そして画像91は、リスクアセスメントおよびリスク低減の反復プロセス(ISO/IEC Guide 51:1999)だ。この図で簡単にリスク分析とリスクアセスメントを説明すると、スタートの下の「意図する使用および合理的に予見可能な誤使用の明確」→「ハザードの特定」→「リスクの見積もり」までがリスク分析となる。これにさらにその下の「リスクの評価」までを加えると、リスクマネジメントになるというわけだ。

画像91。リスクアセスメントおよびリスク低減の反復プロセス

続いては、ISO13482リスク低減方策へのアプローチの具体的事例だ。これは先程の画像92を具体的に熱を例とした形だ。まず要求事項は「ロボットから発せられる熱からユーザーを保護しなければならない」である。これに対してシートなどを使ってリスクアセスメントを実施し、その結果、リスク低減が必要であるとされば場合、3ステップ法に従うと、(1)熱源を極力排除、(2)熱源に直接触れないようガードをつける、(3)時間が経てばガードも熱を帯びてくるので、ガードであっても長時間触れていると火傷する恐れが出てくることから、ガード表面に注意事項をマーキングすると共に、取り扱い説明書にも説明文を記載する、となるわけだ。

しかし、ロボットから発せられる熱とはいっても、瞬間的に触っただけで火傷するような温度もあれば、長時間触れていると低温火傷するような温度、さらにはどれだけ触っても温かい程度の火傷には至らないような温度だってあるだろう。必要もないのにガードしても費用がかさむだけだし、ガードするにしても熱源が持つ温度によっては、どのような素材を使うのがいいかといったところも変わってくるはずである。すると、いったい何℃だと火傷する恐れがあるのか、もしくは火傷する恐れが低いのかという判断が必要となるわけだ。

ただし、先程も説明したようにISO13482はとても曖昧な書き方しかされていないため、類似規格を参照しなければならない。そこで、広く受け入れ可能なリスクの一例として、医療機器用の安全規格「IEC60601-1」の11.1.2「装着部の温度」になら具体的な試験方法であるとか、基準の温度は何℃にするのかといったことが書かれているので、それらを活用して設計し、妥当性確認する必要があるのである。

ISO13482は曖昧な表現であり、この類似規格を参照するということが必要になるわけだが、これまで述べてきたようにそれはなかなか難しいことで、別のいい方をすれば、「規格要求事項の咀嚼の難しさ」という課題というわけだ。

従来の製品で適用する製品安全規格には、規格策定時にリスクアセスメントが実施されているので、すでに具体的な数値などによる「評価基準」が明示されている。つまり、ISO13482のような曖昧なものとはなっていない。家電にしろ、AV機器にしろ、自動車にしろ、なぜそのようなことができるかというのは、長い歴史の中で事故や危険事象などの膨大な蓄積情報があり、それを基にして製品ごとに要求事項における評価基準が作成されているからである。よって、新製品ごと(ジャンルとしてよほど従来にない新しいものであればまた違うだろうが)にわざわざリスクアセスメントをして基準値を決めるような必要はないのだ。

それに対し、サービスロボットは歴史が浅いどころか、まだ掃除ロボットぐらいしか市場が形成されていないわけで、当たり前だが事故や危険事象などの蓄積情報も非常に少なく、メーカーが新しい製品を作る度にリスクアセスメントを実施して基準値を求めていかないとならない。そこに大きな課題がある。

現状では、この基準値をメーカーが試験などを行って、まずリスクアセスメントをベースに求めるのはこれまで説明してきた通りだが、実際のリスクの許容範囲内に収まっているのかどうかという点は実は曖昧な部分があるのだ。もちろん、試験を行って確認された上で導き出しているわけだから、その数値が危険性を減らすために有効なものであるのは事実なのだが、厳密にいえば、安全マージンを取り過ぎている可能性もあるわけで、そうなると保護方策に余分に費用をかけてしまう可能性がある。現状、さまざまな数値が最適解なのかどうかが誰にもわからないのが現状であり、最適解を決めるため、データベースの早い段階での充実が重要であり、それが大きな課題、目標というわけだ。

次は話が変わって、メーカーが認証を受けたい場合、どのような流れとなるのかが紹介された。大きな流れとしては、まず認証機関、つまりJQAに相談をするところからスタートする。なぜ相談が必要かというのは、要求事項の解釈とすり合わせの作業、つまりどういう要求事項を適応したらいいのかといったことが必要だからである。

この要求事項の解釈とすり合わせはとても重要なのはいうまでもない。なぜかというのはこれまで散々触れてきた通りで、ISO13482は具体的な数値などが書かれているわけでなく、「概念的な規格」であることが理由だからである。なぜ概念的かというのは、これまでの講演の中でも触れたが、サービスロボットの市場が形成されていって、現時点では想像もつかないようなサービスロボットが将来、登場してくるかもしれないことを考慮したからだ。

またどの評価項目を適用させるのかを決定するという意味合いもある。ISO13482が扱うサービスロボットは移動作業型(その中で操縦中心型と自律中心型の2種類に分かれる)、人間装着型、搭乗型の3種類があることはすでに紹介済みだが(画像92)、よくよく考えると、同じサービスロボットとはいってもかなりタイプが異なり、本来なら異なるジャンルとして扱うべきロボットたちでであることがわかるはずだ(ISO13482は改良が続けられており、次のステップではそれぞれ別個に分けて対応する予定)。

画像92。サービスロボットは3タイプ。移動作業型は操縦中心と自律中心に分類される場合もある

ともかく現段階ではサービスロボットとしてひとくくりなわけだが、例えば装着型の開発をしている場合、移動作業型や搭乗型にしか関係ない安全規格は必要がないのはいうまでもない。よって、ISO13482の評価項目の中からどれを選ぶ必要があるのかを選ばなければいけないというわけだ。規格の選別を行うというのは、それだけでも一仕事となってしまうわけで、相談する方が早いというのはよく理解できるところである。

さらに評価項目を決定してもそこで終わりではなく、評価基準もメーカーが自分たちで決定しなければならない。何をもって要求事項を満足させたとするのかを決める必要があるのである。その上、検証(試験)方法も決めなければならず、安全検証センターにロボットを持っていって「試験をお願いします」で済んでしまうわけではなく、メーカーが自分たちでありとあらゆることを決め、つまりは「解釈とすり合わせ」を行わないと、認証作業にすら進めないのがISO13482の大きな特徴なのだ。そうしたことからも、相談が必要なのがわかっていただけることだろう。

こうして要求事項の解釈とすり合わせの作業が完了して初めて、実際の評価に移る。評価の内容は、提出または現地での「ドキュメント評価」、安全検証センターなどの試験所において、もしくはメーカーの施設にJQAスタッフの立ち会いなどによる「実機評価」、さらに製造現場などの「現地評価」が行われる。そしてそれらを基にレポートが作成され、問題がなければ認証となるわけだ。

また評価に必要な資料の例というのも紹介された。大別すると、「試験用サンプル品(サービスロボット実機一式)」、製品関連および設計監理関連の「評価用資料」ということになる。製品関連の評価用資料として少佐を述べると、「リスクアセスメントレポート」、「各種仕様書類」、「電気回路図」、「機械図面」、「パーツリスト」、「取り扱い説明書」など。設計監理関連としては、「教育訓練記録」、「不適合製品の管理手順」、「調達購買管理基準・記録」などである。

JQAの評価スタッフは、要求事項への適合/非適用などを文書において確認する形だ。つまり文書や記録は認証の証拠として扱うため、出典が明確である必要がある。逆をいえば、出典が不明確な場合は評価用資料としては扱えないというわけだ。さらに当然といえば当然だが、文書や記録は管理される必要もある。購入品の仕様書や認証書なども入手してファイルし、固有の識別番号とページ番号なども必要だ。また、事前に自社で行った試験レポートは評価用としては扱えない点も注意が必要。自社施設で試験を行い、それを評価用として用いる場合は、JQAの評価スタッフが立ち会う必要があるのである。

最後は、これまでも安全検証センターを中心とした生活支援ロボット実用化プロジェクトの組織関連図を紹介してきたが、詳細なプロジェクトの運用体制が紹介された(画像93)。JQAはもちろん、比留川部門長の所属する産総研や、藤川室長の所属するJARIなどの位置付けもこちらでわかる。図中では組織名はすべて略称で紹介されているので、前述の3組織以外も合わせて紹介しておく。

画像93。プロジェクトの成果の運用体制

左上の安全情報DBの枠にあるRT-SICとは、安全検証センターのこと。その下の調査研究機関のMSTCは一般財団法人 製造科学技術センターで、その下の機能安全・開発支援機関のJCは日本認証株式会社、中列の上側のJARAは一般社団法人 日本ロボット工業会、右上の研究機関の中の安衛研は独立行政法人 労働安全衛生総合研究所の略称である。

JQAとしては、これまで(同講演が行われた6月の時点で)3例の認証を行ったわけだが、まだまだ件数が少なく、今後はもっと新しい形のサービスロボットが出てくると思われることから、どう評価するかという点では悩ましいところがあるという。そうした点から、産総研、安衛研、名古屋大学などのプロジェクトに参加している研究機関や、JARI並びに安全検証センターと連携を取って、またメーカーにはJCに協力を得たり、安全情報DBなども活用してもらったりしながら、今後も認証作業を進めていきたいとした。

次回からは講演の最後となる、パナソニック プロダクションエンジニアリングの久米洋平氏による「離床アシストベッド「リショーネ」のISO13482認証取得実例」をお届けする。