理由は、グループウェアであれば利用したい機能が明確であるのに対し、SharePointの場合は決まった使い方があるというよりは、さまざまな基本機能を組み合わせて色々な用途に使用できるプラットフォームとして活用していくものであるため、「どう使っていくか」という"発想"がものをいい、利用形態が組織によって異なるからです。イメージとしては、プラモデルを組み立てるというよりも、複数パーツを組み合わせて好きな形にできるレゴブロックに近いのではないかと思います。

SharePointの使い方を適切に捉えるには、基本機能を一通り把握したうえで、業務の中でどのように利用できそうかを考えることが重要です。日本人は、存在している機能は全て使わなければならないと考える傾向にあるようですが、使いやすい機能や必要な機能のみを使って適切なシステムを構築するという「採用する機能の取捨選択」も重要です。また、SharePointはカスタマイズ性や拡張性が高いため、まずは利用目的を明確にしてから、そのあとで基本機能プラスアルファとしてカスタマイズや拡張性の限界などを考慮していくとよいでしょう。

SharePointのエディション

SharePoint 2010には、次の3つの製品があります。

・SharePoint Server 2010 Standard Edition
・SharePoint Server 2010 Enterprise Edition
・SharePoint Foundation 2010

以上のうち、SharePoint Foundation 2010は無償提供されます。SharePoint Foundation 2010だけでもSharePoint Webサイトを作成して利用することは可能ですが、あくまで提供されるのは、SharePointが持つ基本的な機能のみです(SharePoint Foundation 2010は有償製品ではないため、マイクロソフトの技術ドキュメントなどでは「SharePointテクノロジー」と呼ばれることがあります)。一方のSharePoint Server 2010は有償製品であり、SharePoint Foundation 2010の基本機能をベースに、機能拡張や機能の追加などが行われています。たとえば、SharePoint Foundation 2010では検索範囲がSharePoint Webサイト上のコンテンツ (ファイルなど) に限定されるのに対し、SharePoint Server 2010では共有フォルダ、Webサイト、Exchange Serverのパブリックフォルダなどを含めて検索対象にできるなど、横断的な検索ができるようになっています。

SharePoint Server 2010には、Standard EditionとEnterprise Editionの2種類があります。最上位のエディションがEnterprise Editionであり、SharePoint Server 2010の持つ機能をフルに利用できます。Enterprise Editionを利用する場合は、Enterprise CAL(クライアント アクセス ライセンス)が必要となります。一方のStandard Editionを利用する場合は、Standard CALが必要であり、Enterprise Editionと比較すると一部の機能が利用できません。ただし、コンテンツ管理機能のエリアに限っては、Standard EditionもEnterprise Editionも機能面での差異はほとんど見られません。

各エディションの機能の比較については、次のURLに公開されている自習書を参考にしてください。

Microsoft SharePoint Server 2010 SharePoint Foundation/SharePoint Server 機能比較ガイド

山崎 愛(YAMASAKI Ai) - オフィスアイ 代表取締役

1999年よりマイクロソフト認定トレーナとして、マイクロソフト製品の技術教育に従事し、システム管理、.NETアプリケーション開発などに関する研修コンテンツの企画、開発、実施を行う。2008年4月にオフィスアイを設立。現在は"SharePoint Server"に特化したコンサルティング、技術研修、ソリューション開発およびサイト構築支援などを行っている。 2004年に米MicrosoftよりSharePointの分野にて日本初のMicrosoft MVP(Most Valuable Professional)として表彰され、以後現在まで連続受賞。主な書籍に、「ひと目でわかるSharePoint Server 2007(日経BPソフトプレス)」、「VSTOとSharePoint Serverによる開発技術(翔泳社)」がある (いずれも共著)。